読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「100回泣いても変わらないので恋することにした。」堀川アサコ

2017-08-03 18:33:01 | 小説


今回ご紹介するのは「100回泣いても変わらないので恋することにした。」(著:堀川アサコ)です。

-----内容-----
「第一部」
地方都市のしがない学芸員として働く手島沙良は、仕事の途中で体長15センチの謎の小さなおじさんを発見する。
彼の名は槇原伝之丞。
孤独な人間にしか見えない存在だという。
なりゆきでその願いを叶えるハメになった沙良だが―。
ひょんなことから出会ったイケメンは訳ありで、街に伝わる河童伝説が蘇ったり、あげく殺人事件発生?
彼女の平凡な日常は今、涙とともに変わり始める。

-----感想-----
手島沙良は23歳で静謐館という私立博物館の学芸員をしています。
沙良の街には明治時代に私財を投げ打って桜花公園を造った槇原伝之丞(でんのじょう)という偉人がいます。
ある日沙良は桜花公園で街歩きツアーのガイドをしている時、体長15センチほどの槇原伝之丞の姿を見ます。
明治時代の偉人がなぜか小人くらいの大きさで登場し、沙良は驚いていました。

静謐館は貝森温泉グループという企業が経営していて、職員は館長と北村爽快(さわやか)と沙良の三人しかいないです。
館長は穏やかな人で、北村は名前は爽快ですが性格は全く爽やかではなく、ネチネチと沙良に嫌味を言ってきます。

沙良が子供の頃に父は早世し、母は沙良を義理の親に預けて手島家を出てしまいます。
この母親の仕打ちは酷いなと思いました。
沙良は母が出て行ってからは祖父母と三人で暮らしています。

やがて槇原伝之丞が沙良の部屋に現れます。
沙良は伝之丞のことを「おじさん」と呼ぶようになります。
伝之丞はひとりぼっちの人にしか見えないようで、沙良に自身が家族にどう思われていたかを調べてほしいと頼みます
沙良は伝之丞のことを調べ始めます。
まず県立博物館に行ってみると伝之丞の妻の手紙があり、散々な言われようになっていました。
さらに図書館で見つけた本でも曾孫の槇原剛から散々な言われようになっていました。
私財を投げ打ち立派な公園を造ったものの家を困窮させ没落させてしまった伝之丞は、家族や子孫からは疎まれていました。

沙良は目の前を歩く男がバッグに穴が空き荷物を落としていたので拾ってあげます。
男は遠野ワタルと言いフリーライターをしています。
これがきっかけでワタルとは一緒にご飯を食べに行ったりするようになります。

伝之丞が沙良を「河童屋」に合わせます。
河童屋は小太りの中年男で、桜花公園で「河童屋」という石焼き芋屋をしています。
かつて桜花公園の真ん中を小束川(こたばがわ)という川が流れていました。
小束川には河童童子、別名小束川河童明神という水の神がいて、河童屋はその化身です。
ただし今は支流の小束川の源流である大束川に棲む大束川河童の呪いによって小太りの中年男の姿から元の姿に戻れなくなってしまっています。

沙良の前に母の澄子が18年ぶりに現れます。
沙良は「澄子にはモード雑誌と自己啓発書以外の本は読まないという気配がある。」と胸中で語っていて、澄子には大分お高く止まっている雰囲気がありました。
澄子は沙良に「一緒に東京に行こう」と言いますが沙良は反発します。

祖母と沙良は家を出て行きながら突然戻ってきて沙良を東京に連れて行こうとする澄子に激怒していたのですが祖父は泰然としていました。
世界中の人がわれわれと同じ価値観でも、それはそれでつまらないさ。
世の中にはあんな人もいるんだろうなとおおらかに捉えていて、この言葉は良いと思いました。

沙良には江藤美々子(みみこ)という中学時代からの親友がいます。
美々子は語尾に「ウフ」をつける特徴的な話し方をする人で少し天然なところもあります。
そして美々子は沙良が苦手な北村のことが好きでよく静謐館に来ています。
驚きなことに北村も美々子のことが好きだったようで、普段は沙良にネチネチと嫌味ばかり言っている北村が美々子とのことにあたふたしているのは面白かったです。

