詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

青柳俊哉「ブドウを想う」ほか

2023-09-27 22:01:25 | 現代詩講座

青柳俊哉「ブドウを想う」ほか(朝日カルチャー講座、2023年09月18日)

 受講生の作品。

ブドウを想う  青柳俊哉

広大な石の野で
整然と水晶を啄む鳥たち 

羽の内部で 
地の百合の花の匂いと
風景の背後から降るなにものかの囁きがやむ
一面に響きわたる雨音

渇いた深夜に
ひとつぶの甘美なブドウを
想う

すべて鳥たちは
澄んでいく肉体の果てに
ひそやかな囁きを握りしめよ

 どの行が好きか。「風景の背後から降るなにものかの囁きがやむ」「ひとつぶの甘美なブドウを。ひとつぶが印象的」「3連目全体。一行なら、ひそやかな囁きを握りしめよ。美しい風景が思い浮かぶ。鳥、羽、囁きが印象に残る」
 私はいくつかの「対比」と「呼応」がいいと思った。特に2連目が複雑でおもしろい。
 羽(飛ぶ、空)と地、内部と匂い(匂いは外に漏れると同時に内にこもる、ここではその、こもる静けさが深い響きになっている)。匂いと囁き。その囁きがやむとき、その静寂を破るようにして響く雨音。その雨(濡れたもの、湿ったもの)と乾いた(夜)との対比。対比と呼応の中から「ブドウ」が浮かび上がる。
 1連目に水晶が出てくる。水晶は何色だろう。「透明」という反応が多かった。澄んでいく、ということばが透明を引き出すかもしれない。私は、「紫水晶」を思い浮かべ、それが「ブドウ」だと思った。水晶が鳥の肉体の中でブドウにかわるのか、ブドウが紫水晶にかわるのか。どちらでもいいと思う。いずれにしろ、鳥が食べたものが鳥の肉体の中で(あるいは青柳なら意識、精神の中でというだろうか)別な存在にかわるとき、鳥はその変化に驚き、だれも歌わなかった歌を、囁きのように、漏らすかもしれない。
 青柳は、それを聞いたのかもしれない。

祈り 杉恵美子

いつのまにか秋風が
うしろから来ていた

ページをめくる先に手を伸ばし
ようやく来た季節に
丸ごと落ち着こうとするけれど

何故か手が届かない
蜻蛉が輪を描き
木の葉は揺れる

少しずつポケットに忍ぶ老いが
私を萎縮させる
体の鈍い痛みを押さえつつ
不安を背中にのせて
静かな安堵感を探す


すぐ出会えることもなく
手を伸ばして掴むものでもない
探して探して見つけるものでもない


秋は秋の中に
そこにある陽だまりのなかに
繰り返し読んだ 色褪せた
本の中に

ありのままの
むき出しの心のなかに

 「ことばに緊張感がある。ことばが静かに出てくる感じ」「ページをめくるように気持ちを詩に記している。祈りはこころのなかにあるのだろうか」「秋風から老いを連想した。老いを強く感じた。後半の『に』の繰り返し、対比がおもしろい」
 作者の杉は言う。「自分丸出しで恥ずかしい。タイトルは『祈り』でいいか、迷った」
 「最終連に祈りを感じた」「ことばが出会っていくとき、詩を感じた。祈りということばは本文にないけれど、詩が祈りかも」「4連目の書き方が新しい。丸出しというよりも、素直に書かれている感じ。安堵感が祈りかも」
 私は4連目の「探す」ということばのあと、詩のリズムが変化しているところが、とてもおもしろいと思った。
 「探す」けれども「なく」「ない」「ない」と否定のことばがつづく。そのあと、受講生が指摘した「に」の繰り返しがある。その「に」のあとには、ことばが省略されている。なんだろうか。「ある」である。
 「ない」、でも、ほんとうは「ある」。その「ある」は、しかし、ことばにしては変わってしまう「ある」なのだ。違うものになってしまう。だから「ある」とはいわない。いわないことによって、さらに「ある」が強くなる。
 転調と余白が非常に印象に残る。

正調  池田清子

交通整理をしていた
周りの人達をうまく誘導して
マイクを持って

夢、今?

