今回ご紹介するのは「告白」(著:湊かなえ)です。
-----内容-----
愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。
我が子を亡くした女性教師が、終業式後のホームルームで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。
圧倒的な筆力と、伏線がちりばめられた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度。
第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を第一章とし、その後、第六章まで加筆して長編小説として刊行。
第6回本屋大賞受賞作。
-----感想-----
第一章「聖職者」
最初の1ページ目から物語に引き込まれました。
S中学校1年B組の担任である女性教師が、終業式後のホームルームで「告白」を始めます。
この日かぎりで教師を辞めることから切り出した女性教師は、次第に重大な内容を語っていきます。
それは女性教師の娘(当時4歳)の事故死に関することで、警察は「誤ってプールに転落したことによる水死」と判断しましたが、女性教師はそのことに疑問を持ち、独自に調べた末ついに真相に気付きました。
それは、娘はこのクラスの生徒に殺されたということ…
冷静に、淡々と「告白」していく女性教師。
犯人は二人いて、名前は伏せて少年A、少年Bと呼んでいましたが、クラスの子が聞けばすぐに誰のことかわかるような話し方でした。
その中で、少年法のことが出てきます。
中学一年の生徒が殺人を犯したとしても、法によって守られてしまい、実際には無罪放免のような状態になってしまうというものです。
そこで女性教師は、犯人の生徒二人を自らの手で裁くことにしました。
その復讐は恐ろしいもので、読んだときゾッとしました。
何という惨い仕打ちなんだろう…と思いましたが、我が子を殺された母親の恨みは、このくらい凄まじいものなのかも知れません。
「やればできるのではなく、やることができないのです」
犯人の一人を指して言ったこの台詞は重く響きました。
保護者と担任が面談するとき、よく「この子はやればできる子なんです」という台詞が出るそうですが、実際には「やれば」の以前にその「やれば」ができないということです。
作者の湊さん、これは鋭く見ているなと思いました。
たしかにそのとおりだと思います。。。
第二章「殉教者」
終業式の事件後のことが、クラス委員長の美月という子の視点で描かれています。
美月が元担任の森口悠子先生に手紙を書くという文体になっています。
終業式の日、森口先生に告発された二人の少年がその後どうなったのか、かなり気になったのでどんどん読み進めていきました。
二人とも、ある意味予想どおりになっていました。
しかしそのうちの一人については、普通の神経では出来ないような行動をとっていて、これには驚きました。
また、ウェルテルというあだ名の新任教師がこのクラスの担任になったのですが、事件のことを知らないため、クラスに漂う不穏な空気の正体が何なのか、なかなか気付きません。
全く見当違いな発言や行動をとったりして、見ていて呆れてしまいました。
(もっとも、何も知らないのだからウェルテルが悪いわけではないのですが…)
第三章「慈愛者」
第三章は少年Bの母親から見た視点で描かれています。
少年Bの母親が書いた日記を、少年Bの姉が読み進めていくという構成です。
私はこの母親の考え方が嫌でした。
森口先生がシングルマザーだからという理由で、クラスの担任には相応しくないと決め付け、校長に担任を変えるように要望する手紙を書くような人でした。
ほかにも、テストの成績上位者を発表したことを快く思わず、「個々の人格が重視されるようになってきたなか、時代の流れに逆らい、成績上位者を子供たちのまえで発表する教師がいることに、不安を感じてなりません」というようなクレームをつけていました。
まさにモンスターペアレントだと思います。
不安を感じてなりませんって…単に自分の子が上位に入れないから発表してほしくないだけだろうと思いました。
しかも子供は賢いので、親が自分の子に自信がないことにも気付き、ショックを受けることにもなると思います。
こういったことが少しずつ、犯人の少年の人格形成につながっていったのかも知れません。
第四章「求道者」
事件までのことと、事件後のことが、少年Bの視点で描かれています。
少年Bはかなり愚かな性格をしていました。
自分に自信がなく、そのわりにはプライドが高く、とにかく自分の立場を守ろうとします。
