読書日和

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「サブマリン」伊坂幸太郎

2016-04-18 21:07:36 | 小説


今回ご紹介するのは「サブマリン」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
陣内さん、出番ですよ。
『チルドレン』から、12年。
家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちと、罪と罰の物語。

-----感想-----
※「チルドレン」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

この作品は2004年に刊行された「チルドレン」の続編となります。
先日本屋に行ったらこの「サブマリン」があり、帯を見て「チルドレン」の続編だということが分かりすぐに購入しました。
「チルドレン」がかなり読みやすく面白い作品だったので「サブマリン」も面白く読めるのではと思いました。

物語の中心人物は陣内と武藤で、二人は家裁調査官をしています。
作品を通しての語りは武藤です。
家裁調査官とは家庭裁判所の職員であり、犯罪をおかして家庭裁判所に送られてきた少年少女と裁判所内で話をしたり、家裁での審議の結果保護観察処分などの観察処分となった少年少女の家庭を定期的に訪問して話をして経過を観察するのを職務としています。
「チルドレン」の後、武藤は異動して陣内とは別の職場になったのですが、今回の異動先ではまた陣内と一緒になったとありました。
陣内武藤のコンビ復活で、冒頭から小気味いい会話が繰り広げられていました。

「そういえば、武藤、びっくりするくらいがっかりな情報を仕入れたんだけどな」
「異動してきて、また陣内さんと同じ職場になった時の僕も、かなり、びっくりがっかりしましたよ。あれ以上ですか」

こういった会話を見てすぐに陣内の破天荒な性格を思い出しました。
この作品では陣内は45歳くらいとあったのですが破天荒ぶりは変わっていないようです。
今回も陣内は自由気ままに振る舞い、武藤は振り回される展開になるのかなと思いました。
ただ陣内が主任の試験を受けて合格し、主任になっていたというのには驚きました。
家裁の調査官は主任のもと三人で一チームの「組」として職務に当たることが多いらしく、現在は陣内と武藤、そしてもう一人の木更津安奈とともに三人で組となって職務に当たっています。
木更津安奈は武藤より若いとのことで、感情が表に出ない捉えどころのない人とありました。
破天荒ではた迷惑な陣内とよく分からない木更津安奈に挟まれ、武藤は職場では溜め息交じりに天井を見上げてばかりとありました。

この作品では陣内・武藤と頻繁に関わる二人の少年が登場します。
一人は無免許運転で歩道に突っ込みジョギング中の中年男性を死なせてしまった19歳の棚岡佑真。
陣内には「棚ボタ君」と呼ばれていました。
もう一人は小山田俊という高校一年生で、脅迫文をあちこちに送って社会を騒がせていたのですが、ある時自主しました。
現在は「試験観察」という処分になり、武藤が定期的に小山田俊の家を訪れて様子を見ています。
主にこの二人との関わりを通して物語が進んでいくことになります。

小山田俊はネットに精通していて、試験観察中なのに犯罪まがいなことをよくするのですが、ネットで犯行予告をする人達を調べていたら「これはどうやら本当に反抗期に及びそうだ」と思う犯行予告を見つけ、武藤に教えてきます。
近々事件が起きるので、武藤が犯人を見つけたり犯行を止めたりしろと言うのです。
戸惑う武藤ですがやがて小山田俊が教えてくるネットの犯行予告と関わっていくことになります。

棚岡佑真については本人が事故のことを全く話さないため、武藤は事故現場に足を運び事故の時のことを調べていきます。
この事故現場には盲導犬を連れた永瀬という盲目の男も来ていて、永瀬は陣内に頼まれて「交通事故の目撃者のおじいさん」を探しに来ていました。
棚岡佑真の担当は武藤になったのですが陣内もこの少年の事件に興味を持っているようでした。
また、陣内は自身が担当した昔の事件でこの少年と関わったことがあるかもしれないことが分かりました。