姉のところには
何度も訪れるという
会話もし、ホッコリするとのこと
私のところには
待てど、待てど、現れず
私が本当に苦しんだり悩んだりした時
が 出番なのかなと

何事もない日常の 今?
交通整理?

長調のひとと
短調の好きなわたし

長調の夢が
長調で現れた!

 「長調、単調の対比がおもしろい」「交通整理がわからない。正調の意味は、調をととのえるということ?」「亡くなった夫が夢に出てきて、交通整理をしていた、ということでは? そう思って読んだ」「夢と思っていなかった」
 この詩はたしかに交通整理をどう把握するかで、感想が違ってくるだろう。
 ヒントは3連目の「姉のところには/何度も訪れるという」の「訪れる」だろう。もちろんだれが訪れるかは書いてないのだが。しかし、「待てど」あらわれないのに、待っていない「今」あらわれたというとが手がかりになると思う。
 「正調」の「正」は長調が正しい、単調が間違っているという意味ではなく、まさに、という意味だろう。長調の正確のひとが、「まさに」長調のままあらわれた。「まさに」が省略されて、その省略されたことばがタイトルになって隠れている。

   *  木谷明

中学時代の夢?
それは夢ではない
所持品だ
   *
キャスターがわたしのことばを話している
なぜ?
アフレコになっている
   *
薔薇色の染まる覚醒
   *
気に染まぬ昨夜のアフレコが残っていたのか
   *
キャスターは
コオロギ
だった
   *
二晩、鳴いていた
消灯の
ドップラー周波数
   *
返した虫は非コオロギ
目の端に右上の宙にいつも浮かんでいる
わたしのつめたさ

 タイトルが記号。タイトルがない。いわゆる「無題」ということになるかもしれない。 「アフレコがわからないけれど、ことばのつかい方、キャスター、コオロギ、ドップラーがおもしろい」「私は、所持品だ、薔薇色の染まる覚醒、返した虫は非コオロギがわからなかった」「わからなさがいい」「最終行の、わたしのつめたさ、が印象的。客観的にみつめている」
 私は、その最終連に、谷川俊太郎を思い出した。ほかにも谷川俊太郎を連想させるところがあるが、何かぜんぜん違うものが、ふっとあらわれて、「それがある」という感じ、「それ」としか呼べない「別のもの」を提示する仕方が似ている。
 なぜ「それ」なのか。「それ」は、全体とどういう関係にあるのか。こういうことは、論理的に説明してもしようがない。「あ、それ、わかる」という印象が瞬間的に生まれれば、その「それかわる」という感じが、たぶん、詩に触れたという感じなのだと思う。
 「ドップラー周波数(ドップラー現象)」を論理の中心に据え、「わたしのことば/アフレコ」「染まる/染まぬ」「コオロギ/非コオロギ」と対比させていけば、そこに相対的な変化が描かれている、その相対的な変化を認識する冷静な(つめたい)私という具合に全体を展望できるが、そうしてしまうと窮屈になる。
 ぼんと放り出された「わたしのつめたさ」に「あっ」と思えばいい、「あっ、そうなのか、それ(そういうものが)があるのか」と。


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(44)

2023-09-26 10:28:29 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「小アジアの田舎にて」。戦争後の「宣言起草」、結果は思いもかけないことに。しかし、あわてることはない。なんとなれば、

名前のところだけ変えればいい。

 この詩は、事実にもとづくというよりも、「寓話」(寓詩)である。だからこそ、そこには不思議な「真実」がある。「事実」を超える「真実」がある。それは、いつでも、どこでも、だれに対しても「ぴったり」重なる。
 この「ぴったり」は、この詩に書かれているのだが、その「ぴったり」を含む行を取り上げるか、「名前」の行を取り上げるか、私は、ずいぶん悩んだ。「ぴったり」の方に中井の、訳語の工夫があるかもしれない。
 工夫といえば。
 タイトルの「小アジアの田舎にて」にも工夫がある。中井の訳か、カヴァフィスの選択か判断できないが、「小」のなかには「大」が含まれている。どんな小さなところにも「真実」は不動のまま存在している。「田舎」にも「都会」にも、ひとは、同じように生きている。「名前」が違うだけで、「生きる」ことは「ぴったり」重なる。
 やはり「ぴったり」の方が、この詩の「ポイント」だったかもしれない。
 詩を読むときは、「意味」に引っ張られてはいけないね。