(何気にこれは、誰しもが持っている感情のような気がします)
妙なところで優越感を覚えたりもするらしく、それが事件に大きく関わることになりました。
この章では少年Bの母親の台詞が強烈でした。
「○○くんがこんなふうになってしまったのは、母さんのせいなの。上手に育ててあげられなくて、ごめんね。失敗して、ごめんね」
失敗って…これは言ってはいけないだろうと思いました。
人間の失敗作のように聞こえますし、実際少年Bはそのように受け取り、さらなる事件を起こすことになります。
ここでは書けませんが、救いようのないくらい、残酷な展開だなと思いました。
不思議なことに、前章では最悪なイメージだった母親が、この章では少しだけ哀れに思いました。
同時に少年Bのどうしようもない思考回路と末路にも、哀れみを覚えました。
第五章「信奉者」
事件までのことと、事件後のことが、少年Aの視点で描かれています。
少年Aは自分と母親以外は全て馬鹿な人間だと考えています。
この章だけで馬鹿という言葉が何度も出てきました。
少年Bとは対照的に、非常に傲慢な性格をしているようです。
少年Aは小さい頃から母親に電子工学のことを教えられてきました。
学校の成績は常にトップクラスで、母から教わった電子工学の知識を駆使し、色々と発明をしたりもしています。
そしてこの発明が、事件に深く関わっていくことになります。
また、少年Aは殺人に対する根本的な倫理観も異常なようです。
殺人が犯罪であることは理解できる。
しかし、悪であることは理解できない。
人間は地球上に限りなく存在する物体の一つにすぎない。
何らかの利益を得るための手段が、ある物体の消滅であるならば、それは致し方ないことではないだろうか。
この考え方はなんだか、デスノートの夜神月みたいだなと思いました。
周りはみんな馬鹿と考えているところも同じですし。
概ねそういった人物に限って、最後は自分自身が大馬鹿な行動をとるようで、この章のラストで少年Aはとんでもない計画を立てていました。
思考回路が自分勝手そのもので、救いようのない人間だなと思いました。
第六章 伝道者
再び、森口先生の「告白」となります。
最後の最後に、凄まじい復讐がありました。
「ねえ、○○くん」で始まるクライマックスの台詞には背筋が凍りつきました。
どこまでも冷静な森口先生の、どこまでも冷酷な復讐でした。
どんな復讐だったのかはネタバレなので書けませんが、そこまでやるのか…というくらい、おそらく○○君の精神を木っ端微塵に粉砕するのに十分な復讐でした。
○○君はこの先まともな精神状態でいられるのか、とても気になりました。
最初から最後まで、シリアスな物語だったなと思います。
作品全体をとおしてみると、三浦しをんさんの「光」と雰囲気が似ている気がしました。
しかしこちらの方が圧倒的にスラスラ読めました。
内容の恐ろしさを考えると、スラスラ読めるのはすごいことだと思います。
作者の力量の成せる技ですね。
先の展開が気になり、どんどん読み進められました。
本屋大賞にふさわしい傑作だと思います
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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-----内容-----
愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。
我が子を亡くした女性教師が、終業式後のホームルームで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。
圧倒的な筆力と、伏線がちりばめられた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度。
第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を第一章とし、その後、第六章まで加筆して長編小説として刊行。
第6回本屋大賞受賞作。
-----感想-----
第一章「聖職者」
最初の1ページ目から物語に引き込まれました。
S中学校1年B組の担任である女性教師が、終業式後のホームルームで「告白」を始めます。
この日かぎりで教師を辞めることから切り出した女性教師は、次第に重大な内容を語っていきます。
それは女性教師の娘(当時4歳)の事故死に関することで、警察は「誤ってプールに転落したことによる水死」と判断しましたが、女性教師はそのことに疑問を持ち、独自に調べた末ついに真相に気付きました。
それは、娘はこのクラスの生徒に殺されたということ…
冷静に、淡々と「告白」していく女性教師。