遠野ワタルはライターの仕事をしながら経営コンサルタントの手伝いもしています。
沙良の母の澄子の仕事が経営コンサルタントとあったので、この手伝っている相手は澄子な気がしました。
ワタルもまた沙良に「僕と一緒に東京に行こう」と言っていて、プロポーズをしていました。

沙良はワタルと一緒に歩いている時、二人の男が尾行していることに気づきます。
さらに別の日には澄子とワタルの驚きの関係を目撃してしまいます。

「名にし負う」という珍しい言葉が出てきました。
これは名高いという意味で、「ちはやふる」という競技かるたを題材にした漫画で「名にし負わば」で始まるかるたがあったのが思い浮かびました。

沙良とワタルが歩いていた時に尾行していたのは丹後と石野という名前だと分かります。
二人とも澄子に騙されて酷い目に遭わされていて、澄子は最悪な人だと思いました。
そしてワタルも最悪だなと思う場面がありました。
さらに澄子に激怒の丹後と違い石野は人が良すぎるところがあり、騙されたのにまだ澄子のことを好いていました。
この丹後と石野を巡る話では出てくる人物にろくな人がいないなと思いました。


「第二部」
静謐館を経営する貝森温泉グループの社長、貝森太郎氏と工務店の経営者、轟木比斗志氏が死体で発見されます。
轟木は街歩きのボランティア・ガイドでもあります。
葬儀が済んだ後、沙良は貝森太郎の父で貝森温泉グループの会長、貝森武太郎氏から呼び出されます。
沙良は武太郎から犯人を特定してほしいと頼まれます。
武太郎によると太郎の殺害には自分の知らない貝森家の来し方に原因があるような気がするため、それを沙良に学芸員として調べてほしいとのことです。
伝之丞は「殺人事件の捜査は得意だから大船に乗った気でいろ」と自信満々に言っていました。

60年ぶりに小束川相撲甚句(じんく)が復活するという興味深い話がありました。
小束川相撲甚句は河童屋にかけられた呪いにも関係していて、大束川河童は「今後また小束川相撲甚句が歌われでもしない限り呪いが解けることはない」と言っていました。
もし小束川相撲甚句が歌われれば河童屋にかかった呪いが解け、河童童子、別名小束川河童明神が復活するのかも知れないと思いました。

沙良は太郎の息子の明に聞き込みに行きます。
明は愛加という人と婚約していて、「財産をつぎ込んで捕まえた嫁」と言っていました。
また太郎には次郎という双子の弟がいて、生まれたばかりの頃に行方不明になってしまったことが明らかになります。

桜花公園の多目的広場にある日の朝突然相撲の土俵が現れる事件が起きます。
河童屋も伝之丞もこの事件を警戒していました。

沙良はかつて武太郎の秘書をしていた人に話を聞きに行きます。
そこではかつて貝森家の乳母だった南タミ子、生まれたばかりの息子の南都市男(としお)、そして次郎についての驚きの真相が明らかになります。

轟木比斗志の関係者にも話を聞きに行きます。
轟木建設で総務の仕事をしている金子という女性に話を聞くと、轟木比斗志を巡る女性関係のドロドロぶりが明らかになります。
轟木と金子は愛人関係でもあります。
轟木の奥さんの美栄子、息子の修一郎と奥さんの涙子(るいこ)などの名前も出てきました。
5ヶ月ほど前には涙子が市内の繁華街で通り魔に切りつけられて怪我をした事件があったことも明らかになります。

やがて伝之丞が「明日謎解きをする」と言います。
誰が犯人かとともに恐ろしいことも明らかになり、人間関係のもつれぶりにゾッとしました。


堀川アサコさんの作品はミステリー、ホラー、ファンタジーが合わさったものがよくあるのですが、この作品はホラーは少なめでミステリーとファンタジーが中心でした。
ただ猟奇殺人のようなホラーはなくとも人間の業のホラーはありました。
ミステリー、ホラー、ファンタジーの3つの要素を使って小説を書く作家さんは珍しいのでこれからの活躍も楽しみにしています


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