 

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松岡政則『ぢべたくちべた』

2023-09-24 15:47:55 | 詩集

 

松岡政則『ぢべたくちべた』(思潮社、2023年07月31日発行)

 松岡政則『ぢべたくちべた』の「通りすがり」。その書き出し。

ひるめしは道端食堂で
塩ゆでの田螺をピリ辛ダレで喰うた
じんわりと情の深まる滋味で

 「じんわり」はだれでもがつかうことばである。「じわり」というときもあるが、「じわり」よりも重い感じが私にはする。重いといえば「ずしり(ずっしり)」という表現もあるが、「じんわり」の方がゆっくりだ。私の印象、私が自分の思っていることをつたえるとしたら。
 なぜ、こんなことを書くかというと。
 私はときどき詩の講師をしている。そして、受講生に対して、「この『じんわり』を自分自身のことばで言い直すとなると、どうなる?」と質問する。
 これに対する答えは、なかなかむずかしい。「じんわり」で「わかってしまう」からである。「わかっている」ことをことばにするのは、ほんとうはむずかしい。かりすぎているために、ほかのことばが思いつかないのである。
 この「わかりすぎている」感じ。それを松岡は、次の行で、こう言い直している。

なぜとなくここで生まれたような気がしてくる

 これが、すばらしい。
 「じんわり」とは「ここで生まれたような」、つまり、最初からそれを知っていたような/それ以外のことを知らないような、何か絶対的なもの、に触れて、それが「正しい」というか、拒否できないもののように感じられることなのだ。
 突然ではなく、とても静かに、それが体を包む。
 何かを「喰うた」とき、それは肉体の仲に入るのだけれど、その肉体の中で静かにひろがり、肉体という枠をすりぬけて、外の世界とつながり、その外の世界が静かに肉体を包む。肉体の内と肉体の外の区別がつかなくなる。
 こういうことは、やはり静かに、ゆっくり起きてほしい。急に、突然だったら、きっとうろたえる。

じんわりと情の深まる滋味で
なぜとなくここで生まれたような気がしてくる

 松岡は、各地(主に東南アジアだが)を歩き、そこに住む人の声を聞き、そこに住むひとと同じものを食べる。そうすることで、そこに住むひとと「一体」になっていく。「じんわり」と。その融合の仕方が、とても気持ちがいい。

じんわりと情の深まる滋味で
なぜとなくここで生まれたような気がしてくる

 と松岡は書くのだが、この「ここで生まれたような気がしてくる」は、過去の記憶ではなく、「いま、ここで、生まれ変わる」と言い換えた方がぴったりすると思う。松岡は、旅をして、声を聞いて、その土地のものを食って、新しく生まれ変わって、生きるのだ。
 それが新しい体験なのに、懐かしい体験でもあるかのように。
 ここには「矛盾」があるのだが、だからこそ、それは信頼できる「真実」なのだ。

 

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室園美音「ミーハオ」

2023-09-23 20:55:36 | 現代詩講座

室園美音「ミーハオ」(現代詩講座、2023年09月16日)

 受講生の作品。「ミーハオ」は、教師の家庭訪問の体験を書いている。彼女が訪ねていく小学生の紹介にはじまり、直前の訪問先で待っている児童につれていかれるようにして家庭訪問する。「時系列」通りに、そのときのことが描かれている。

「ニーハオ」という中国語の挨拶の言葉を新鮮に使っていたころ
原爆ドームからほど近い小学校で三年生の担任をしていた
クラスの中ではやや小さめで 魅力的な笑顔で笑うかわいい男の子がいた
その子の苗字が三原であることから
休み時間などみんなに
「ミーハオ」と呼ばれていて 人気者だった
家庭訪問のとき 三原くんの家は 校区外だったのでその日の最後に予定を組んだ
彼は仲の良い 最後から二番目の女の子の家で待っていてくれて一緒に家に向かった

