詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

森文子『野あざみ栞』

2021-05-04 19:31:07 | 詩集

 

森文子『野あざみ栞』(思潮社、2020年08月01日発行)

 森文子『野あざみ栞』の「なめくじを生きる」。

人目につかないのが大切 生きのびるには
うごきまわるのは夜中 昼間は ひそむ
だが ぬめっと這った跡をけすのが むずかしい

  くいちぎられ きのう 植えたサラダ菜
  ぬるぬるの大集団が まずは 頭にうかぶ
  ぱらのつぼみも あわれな

 

  きらわれることをすなおに 受けいれる
  二本の触覚 フルに使いこなす
  なめくじを したたかに 生きる

  今の世 わたしが学ぶべきかもしれない

 ここには二つの視点がある。
 なめくじは、害虫といえるだろう。つくった野菜をだめにする。こまったものだ。
 しかし、そのなめくじに学ぶべきものがある。嫌われていることを知っていて、(というのは、人間の解釈であって、ほんとうは違うかもしれない)、それでも生きている。
 で、この「思い入れ/勘違い?」を、森は、

きらわれることをすなおに 受けいれる


 と書く。
 ここにおもしろさがある。
 森がどういう人間かわたしは知らないが、詩を読む限り野菜を作っている人(農家の人)という感じがする。いまの時代、農家を生きるのはなかなか厳しい。農家の人間関係も、時代が変わったとはいえ、厳しいものがあるだろう。「人目につかないのが大切」ということばが、そういうことを暗示している。森は、人目を避け(家族の目をさけ)、夜中に自分のしたいことをしているのかもしれない。そして、それは評価されるとはかぎらない。いっそう「不評」を買うこともあるに違いない。
 「きらわれる」という一言には、いろいろな思いが去来しているだろう。
 しかし、きらわれることを「すなおに」受けいれる。この、「すなおに」がとてもいい。不思議な「深さ/強さ」をもっている。
 「すなおに受けいれる」と決然として言ってしまうのではなく、「すなおに」といったあと、ちょっと間がある(一字あき、の間がある)。その「間」のなかで動いているこころを、わたしは思うのである。ほんとうは受け入れるべきではないかもしれない。しかし、ぐっとがまんして受け入れる。その「がまん」のようなものを「すなおに」と言い直す。
 そこにある「矛盾」。
 そこから森は一気になめくじに近づいていく。なめくじのなかに「したたかさ」を感じる。その瞬間の変化、その変化をささえる「すなおに」と、そのあとの「一字あき」でつかみとるというか、表現している。

 

 


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ティム・ヒル監督「グランパ・ウォーズ」(★★)

2021-05-04 09:04:18 | 映画

ティム・ヒル監督「グランパ・ウォーズ」(★★)(2021年05月02日、キノシネマ天神、スクリーン1)

監督 ティム・ヒル 出演 ロバート・デ・ニーロ、オークス・フェグリー、ユマ・サーマン

 長い間映画を見ていなかったので、映画をどうやって見ていいのかわからない感じがした。それで、気楽に笑える映画をと思い、見に行ったが……。
 大人向けというよりも、家族向け、子ども向けコメディーだから、セリフがやたらとはっきりしている。ニュアンスではなく、はっきりと、わかりやすく。これは演技にもあらわれている。アクションがオーバー。内に抱え込んでいるものがない。すべてを出してしまうを通り越して、すべてを型の枠に入れてしまう。
 こういうとき、役者は何を感じるのかなあ。
 まあ、デ・ニーロは「童心」に帰って楽しんでいるなあ。ドッジボールのシーンははしゃいでいる。クライマックス(?)の孫との一対一の対決、ジャンプしてボールを投げるときの姿勢など、どうやってとったのかわからないが、さまになっている。「やれたぞ」と喜んでいる感じがいいなあ。
 それにしてもね。
 「タクシー・ドライバー」の、痩せて、ぎらぎらした感じの青年が、こんなに腹が出た老人になるのかと思うと、人間の体は不思議だ。「レイジング・ブル」のときは落ちぶれていくボクサーを演じるために何キロも太ったようだが、そのときの「酷使」が影響しているのかも。よくわからないが、太って「愛嬌」が出てきたので、こういう老人役には向いている。クリストファー・ウォーケンが、痩せたまま(それでも、「ディア・ハンター」と比べると太ったか)と比べると、その違いがわかる。
 ユマ・サーマンは、かつてはデ・ニーロのような「体の線」があったが、今回は、それがない。まあ、コメディーだから、か。
 私が唯一笑ったのは、予告編でもあったが、デ・ニーロのベッドにヘビがあらわれるシーン。これって、「ゴッド・ファーザー」の「馬の首」だね。でも、あの映画、デ・ニーロは出ていないんだよなあ。デ・ニーロが出たのは「パートⅡ」。でも、おかしい。何か、記憶をくすぐられる。
 で、ね。
 ここまで書いてきてわかることは、これはやっぱり「記憶をくすぐる」映画なのだ。デ・ニーロの友人がクリストファー・ウォーケンである理由も、さらには「戦争」が何やら「ゲリラ戦」(ベトナム戦争のとき、はやったことば)を思い出させるのも。そのときはなかったドローンも出てくるけれど、これだって、それを駆使するのはアメリカ(デ・ニーロ)だからね。ユマ・サーマンも、かつては「戦う女」だったから起用されたのかも。とくに戦うシーンはないが、ふたりの「戦争」を、うすうす感じるのも「戦士」だったからこそ。
 たぶん、そういう「見方」も求められているんだろうなあというか、そういう「見方」も期待して映画はつくられているんだろうなあ。でも、私は、こんな「うがった」見方が嫌い。映画は、過去にどんな映画を見たかを思い出すためのものじゃない。過去を思い出すためのものではない。
 次はもっと違う映画を見たいなあ。
 コロナが拡大する中、映画館も「時短」営業になるようだが。

 

 

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