犯人は二人いて、名前は伏せて少年A、少年Bと呼んでいましたが、クラスの子が聞けばすぐに誰のことかわかるような話し方でした。
その中で、少年法のことが出てきます。
中学一年の生徒が殺人を犯したとしても、法によって守られてしまい、実際には無罪放免のような状態になってしまうというものです。
そこで女性教師は、犯人の生徒二人を自らの手で裁くことにしました。
その復讐は恐ろしいもので、読んだときゾッとしました。
何という惨い仕打ちなんだろう…と思いましたが、我が子を殺された母親の恨みは、このくらい凄まじいものなのかも知れません。
「やればできるのではなく、やることができないのです」
犯人の一人を指して言ったこの台詞は重く響きました。
保護者と担任が面談するとき、よく「この子はやればできる子なんです」という台詞が出るそうですが、実際には「やれば」の以前にその「やれば」ができないということです。
作者の湊さん、これは鋭く見ているなと思いました。
たしかにそのとおりだと思います。。。
第二章「殉教者」
終業式の事件後のことが、クラス委員長の美月という子の視点で描かれています。
美月が元担任の森口悠子先生に手紙を書くという文体になっています。
終業式の日、森口先生に告発された二人の少年がその後どうなったのか、かなり気になったのでどんどん読み進めていきました。
二人とも、ある意味予想どおりになっていました。
しかしそのうちの一人については、普通の神経では出来ないような行動をとっていて、これには驚きました。
また、ウェルテルというあだ名の新任教師がこのクラスの担任になったのですが、事件のことを知らないため、クラスに漂う不穏な空気の正体が何なのか、なかなか気付きません。
全く見当違いな発言や行動をとったりして、見ていて呆れてしまいました。
(もっとも、何も知らないのだからウェルテルが悪いわけではないのですが…)
第三章「慈愛者」
第三章は少年Bの母親から見た視点で描かれています。
少年Bの母親が書いた日記を、少年Bの姉が読み進めていくという構成です。
私はこの母親の考え方が嫌でした。
森口先生がシングルマザーだからという理由で、クラスの担任には相応しくないと決め付け、校長に担任を変えるように要望する手紙を書くような人でした。
ほかにも、テストの成績上位者を発表したことを快く思わず、「個々の人格が重視されるようになってきたなか、時代の流れに逆らい、成績上位者を子供たちのまえで発表する教師がいることに、不安を感じてなりません」というようなクレームをつけていました。
まさにモンスターペアレントだと思います。
不安を感じてなりませんって…単に自分の子が上位に入れないから発表してほしくないだけだろうと思いました。
しかも子供は賢いので、親が自分の子に自信がないことにも気付き、ショックを受けることにもなると思います。
こういったことが少しずつ、犯人の少年の人格形成につながっていったのかも知れません。
第四章「求道者」
事件までのことと、事件後のことが、少年Bの視点で描かれています。
少年Bはかなり愚かな性格をしていました。
自分に自信がなく、そのわりにはプライドが高く、とにかく自分の立場を守ろうとします。
(何気にこれは、誰しもが持っている感情のような気がします)
妙なところで優越感を覚えたりもするらしく、それが事件に大きく関わることになりました。
この章では少年Bの母親の台詞が強烈でした。
「○○くんがこんなふうになってしまったのは、母さんのせいなの。上手に育ててあげられなくて、ごめんね。失敗して、ごめんね」
失敗って…これは言ってはいけないだろうと思いました。
人間の失敗作のように聞こえますし、実際少年Bはそのように受け取り、さらなる事件を起こすことになります。
ここでは書けませんが、救いようのないくらい、残酷な展開だなと思いました。
不思議なことに、前章では最悪なイメージだった母親が、この章では少しだけ哀れに思いました。
同時に少年Bのどうしようもない思考回路と末路にも、哀れみを覚えました。
第五章「信奉者」
事件までのことと、事件後のことが、少年Aの視点で描かれています。
少年Aは自分と母親以外は全て馬鹿な人間だと考えています。
この章だけで馬鹿という言葉が何度も出てきました。
少年Bとは対照的に、非常に傲慢な性格をしているようです。
少年Aは小さい頃から母親に電子工学のことを教えられてきました。
学校の成績は常にトップクラスで、母から教わった電子工学の知識を駆使し、色々と発明をしたりもしています。
そしてこの発明が、事件に深く関わっていくことになります。
また、少年Aは殺人に対する根本的な倫理観も異常なようです。
殺人が犯罪であることは理解できる。