お母さんは 家の外で待っていてくださった
リビングに通され学校での様子などを話していると
広いリビングにあった滑り台で妹や弟と遊びだした
妹たちに気を付けながらも
ダイナミックで少し荒々しいほどの遊びをしていた
「学校でみんなに親しまれているのは のびのびと育つように見守られているからですね」と伝えると
お母さんは 突然
おじいさんとおばあさんの話をはじめられた
「嫁いできたころ うっかりお皿を割ると
高価なものであっても 安いものであっても
父も母も ものが増えた ものが増えた
って喜ぶんです ほんとうに喜ぶんです」と
あたかも 言葉以上の確かなものがあったかのように 少し遠くを見つめながら話された

帰りの電車の中で
ミーハオの笑顔の後ろで そっと見守るおじいさんとおばあさんの眼差し
お父さんとお母さんがそれを喜び一緒に在る姿が浮かんだ
灯りがやけに懐かしい色にみえた
原爆投下後 広島の焼け野が原の中でお父さんは生を受け育ってこられた
子どもも 大人も 年寄りも復興を支え みんなで生きてこられたのだろう
そういう時代があったことを日常の体験の中で ふかく刻みこんでもらった
子どもの笑顔は 未来の光です
ミーハオの笑顔 傷みを持ちつつ支え喜ぶ身近な大人の姿
それは にもかかわらず歩んでいくのだ・・・と
今でも励まし支えるしるべになっている

 家庭訪問先での様子、児童が妹や弟と遊ぶ様子のあと、児童の母との会話があり、そのあと帰りの電車で、訪問した先の「感想」まで書いている。まあ、なんというていねいさだろう。あまりにもていねいに、その日のことを書いているので、長いなあとも思う。

 しかし。
 
 私は、この詩で、一か所、あることばに、とても感動した。最終連の「そういう時代があったことを日常の体験の中で ふかく刻みこんでもらった」の「もらった」ということばに。
 その直前に「原爆投下後 広島の焼け野が原の中でお父さんは生を受け育ってこられた/子どもも 大人も 年寄りも復興を支え みんなで生きてこられたのだろう」という二行がある。そこには「こられた」が繰り返されている。敬語である。「こられた」「こられた」と書いたのなら、学校文法では「もらった」ではなく「いただいた」になるだろうと思う。
 私は外国人相手にときどき日本語教師をしているのだが、もしその生徒が「もらった」と書いたら、ここは「いただいた」にしないと文体の統一感がなくなる、と指摘すると思う。
 しかし、詩は、日本語検定の作文ではない。
 室園はなぜ「いただいた」ではなく「もらった」と書いたのか。「いただいた」では、「敬語」が「距離感」をつくりだしてしまう。児童の母、さらには児童の父母との「関係」に距離感ができてしま。距離感は、なんというか、ちょっと冷たいものである。
 親近感を覚え、その一家と一体になった瞬間、「敬語」が消えるのである。一体だから「敬語」をつかう必要がない。この一体になるというこころの動きが「もらった」のひとことに凝縮されている。
 ここに人間の「あたりまえ」がとても自然な形で表現されている。
 そして、その「あたりまえ」の感じと、その連の「灯りがやけに懐かしい色にみえた」の「懐かしい」が、とてもよく響きあう。「あたりまえ」のものは「新しい」ものではない。たいてい、知っているものである。知っているけれど、知らず知らずに忘れていた。それを思い出す。ああ、懐かしいなあ、と。

 この詩は「現代詩」ではないかもしれない。「現代詩ではない」というひとがいるかもしれない。
 しかし、それはそれでいいのだと私は思う。人間性に「現代」も「過去」も「未来」もない。ただ、「あたりまえ」であれば、それでいいのだ。「あたりまえ」のことが、そこにことばとして動いていれば、それに感動する。
 ここには、室薗の「人柄」があらわれている。「人柄」が自然にあらわれてくることば、「あたりまえ」が自然に動いていることばが、とてもいい。

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(43)

2023-09-23 10:30:08 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 主人公は「名哲学者の学校出」。サッカスのもとで哲学を学んだ。しかし、厭きた。政治に首を突っこんでみた。つまらなかった。キリスト教の教会にも顔を出した。曖昧宿の常連にもなった。顔のよさが幸運をもたらした。でも、将来は?

