読書日和

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「よろこびの歌」宮下奈都

2013-05-14 23:12:49 | 小説
今回ご紹介するのは「よろこびの歌」(著:宮下奈都)です。

-----内容-----
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大付属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。
挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。
しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる―。
見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。

-----感想-----
主人公は御木元玲(みきもとれい)という、私立明泉女子高等学校の普通科に通う二年生。
玲は当初、音大の付属高校に入り、そのまま大学へ、さらには大学院へ進むつもりでいました。
母親が著名なヴァイオリニストということもあり、自分自身も幼い頃から音楽に慣れ親しんできて、音楽と共に生きていくのが当たり前だと思っていました。

しかし、受験に失敗しました。
入試の実技試験では譜面を渡されその場で四人ずつに分かれて合唱をしたらしく、その実技の結果で落とされたようです。
音楽に限らずこういった芸術分野では、条件が同じなら単純に才能の差で勝負が決まるのはなかなかシビアなところです。
受験に敗れた玲は母に対してもコンプレックスを持つように。
「認めざるを得なかった。私の音楽の才能は母よりも劣っている」
と本人が語っていました。
そんなわけで、高校生活も空虚なものに。
学校には一切何も期待せず、ただ淡々と毎日を過ごしている感じでした。

そんなある日、秋の終わりにあるクラス対抗の校内合唱コンクールで、玲が「指揮」をやることに。
周りに言われて嫌々引き受けた指揮ですが、意外にも練習が始まるとやる気を出す玲。
音楽への気持ちは、まだ失われてはいなかったようです。
ただし玲がやる気になったからと言って周りの子達も全員やる気になるわけではなく、
「あのさあ、御木元さん、あたしたちべつに優勝しようとか思ってないし」
「この際だから言わせてもらうけど、こんな練習、楽しくないよ」
などと不評を買っていました。
まあこれはそうだろうなと思います。
いきなり熱くなって、周りにも同じものを要求するとなると、他の子達からは煙たがられると思います。
中学の合唱コンクールで、やたらやる気になっている子達が同じパフォーマンスを周りにも要求し、うんざりしながら歌っていたのをふと思い出しました。
あれは楽しさのない音楽だったなと思います。
この作品の良いなと思うのは、「その先」が描かれていることですね。
「楽しい音楽」とは何なのか、玲自身が気付くことになりました。
無理やり歌わせた音楽と、みんなが自発的に歌ってくれた音楽、同じ楽譜でも音色には凄い差が出ると思います
それを気に、玲自身の心にも変化が生まれていきます。
それまで全く感心のなかった学校やクラスの子に対して、少しずつ心を開くようになっていきました。

ちなみに物語は以下の短編七編で構成されています。

do よろこびの歌 12月1日 御木元玲
re カレーうどん 12月22日 原千夏
mi No.1 1月13日 中溝早希
fa サンダーロード 1月27日 牧野史香
sol バームクーヘン 2月19日 里中佳子
la 夏なんだな 2月26日 佐々木ひかり
si 千年メダル 3月4日 御木元玲

こうして書いてみて初めて気付きましたが、それぞれのタイトルの前にあるローマ字、よく見ると「ドレミファソラシ」の音階になっています。
読んでいる時は気付きませんでした。
この作品が「音楽小説」なのを象徴するようです
歌から紡ぎ出される青春グラフィティー

二話目の原千夏さんからは、クラスメイトから見た御木元玲について描かれています。
原千夏さんはクラス対抗の校内合唱コンクールで玲に指名される形でピアノを弾くことになった人だし、中溝早希さんは練習中に「この際だから言わせてもらうけど、こんな練習、楽しくないよ」と言っていたまさにその人だしで、そういう人達はどんな心境なのかとても興味深かったです。
中溝早希さんの玲に対する複雑な心境はなかなか面白かったです。
「どうして御木元玲にむかつかなくちゃならないのか自分でもわからない。わざわざ目の敵にするほどの子ではない。それほど関わりのある子じゃないし、それほど嫌な子でもない、はずだ。人に歩み寄ろうという姿勢のない、鈍感で、幼くて、傲慢で、気取ってて、いけすかないやつではあるけれど」
後半からの辛辣な評価を見て、これってメチャメチャ嫌ってるんじゃないのかなと思いました(笑)
中溝早希さんはとある事情で既に人生を諦め、「余生」と思っているところがあるので、どこか輝いて見える玲の存在が眩しくてイライラするようですね。
そしてそのイライラは玲に対してというより、自分自身に対して。
悶々とした葛藤を抱え、彼女もまたもがいていました。

クラス委員長の佐々木ひかりさんの御木元評も印象的でした。
「わざと雪の日を選んで、道のまんなかにすっくと立っている少女」
なるほどなと思いました。
たしかに高校に入学してから二年生の秋までの玲はまさにそんな感じでした。
誰も寄せ付けず、常に一人でいる孤高の存在。
でもそれを変えたのが「校内合唱コンクール」でした。
コンクールで歌ったのは『麗しのマドンナ』という曲で、その後もこの曲が物語の重要な要素になっていました。
やがて卒業式の前日にある「卒業生を送る会」でも歌うことになる『麗しのマドンナ』。
そこに向けて、玲が中心となり練習に励んで行く日々。
最終章「si 千年メダル 3月4日 御木元玲」は再び玲が語り手になるので、第一章から三ヶ月の間に、「人に歩み寄ろうという姿勢のない、鈍感で、幼くて、傲慢で、気取ってて、いけすかないやつ」とまで評されていた玲がどのくらい変わったのか、興味深くページをめくっていきました。
いつの間にか苗字ではなく「名前」で呼ぶ子が増えていたのが印象的な最終章でした。
あの後どうなったのかは分かりませんが、きっと大団円になったのではないかなと思います


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
宮下奈都に期待しています (りゅうちゃん)
2014-10-16 16:56:24
こんにちは。

私は宮下奈都がお気に入りで、彼女には期待しています。
「よろこびの歌」は挫折からの再生が描かれていて、特に共感できます。

こちらのブログは詳しく書かれていて書評を書く際の参考になります。
読む本も私と共通する作品が多いので、今後も勉強させてください。
返信する
りゅうちゃんさんへ (はまかぜ)
2014-10-18 00:02:39
こんにちは!
私も宮下奈都さんの作品は好きです^^
「よろこびの歌」はほんと挫折からの再生ですね。
御木元玲、よく立ち直ったと思います。
「スコーレNo.4」や「メロディ・フェア」も好きです。

書評、参考になれば何よりです
こちらこそ、今後もよろしくお願いします
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