しかし、悪であることは理解できない。
人間は地球上に限りなく存在する物体の一つにすぎない。
何らかの利益を得るための手段が、ある物体の消滅であるならば、それは致し方ないことではないだろうか。
この考え方はなんだか、デスノートの夜神月みたいだなと思いました。
周りはみんな馬鹿と考えているところも同じですし。
概ねそういった人物に限って、最後は自分自身が大馬鹿な行動をとるようで、この章のラストで少年Aはとんでもない計画を立てていました。
思考回路が自分勝手そのもので、救いようのない人間だなと思いました。
第六章 伝道者
再び、森口先生の「告白」となります。
最後の最後に、凄まじい復讐がありました。
「ねえ、○○くん」で始まるクライマックスの台詞には背筋が凍りつきました。
どこまでも冷静な森口先生の、どこまでも冷酷な復讐でした。
どんな復讐だったのかはネタバレなので書けませんが、そこまでやるのか…というくらい、おそらく○○君の精神を木っ端微塵に粉砕するのに十分な復讐でした。
○○君はこの先まともな精神状態でいられるのか、とても気になりました。
最初から最後まで、シリアスな物語だったなと思います。
作品全体をとおしてみると、三浦しをんさんの「光」と雰囲気が似ている気がしました。
しかしこちらの方が圧倒的にスラスラ読めました。
内容の恐ろしさを考えると、スラスラ読めるのはすごいことだと思います。
作者の力量の成せる技ですね。
先の展開が気になり、どんどん読み進められました。
本屋大賞にふさわしい傑作だと思います
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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「告白」は気になっていました。
「はまかぜ」さんのブログがネタばれしない範囲で一番内容が分かりました。
是非、読んでみたくなりました。
色々お花見行ったんですね。
千鳥が淵の桜はとても綺麗でしたよ。
またちょくちょくお邪魔します。
「告白」は本屋大賞の受賞をニュースで見て、興味を持ちました。
とても重い内容ですが、先の展開が気になるためどんどん読み進められました。
けんちゃんさんも、ぜひ読んでみてください。
千鳥ヶ淵の桜を見たのですか
ニュースで見ましたが、とても見応えがありそうでした。
私も来年は見に行ってみたいなと思います。
こんなに壮絶で深い物語だとは思ってもみませんでした…
すごく読みたくなってきた!!!
いま、ちょっと何を読もうか・・・読みたいのか気力が無い状態だったのですが
ぜひぜひこの作品読んでみたいです☆
私も本屋大賞受賞ということで興味を持ちました。
この壮絶な内容にして、意外とスラスラ読めるというのがすごいなと思います。
作者の力量の成せる技だと思います。
先の展開が気になり、どんどん読み進められました。
読み応えは十分なので、機会があればぜひ読んでみてください
あるミステリファンの人も薦めていたので、
本屋で手に取ってみようとしたこともありました。
(そのときは結局表紙見ただけでしたが)
はまかぜさんのレビューを見て、
ますます読みたくなりました☆
重い衝撃作だけど、
潔い作品みたいですね!
また、中学1年の担任の先生と言う事で、ぐっと身近に感じられます。
色んな意味で、ゾッとしそうな話・・・、しかし展開も結末も気になるから、気が向いたら読んでみようかな☆
重い作品ですが、不思議とスラスラ読めました。
そのあたりは作者の力だと思います。
ミステリーな作品なので、機会があればぜひ読んでみてください☆
内容は重いので、ゾッとするかも知れませんが。。。
それでも、作者の描き方が完成度の高いものなので、けっこうスムーズに読めました
重い展開でスムーズに読めるのはすごいことだと思います。
機会があればぜひ読んでみてください☆
ものすごい衝撃的な作品ですよね!
面白いとか楽しいという言葉は当てはまらないですが、パンチがあって途中でやめることが出来ず引き込まれました~
私は第一章の衝撃が大きく、この完成度の高さに短編でここで終わっておいた方が良かったのでは?とも思いましたが、全て終わったあと爽快さも感じたのでこれでよかったのかもしれません。
それにしても嫌な事件でしたね!今思い出しても嫌な気分になります。こんなことが身近で起こったら復讐考えても仕方ないんじゃないかと思うくらい・・
途中でやめることが出来ない気持ち、よくわかります!
私も第一章の衝撃が大きかったです。
最初の1ページ目から、独特な文体に興味を持ちました。
事件はほんと、嫌なものでしたね。
たしかに身近でこんなことがあったら、復讐を考えるかも知れませんね。。。