いつでも誂え向きのがあるさ。

 「誂え向き」以外に、ことばがあるだろうか。この詩の主人公、甘えん坊にぴったりのことばではないか。
 甘えん坊とは、いつも「誂え向き」の世界に受け入れられて、のうのうと生きて行ける人間のことだが、なぜだろう、そういう人間と、その手の世界は「一体」になっているようにも感じる。
 それこそ「誂えた」ように。
 そして、そのことばはまた、この詩のために「誂え」られたもののようにも感じてしまう。「一体」になっている。

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(42)

2023-09-21 21:33:22 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「ダレイオス大王」。詩人フェルナセスが、ダイオレスがペルシャの王位を奪う詩を書いている。ダイレオスは、そのとき何を思うか。そして、詩が完成する寸前に戦争が起こる。ダイオレスは逃げ出す。
 そのさなかに、詩のハイライトで悩んでいたことばが、確かなものになる。

驕りと陶酔--これだ、一番確かなのは。

 この一行にある、絶対的な皮肉。
 もちろん戦争に勝ったとき「驕りと陶酔」がダレイオスを包む。しかし、敗北したときもまた「驕りと陶酔」が炸裂する。
 それは、思い出として。
 この一行を読んだ瞬間、私は、またも「船上にて」を思い出すのだ。
 恋をしていたあのときの、「驕りと陶酔」。それは恋人を失ったことでさらに絶対的なものになる。それしか残されていないのだ。「驕りと陶酔」、それだけが確かなのだ。
 この詩には「恋」の「この字」も書かれていないが、私は、恋を感じてしまう。

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(41)

2023-09-20 21:25:13 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「亡霊たちを招く」。ロウソクを一本だけつけて、淡い光のなかで愛の亡霊を招くのだが、この「招く」を、こう言い直している。

この深い夢うつつの中で私はまぼろしを作る、

 「作る」。これは「招く」よりも強い。招いても来ないかもしれない。しかし、作れば、そこに存在する。「船上にて」のスケッチ(素描)と同じである。思いのままに、そこに存在させることができる。
 「亡霊」など存在しない。「まぼろし」も存在しないからこそ「まぼろし」というのかもしれないが、それは作ってしまえば存在するのだ。
 そのとき「愛の亡霊」はかつての恋人ではなく、詩人の「恋心」、「恋した瞬間の思い」にほかならない。

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(40)

2023-09-18 21:45:09 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「船上にて」。一枚の素描を見ている。だれが描いたのか、中井の訳では分からない。「甲板で一気に描いた」という行がある。他の男が描いたのかもしれない。カヴァフィスが描いたのかもしれない。日本語は「主語」を省略できるので、そういう書き方ができる。そのあとに、こういう一行がある。

似ている。でも奴はもっと美男だった。

 私ならもっと美男に描く、と読むことができる。しかし、そうではないだろう。私のスケッチはへたくそだ。彼はもっと美男だった、もっと美男に描くべきだったという後悔いが込み上げてくるのだ。
 もし「主語」が明示されていたら、生々しくなりすぎる。思い出しているということが、切実になりすぎる。でも奴はもっと美男「である」になってしまうかもしれない。
 「似ている」という現在形、「美男だった」という過去形。その「時制」の変化(揺らぎ)をつなぎ止めているのが省略された主語(私=カヴァフィス)である。省略されているからこそ、その省略された部分(なぞの部分)で、読者はカヴァフィスとシンクロすることができる。
 中井の訳は、そういう魔術的文体を動いていく。


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(39)

2023-09-17 21:04:41 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「午後の日射し」。珍しく「女ことば」で訳されている。なんとなく、べたっとした響きに聞こえる。

ああいう古い物って、まだ身のまわりに漂っているのね、きっと。

 この「漂う」という動詞が、それこそ「身のまわりに」からみついてくるようで、重たい。それに追い打ちをかけるように、「きっと」がつづく。
 もし「男ことば」として訳するなら、「きっと」は行末ではないだろうなあ、と思う。この「きっと」には、追いかけてくるような「未練」がある。そして、実際、この詩は未練の詩である。
 そう思うと、この詩を「女ことば」として訳したのは、深い配慮があるのだ。


