読書日和

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「終わらない歌」宮下奈都

2014-05-02 21:56:15 | 小説
今回ご紹介するのは「終わらない歌」(著:宮下奈都)です。

-----内容-----
卒業生を送る会の合唱から3年、少女たちは二十歳になった。
御木元玲は音大に進学したが、自分の歌に価値を見いだせなくて、もがいている。
ミュージカル女優をめざす原千夏が舞台の真ん中に立てる日は、まだ少し先みたいだ…。
ぐるぐる、ぐるぐる。
道に迷っている彼女たちを待つのは、どんな未来なんだろう。

-----感想-----
この作品は「よろこびの歌」の続編となります。
二十歳になる御木元玲たちの物語です。

物語は以下の六編で構成されています。

Ⅰ シオンの娘
Ⅱ スライダーズ・ミックス
Ⅲ バームクーヘン、ふたたび
Ⅳ コスモス
Ⅴ Joy to the world
Ⅵ 終わらない歌

第一話が御木元玲の物語なのですが、何だか再び自信をなくしているようでした。
音楽大学に入った玲は、自身の歌の力量を「20人のクラスの中で7番目くらい」と評していました。
「かなり絞り込まれて入学しているわけだから、そこで真ん中より上なら悪くはないのかもしれない。でも、誰かの歌を聴きたいと思ったとき、たかだか大学のひとクラスの中で七番目の人間の歌をわざわざ聴きに行こうとは思わないだろう」とも述べていました。
すごく冷静に淡々と、自分自身を評していたし、どこか冷めたものを感じました。
そんな玲が欲しいと願っていたのが、以下のもの。

「私は情熱がほしい。どんな障害をも越えていく情熱。たぶんそれこそが、才能だとか、個性だとか、それから努力だとか、素質だとか、可能性、環境、遺伝、機会、そんなようななんだか別々のようでいて実はとてもよく似た、たちの悪いばけものに立ち向かう唯一の武器なんじゃないかと思う」

第二話は中溝早希の物語。
大学の運動科学部に進み、スポーツ選手をサポートするスポーツトレーナーを目指す早希。
中学のソフトボール部でエースだったのに無理をして肩を壊してしまった早希は、もう選手として活躍することは出来ません。
元々エースになるくらいで非常に気も強いのですが、その早希の熱い気持ちが現れていたのが以下の言葉。

強くなろうとしてる人の手伝いならいくらでもする。だけど、適当にやってる人に手伝えることなんてなんにもないよ。

努力もしないうちから自分には何もできないと思っている人のことをなまぬるいと思ってしまう。

スポーツトレーナーを目指しているものの、適当にやっている人をサポートしたいとは思わないようです。
何で向上心がないんだ、何でもっと上を目指そうとしないんだと、やきもき、イライラしてくるのだと思います。

そんな早希なので、第三話の「バームクーヘン、ふたたび」の同窓会で御木元玲と話した時は険悪な雰囲気になっていました
これだけ強くなろうとしている早希なので、自分に冷めて諦めがちな玲を見るとイライラするようです。
私は玲と早希のやり取りにハラハラしました。
小説という、文章だけでもその場の緊張感がビリビリと伝わってきました
「井の中の蛙っていうけど、玲は逆なんだよ」
「井戸の蛙は狭い世界で自分が一番だと思い上がってるんだよね。でも、玲は逆。ほんとうは一番になれるかもしれないのに、第二グループだと決めつけている。そうやって投げてるんだよ」
玲は玲で淡々としつつも全然引かないので、この小説でも屈指の緊迫した場面になりました。
そしてふと「よろこびの歌」のレビューを読み返してみたら、あの時はやる気になっている玲に対して、自分に冷めて諦めがちな早希がイライラしていたんですよね。
今回は自分に冷めて諦めがちな玲に早希がイライラしていて、何だかんだでこの二人はよく似ているなと思います(笑)

