読書日和

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「火星に住むつもりかい?」伊坂幸太郎

2015-05-31 22:38:20 | 小説
今回ご紹介するのは「火星に住むつもりかい?」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
住人が相互に監視し、密告する。
危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。
交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。
この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが……。
今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。
こんな暴挙が許されるのか?
そのとき!
全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!

-----感想-----
「平和警察」という組織が住民から情報の寄せられた人物について取り調べを行い、「危険人物」と判断されればギロチンで公開処刑されるという架空の日本を舞台にした物語です。
しかも平和警察は危険人物の疑惑を持った人物を取り調べる時は拷問を駆使して相手が明らかに無実であっても問答無用で「私は危険人物です」と認めさせるため、一度でも平和警察に目をつけられたら拷問で死ぬか危険人物として公開処刑されるかの二通りしかありません。
恐ろしい世界だと思います。

「今、平和警察が取り調べを行っている。いずれ、その報告が出るだろう」
報告を待つまでもない。
平和警察に睨まれた人物とは、つまり、危険人物に他ならない。
中世の魔女狩りでは、魔女だと疑われた人間は、拷問によって死ぬか、もしくは魔女だと自白して処刑されるかのどちらかしか選択肢がなかった。


冒頭、高校一年生の佐藤誠人は高校二年生の上級生、多田国男に絡まれていました。
その時、全身黒づくめの謎の男が登場し、佐藤を助けてくれます。
物語の最後にかけて重要な鍵を握ることになる「正義の味方」の、最初の登場でした。

伊坂さんの作品らしく、別々の物語が交互に展開されていきます。
町内会の集まりに、岡嶋、そして蒲生(がもう)義正という男が来ていました。
二人は「地域安全対象地区」、通称「安全地区」のことを話していました。
毎年二月から運用される安全地区にその年は宮城県が選ばれていて、二ヶ月近くが経っているとありました。
この安全地区に選ばれた県では住民が不審な人物の情報を平和警察に通報することになっていて、そうして集められた不審な人物の情報をもとに、平和警察が動き出します。
私怨による嘘八百の通報であったとしても平和警察は問答無用で「危険人物」と断定するのでどうにもなりません。

ある日、岡嶋の家に平和警察が来ます。
町内会の集まりでの会話がそれを聞いていた誰かによってねじ曲げられて解釈さる、密告されたようなのです。
岡嶋を待っていたのは取り調べとは名ばかりの拷問で、万事休すでした。
この件とは別に田沼継子という人が、早川医院の奥さんが気に入らないからという理由で院長の嘘の悪評を流して回った結果、平和警察が来て院長は連行、処刑されてしまうという事件もありました。

同時進行していく物語の中に、とある理容室を舞台にしたものがあります。
登場するのは理容師、その妻、仙台名物の煎餅メーカーの社長、そして大学生の鴎外(おうがい)君。
最初は謎めいていたこの物語が次第に大きな意味を持つようになっていきます。

平和警察の賛否について、テレビで討論している時の描写は興味深かったです。
左に四人、右に四人、男女が二人ずつ並び、「双方の意見を対等に放送してます」というアリバイ作りをしているとありました。
私はこれを見て、TBS「サンデーモーニング」やテレビ朝日「報道ステーション」ではもはやこのアリバイ作りさえもやらず、一方的な偏向報道を展開していることが思い浮かびました。

連行された人間が、戻ってくる確率はいったいどれくらいなのか。
臼井彬という男が、近所の雲田加乃子が連行された時に思い浮かべたこの言葉は怖かったです。
連行されたら最後、生きては帰ってこられません。

薬師寺警視長、加護エイジ、肥後武男など、平和警察の人間も次々登場。
やりたい放題な部署だけあって歪んだ人ばかりでした。
「金子ゼミ」という、平和警察に疑問を持つ大学教授が主催するゼミも登場。
蒲生義正と臼井彬も参加していました。
金子ゼミは平和警察が行っている拷問の証拠を押さえるべく動き出します。
しかしこの金子ゼミが…

早稲田大学の極悪サークル「スーパーフリー」をモデルにしたグループも登場。
水野玲奈子という人が窮地に立たされます。
その時、再び全身黒づくめの謎の男が登場し、玲奈子を助けてくれました。
ちなみに、正義の味方は戦う時にボールを使います。
謎のボールを転がすと、なぜか相手は重力に引っ張られるようにバランスを崩します。
この謎のボールの正体が何なのか気になるところでした。

やがて謎の男「正義の味方」の捜査のために真壁鴻一郎という捜査官が登場。
警察庁の特別捜査室に所属している天才捜査官です。
真壁鴻一郎の専門分野は警察職員が被害者になる事件や、もしくは加害者になる事件の捜査です。
平和警察の二瓶という、物語の語り手の一人でもある男が真壁の案内役になります。
真壁は天才ではありますが変わり者でもあり、昆虫の話をよくします。
キャベツとアオムシの話はかなり面白かったです。
キャベツは青虫に葉を食べられると、アオムシコマユバチという寄生バチを呼び寄せます。
この寄生バチがアオムシに寄生してアオムシの数を減らすことができるのですが、どうやって寄生バチを呼ぶかの仕組みが興味深かったです。
真壁は「相手の力を利用してやっつける合気道みたいなもの」と言っていました。
やがて真壁は正義の味方には何か「救う基準」があるのではと考えます。
平和警察に連行されたり連行されそうになっているところを助けにきたことが何度かあるのですが、何人も捕まっている人がいた時に全員を助け出したわけではありません。
その基準が何なのか気になるところでした。
物語は第一部、第二部、第三部の三部構成になっていて、平和警察の酷さとそれに対抗する「正義の味方」の登場がメインだった第一部に対し、第二部は真壁鴻一郎の捜査がメインになっています。

第二部でも時折登場する、理容室を舞台にした話。
そこに髪を切ってもらいに来る大森鴎外君という学生が段々気になる存在になっていきました。
ただこの美容室を舞台にした話にはどんでん返しがあって、さすが伊坂さんという話になっていました。
理容室を舞台にした話では「三日後、録画装置の設定通り、この場面は消去された」という文が何度も出てきて、これも気になるところでした。
いずれ消去されない時、何らかの事件が起こる時が来るのかなと思いました。
真壁が次第に大森鴎外に興味を持ち足跡に迫っていくようになり、二つの物語が重なる時が来るのか、楽しみでした。
そして第二部ではラストで衝撃的なことが起こりました。

第三部の語り手は理容師の人。
名前は久慈羊介と言います。
冒頭から衝撃的なことが語られて驚きました。
またこの話では「秋の恒例行事、芋煮会」というのが出てきました。
これは「居酒屋ぼったくり3」にも出ていたので、芋を煮たものではなく豚汁的なものだというのが分かりました。

第三部は仙台駅の東口広場で行われる「公開処刑」を舞台に、大勢の人が集う大規模な話が展開されました。
平和警察の「公開処刑」が行われるのか、それとも「正義の味方」が阻止するのか、どんなラストになるのか興味深かったです。

ラストでは「この人物がこんな目に遭うのか」や「あの人物が実は!」といったなかなか驚きの展開になっていました。
あの展開を受けて平和警察の生みの親、薬師寺警視長はどう思っているのだろうと思いました。
平和警察については、いくら犯罪件数を減らすことが出来ても、自分達が狂気の犯罪者集団になってしまってはただの暴走だなと思います。


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