読書日和

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「明日になったら 一年四組の窓から」あさのあつこ

2016-04-23 19:36:26 | 小説


今回ご紹介するのは「明日になったら 一年四組の窓から」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
中学二年から三年に進級した井嶋杏里、市居一真、里館美穂、前畑久邦の仲良し四人組。
高校進学を前にして、それぞれの夢に向かって突き進もうとする四人の前に、新たな壁が立ちはだかる。
将来への不安、新しい環境への不安に押し潰されそうになりながら、かけがえのない友だちと家族に支えられ悩みながらも成長する十五歳を描いた、あさのあつこの青春傑作小説。

-----感想-----
※「一年四組の窓から」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

この作品は次の四編で構成されています。

桜吹雪の下で
光に向かって手を伸ばし
それぞれの道を
ここからの風景を

「桜吹雪の下で」は満開の桜のもと、杏里と美穂が外掃除をしている場面から物語が幕を開けます。
春になり、杏里たちは中学三年生になっていました。
杏里と美穂は三年二組、一真と久邦は三組です。
杏里が桜の花びらを見て胸中で思ったことが興味深かったです。
一枚一枚は白く透けるほど薄いのに、集まるとほんのりとピンク色になる。
これはそのとおりで、私も不思議に思ったことがあります。
一枚一枚は儚くてもたくさん集まると華やかな色合いを発揮するのが桜らしくて良いと思います。

杏里は美穂、一真、久邦の三人に出逢えたことに思いを馳せます。
三人といると楽しい。疲れないのだ。話題を合わさなければならないとか、空気を読まなきゃとか、心に思ったこと感じたことをそのまま口に出さないよう気を付けるとか、そういう気配りをいっさいしないですむ。
今作は冒頭から杏里の言葉が良いなと思いました。
芦藁第一中学校に転校して来てこの三人に巡り逢えて本当に良かったと思います。

美術部に所属し、将来は絵の道に進みたいという夢を持っている一真はこのごろスランプになっていました。
杏里をモデルに描いている人物画が思うように進まなくなっています。
自分の描きたいものと描いた作品が全然別のものになってしまうとあり、さらに「そのくせ、自分がどんな絵を描きたいのか分かっていない」とありました。
自分がどんな絵を描きたいのか分かっていないのに「描きたいもの」が描けるはずはなく、袋小路に迷い込んでいるようでした。

久邦は五月にある市の陸上競技大会に向けて猛練習をしていました。
この大会で上位の成績を収めた者は県大会に出場できるのですが、三年生である久邦は県大会に出場できなければ引退となります。
陽気な久邦にしては珍しくしんみりと「もうちょっと、走っていたいんだよな」と言っていました。
中学校の部活動は多くの人にとって人生において初めて「引退」という言葉を使うことになるのではと思います。
まだ引退したくないという気持ちは10代の青春が表れていて良いと思います。

また、久邦は「今、この時」を重視していて、一真と話している時に「今十四歳で、今年は十五になる。十四の走り、十五の走りってのは、今しかできない。今の自分にしかできない走りと別れたくない」と言っていました。
これを聞いて一真は刺激を受け、「今の自分にしか描けない作品があるはず」と思うよあうになります。

美穂から、色々あって友達付き合いが嫌になり不登校気味になっていた時のことを話してもらった際の杏里の心境は印象的でした。
縮こまる前に、笑われるのを恐れる前に、誰もわかってくれないと口をつぐむ前に、しゃべってみよう。言葉にすれば誰かに伝わるかもしれない。思いもかけない人に届くかもしれない。そう信じることは、自分の明日を信じることだ。
これは前作の「一年四組の窓から」から杏里の心の中にある思いです。
たしかに自分の心の中で思っているだけでは誰にも届かないですが、言葉にすれば誰かに届く可能性があります。
その言葉を真剣に聞いてくれる人がいるものです。


「光に向かって手を伸ばし」は季節が夏になり、美穂が語り手になります。
三年前に美穂の両親は離婚し、父は家を出て行きました。
ただ離婚してからはたまに会うと仲良く話せるようになり、母は「パパとママはお互いの間に距離が必要だった。その距離があれば、とても仲良く付き合える」と言っていました。
それは「人と人との距離」で、美穂も中学生になってこれで悩むことになりました。

美穂は栄養士になりたいと考えていて、進路の第一志望は西堂高校の栄養科です。
西道高校の栄養科は倍率が高いのですが、美穂はこの大事な時期に成績が下降していました。
その理由は西堂高校に入ると杏里と離ればなれになってしまうことに悩んでいたからでした。
それまで女子の友達付き合いに嫌気が差し不登校気味になっていた美穂にとって杏里の存在は極めて大きく、かけがいのないものでした。

また、前作で一真への想いを諦めたかに見えた美穂でしたが、夏休みになって四人で会おうとなったある日、待ち合わせ場所で杏里と一真が仲良く喋っているのを見てひどく動揺します。
そんな美穂をなぐさめて元気付けてくれたのが幼馴染みの久邦で、この時の久邦はかなり良い味を出していました。


「それぞれの道を」の語り手は杏里。
冒頭、「今日は公立高校の合格者発表の日」とあり、一気に季節が進んだことが分かりました。
スポーツ推薦で一足先に甲山(こうやま)高校の体育科への入学が決まった久邦を除き、芦藁高校普通科を受験した杏里、西堂高校栄養科を受験した美穂、美稜学園高校芸術科を受験した一真の三人とも、今日が運命の日でした。

杏里が同じく西堂高校普通科を受験した永川那美子と一緒に合格者発表を見に行き、那美子から「井嶋さんは転校してきた時は近寄りがたい雰囲気があったが、話してみると意外と面白い」と言われた際に杏里が思ったことは印象的でした。
人は自由に、自分の心の全てをさらけ出して生きることなど、できないのだ。
どこかで構え、どこかで装い、どこかで自分を隠す。
悪いことじゃない。
でも、疲れる。
重い鎧を着込んだまま走れば、息切れがする。
それと同じように、身構えたままだと、いつか、疲れて動けなくなる。

これはそのとおりです。
それゆえに、そうしなくても済む自然に話せる友達の存在は大事です。

また、杏里が美穂にかけた言葉も印象的でした。
「学校が違うから友達じゃなくなるなんて、そんなこと、ないよ。絶対にない。」
学校が違うと疎遠にはなりますが、友達ではなくなるということはないです。
杏里と美穂はしばらく会わずにいたとしても久しぶりに会った際は変わらず楽しく話せる間柄だと思います。


「ここからの風景を」では新年度になり、四月下旬になっています。
杏里たちはそれぞれの道に進んで行きました。
杏里は嵯峨(さが)優斗というクラスのムードメーカーによく話しかけられ、それに嫉妬する美能嘉香にやっかまれたりしていました。
杏里は高校でも嫉妬と向き合うことになるのかと思いました。
やはり人生は色々なことがあります。

杏里も美穂も一真も久邦も、何もかも順風満帆というわけにはいかないですし、悩むこともあります。
そんな時はまた時期を見つけて四人で集まり、たくさん話して気分転換してほしいと思います。
そして10代を駆け抜けていってほしいです。
終わり方も良く、爽やかな青春小説でした


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