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Estoy Loco por España(番外篇399)Obra, Luciano González Diaz

2023-09-17 11:10:43 | estoy loco por espana

Obra, Luciano González Diaz
" La huida " Realizada en bronce patinado, hierro patinado, mide 2mx 75x50cm

 "La huida". ¿De dónde y a dónde huye este hombre de Luciano? ¿De arriba hacia abajo? ¿De abajo hacia arriba?
 Imagino un movimiento de abajo hacia arriba. La esfera es una semilla. De ella crece un brote. Nadie sabe hasta dónde crecerá. Sube hasta donde crece. ¿Qué verá entonces el hombre? No es un mundo visto a través de una estrecha ventana. No hay marco. Él mismo, su cuerpo, sus pensamientos, se liberan en el mundo o en el univercio.
 Quiere ver lo que no conoce (lo que no ha visto). En consecuencia, no le importa dejar de ser él mismo. "Se huye" de si mismo del pasado al si mismo nuevo.
 Lo brote por los que trepa es delgado y siempre torcido. Pero su cuerpo es recto. No vacila en absoluto. Cuando trepe por el brote, éste se convertirá en tronco y el tronco en un gran árbol.

 " La huida(逃亡、脱出) "。Luciano のこの男は、どこから、どこへ逃げるのか。上から下へか。下から上へか。
 私は、下から上への運動を想像した。球体は種子。そこから一本の芽が伸びる。それはどこまで伸びていくのかだれも知らない。伸びるところまで登ってみる。そのとき男は何を見るだろうか。狭い窓を通して見る世界ではない。そこにはどんな枠組みもない。彼自身が、彼の肉体、彼の思想が、世界に向かって解放される。
 知らないもの(見たことのないもの)を見たい。その結果、自分が自分でなくなってもかまわない。彼は、過去の自分から、道の自分へと「逃げる」のである。
 彼が登る芽は細く、頼りなげに曲がっている。しかし、彼の肉体はまっすぐである。そこにはどんな迷いもない。彼が芽を登るとき、芽は幹に、幹は大きな木へと変わっていくだろう。

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(38)

2023-09-13 23:18:51 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「九時から」は、ちょっと複雑な詩である。

十二時半。九時からの時間の早さ。

 九時から何かをし始め、十二時半になった。時がたつのは速い。
 主人公(カヴァフィス)は何をしたのか。何もしない。ただ思い出していた。そして、思い出すのは、若かったときだ。
 だから、ここに書かれているのは、実は九時から十二時半までの三時間半ではない。彼の長い年月のことを書いているのだが、では、なぜ九時からなのだろうか。十二時半までなのだろうか。
 たぶん。
 九時から十二時半まで、彼は楽しんだのだ。あるいは、十二時かもしれないが。毎日。それは、日課だったのだ。
 中井は「早さ」という表現を一行目でつかっているが、最後の方では「疾き」という表現をしている。わざと、「速さ」を「早さ」と、書いているだと思う。
 「十二時半、帰らなくては」「まだ早いじゃないか」。そんな会話が、書かれていないことばが、遠くから聞こえてくる。

 

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Estoy Loco por España(番外篇398)Obra, Jesus del Peso

2023-09-13 22:23:21 | estoy loco por espana

Obra, Jesus del Peso

 Esta obra de Jesús también es extraña. Existe en una forma inestable sobre una piedra inestable. Normalmente, esta obra caería. Pero ahí sigue. Como si ser inestable fuera el estado más estable.
 Contradicción.
 El descubrimiento de contradicciones puede ser el arte. No, el arte no es el descubrimiento de contradicciones, sino la creación de contradicciones. Crea algo que no existe. No hay contradicciones en la naturaleza. Sólo las cosas creadas por humanos pueden decirnos que existen contradicciones.
 ¿Esta obra, que parece un hombre sentado sobre una piedra leyendo un libro, es resultado de un cubo desmantelado o está a punto de convertirse en cubo? Jesús deja que el espectador decida. En otras palabras, le está diciendo al espectador que mire esta obra e imagine cómo se moverá, no sólo para imaginarla, sino para crear nuevas contradicciones.