棚岡佑真のことを調べていくと10年前の小学生時代に友達三人組で歩道を歩いていた時に車が歩道に突っ込んできて、棚岡佑真の隣にいた栄太郎という友達が死亡していたことが明らかになります。
かつての交通事故被害者が今度は全く同じ事故の加害者になるという展開になりました。
また、その時のもう一人、田村守という少年の存在が注目され、棚岡佑真のことを知るために陣内と武藤は田村守のところに話を聞きに行きます。

その頃、陣内の不審な動きが話題になります。
木更津安奈が喫茶店で、陣内がおそらくアパートの大家と思われる年配の男性と話しているのを見て、どうやら大家さんの遺産の相談に乗っていたようだと言うのです。
ただ陣内の古くからの友人である永瀬は「それは陣内らしくない」と言っていました。
普段の陣内ならそんな話は伏せておいたりしないで大々的に自慢しまくるはずだと言っていて、たしかに陣内の性格からしてそうだろうなと思いました。
また永瀬の奥さんである優子も一年ほど前、陣内が年上の男と難しい顔をして何かを喋っているのを見たことがあると言っていて、一体陣内は何を話しているのか気になりました。

この話では陣内・武藤とよく関わっていくことになる人物としてもう一人、若林という青年が登場します。
若林は少年時代に交通事故を起こし人を死なせてしまったことがあり、その時に家裁調査官として若林を担当したのが陣内でした。
小山田俊がネットの犯行予告を見て「これは本当に実行するのでは」と言っていた場所に陣内と武藤が行った時に事件が起き、その事件がマスコミに報じられたことで若林が陣内の名前を見て懐かしくなり会いに来ました。

武藤の印象的な言葉で「この世の中の大半のことは、関係なくもない」というのがありました。
陣内と若林が飲みに行くことになって、若林とは全く面識のない武藤を陣内が一緒に連れて行こうとして、陣内が「お前とも関係なくはないんだよ」と言った時にこの言葉が出ました。
ちなみに飲み会では枝豆料理専門店に行ったのですが、そういったお店は今まで見たことがなかったので興味深かったです。
枝豆料理専門店、作中に出てきた料理が美味しそうで一度くらい飲み会で行ってみるのも良いかもと思いました。

やがて全く別々に見えた小山田俊、棚岡佑真、若林の話につながりが見えてきます。
これは伊坂幸太郎さんの作品でよく見られる「別々に進んでいたいくつかの話があるところで混ざり合い、うなりを上げて動き出す」が思い浮かびました。
ただ今作は殺し屋が出てくるわけではないので、「さあ、いつ別々の物語が混ざり合うんだ」と期待しながら読むというより、気が付いたらいつの間にかつながっていました。

物語が佳境になると棚岡佑真がなぜ歩道に突っ込んだのかが明らかになります。
やはり単なる事故ではありませんでした。

陣内の「ネットに細工」の話も面白かったです。
陣内が犯罪少年に対して間違った持論を展開した時「そんなの嘘だ」と言われたのが悔しかったらしく、小山田俊に頼んでネットに陣内の持論が正しいかのようなサイトを作らせようとしていました。
そしてそのサイトを元に「ほら、俺の意見が合ってるだろ」とする目論見です。
これはネットに限った話ではなく、もっともらしく発信された情報媒体を見るとそれが嘘であっても信じ込んでしまうということが往々にしてあります。
この「ネットに細工」の話は序盤で出てきてなかなか気になるものだったので、これは物語が進んでいくとまた登場するのではと思ったらやはり再登場しました。
そこではネットの細工が炸裂していました。

物語の終盤、普段は破天荒ではた迷惑な陣内の意外な温かみに触れて涙を流す人が立て続けにいました。
ある人は陣内に「友達」と言われたのが嬉しく、ある人は陣内が到底覚えてはいないだろうと思っていた約束を覚えていて実現させてくれたことに感動し、またある人は落ち込んでいる時に陣内がかけてくれた言葉に感動して涙を流していました。
陣内は困った人ですが、人を感動させることもあるというのがこの終盤の怒濤の展開で表されていました。
終わり方が良く、読み終わった後に爽やかな気分になりました。
またいつの日か陣内・武藤の活躍を読んでみたいです。


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