ちなみにこの第三話は里中佳子という人が語り手なのですが、印象的だったのが以下の言葉でした。

ちゃんとわかっている。気持ちはあの頃に戻っても、身体はここにある。この子たちとはもう現在ではない。

同窓会で、気持ちは当時の高校二年生に戻っても、もう現在はみんな違う道に進んでいるということで、何となく心を捉える言葉でした。
あともう一つ、印象的だったのが

私がぼうっと過ごしている間に、集めていたカードに価値がなくなり、トレーニングしていた人たちははるか遠くに進んでいる。

という心境吐露でした。
久しぶりにみんなに会ってみて、これを感じることってあると思います。
当然焦りもするし、佳子の心境はよく分かりました。

第五話「Joy to the world」の語り手は原千夏。
御木元玲の一番の友達でもあり、アルバイトをしながら劇団に所属してミュージカル女優を目指しています。
高校二年生の時の千夏とミュージカル女優は全く結びつかなかっただけに、この現在の姿は意外でした。
千夏はかなり強くなっていると思いました。
第一話で、玲がある人物にひとめぼれしてしまったっぽいことや、似合わないアルバイトを始めたことに苦言を呈すところとか、高校二年生時代からは想像もつかないです。
それと同時に、周りを楽しい気分にさせてくれる天真爛漫なところも変わっていなくて良かったです。
良い役をつかんで、ミュージカル女優として花開いてほしいなと思います

第六話「終わらない歌」は、再び御木元玲が語り手。
時系列は大学四年生の春。
第一話が大学二年生の秋だったので、一年半ほど経過しています。
この最終話では、今まで上げてきたような、これはという表現はありませんでした。
でも素晴らしく良い最終章です
玲も千夏も生き生きとして、楽しく踊りだすような”陽”の力を強く感じました
特に玲のそういった姿を見られるのはなかなかないので「ついに来たか」という感じで嬉しかったです^^
冷めていた玲が熱くなるのは読んでいるほうも楽しくて、この先大きく羽ばたいて行ってくれるのではないかと期待せずにはいられないラストでした


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4 コメント

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Unknown (ビオラ)
2014-05-08 23:28:06
この小悦は、まだまだ将来のある若者のお話ですが、思ったのは、人生って、簡単じゃないなって。
目標や理想を高く持って、自分に期待する自分がいるのだけど、そこに向かう道のりには、数々の迷いや悩みがあったりするもので、それを1つ1つ乗りきって行くと、気付いたら、そこそこの位置にいる自分がいたりする。そうやって、人は成長して行くのかなと思います。
迷いや悩みがある時には、やはり恩師や仲間や友達のアドバイスや刺激を受け、人と絡みながら、乗りきって行く事で、人間の幅も大きくなって行くように思います。

ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-05-10 09:07:17
目標や理想どおりにはいかないですよね。
現実を見て挫折したりもします。
ただ、簡単ではない中で、自分なりの答えを見つけながら成長していく姿は素晴らしいなと思います。
終わり方が良くて、読んでいて嬉しくなりました
積極的な千夏にオドロキ (りゅうちゃん)
2015-01-06 16:23:24
こんにちは。

昨年は何かとお世話になりました。
今年もよろしくお願いします。

「終わらない歌」をやっと読み終わりました。
千夏が劇団に入ってミュージカルに挑戦しているとはオドロキです。
積極的なキャラではないと思っていましたので。

生の音楽は、人を感動させます。
トロンボーンのエピソードを読んで、私も再び演奏会に行ってみようかと思いました。

ミュージカルについても、最初に観た作品は人に大きな影響を与えます。
私は初めて「ミス・サイゴン」を帝劇で観た時、「こんなすごい世界があるのか!」と驚きの連続でした。
りゅうちゃんさんへ (はまかぜ)
2015-01-06 21:57:23
こんにちは。
そして明けましておめでとうございます
こちらこそ、今年もよろしくお願いします

千夏の挑戦には私も驚きました。
そして玲との友情が続いていたのも良かったです^^

演奏会、私は先月に箏の演奏家の方のコンサートに行ったのですが、すごく良いと思いました
ほんと生の音楽は素晴らしいなと思います。
演奏会もミュージカルも、やはり生で見ると格別の味わいがあると思います

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