 このJesus の作品も不思議だ。不安定な石の上に、不安定な形のまま、載っている。ふつうなら、この作品は落下する。だが、そのままとどまっている。まるで、不安定であることが、いちばん安定した状態であるかのように。
 矛盾。
 矛盾の発見が芸術かもしれない。いや、発見ではなく、創造が芸術である。存在しないものをつくりだす。
 この、石に腰掛け本を読んでいる男にも見える作品は、立方体が解体してできたものなのか、これから立方体になろうとしているか。どう判断するか、Jesus は見るひとに任せている。つまり、この作品を見て、この作品がどう動いていくか、それを鑑賞者に、想像し、さらに創造しろと言っている。

 

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細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」

2023-09-12 20:39:22 | 詩(雑誌・同人誌)

細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」(「雨期」81、2023年08月30日発行)

 細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」。後者にブローディガンが登場する。ブローティガンを読んでいるのかもしれない。はっきり覚えているわけではないが、細田のこんかいのことばはブローティガン共通するものがある。(私は日本語訳で読んだので、こういう書き方は、かなりいい加減なものだが、まあ、詩だから、いい加減なことを書いた方が、間違いを侵さずにすむかもしれない。)
 何が共通しているか。ことばが詩になる前に動き出す。その動きに引っ張られて、あ、この「直接性」が詩なのかと気づく。詩は、ことばと遅れてやってくる。
 「ヴァージャイナ」の一連目。

スカートをつけて
ハイヒールをはいて
エルメスのバッグをさげて
コツコツコツ
路上に靴音をたてて
ヴァージャイナが去っていく
そんな格好してどこへいくんだいヴァージャイナ!
あなたを嫌いになったから
振りむいて
彼女が言う
あたし娼婦になって
自立して生きていくのよ
よせ!他の男には見せるな

 いくつかの行は前後を入れ替えた方が意味がとおりやすくなるだろう。しかし、それは「散文的修正」というものである。私たちは、学校で「修正」の仕方をならう。つまり、正しいことばの順序を。そして、その正しさとは、まあ、だれかがだれかを支配するのに便利な「秩序」なのだろう。でも、いつでも、ことばは「秩序」を気にせずに動く。そして、乱雑な秩序には乱雑なりの、どうすることもできない「勢い」というものがある。その「勢い」が詩を刺戟する。刺戟されて、詩が「勢い」を追いかける。そのリズムが、いまの細田のことばを動かしている。

あーあーあー
Merde alors!勝手にしやがれ
こうなったら
ピレネーを超え
地中海を飛んで
密林に帰り
恋愛の
王になってやる
こんな糞だらけの路上
フランス乞食に呉れてやる

去ね!ヴァージャイナ。

 おもしろくて全行引用してしまった。
 ここでも、ことばはすべてを追い越していく。追い越されたときに、目覚める詩というものがあるのだ。
 最終行の「去ね!」は「いね!」と読む。「行っちまえ」ではないところが、実にいい。「去ね!」なんて、いまはだれも言わない。では、なぜ、そのことばはあらわれたのか。何もかも追い越していくことばに刺戟されて、過去のことばが、いまのことばを追い越したのだ。
 そしてね。
 このとき、時間は、すべて「いま」になるのだ。言い換えると、ことばには「いま」しかないと、ことばが、いや、詩が気づくのだというべきか。

 「西新宿断截」はどうか。全行引用したいが、遠慮しておく。「自死につて」という誤植があることだし。
 後半。

ブローティガンの自裁に
無縁のわたしが
折り合いをつけようとしている
路上生活の
男たちが
車座になって話をしている
聞き耳をたてると
めいめい自伝を語っている
わたしには話すべき来歴がない
この人たちの輪にははいれない
三角形の
住友ビルが無言の硝子戸を開く

 「この人たちの輪にははいれない」まではいい。しかし、ブローティガンなら最後の二行は違っているだろう。これでは、日本の古くさい抒情詩である。そこがいい、というひともいるだろうが、私は、ここはよくない、と書いておきたい。
 この二行のことばは、何も追い越していない。ここにある詩は、目覚めさせられた詩ではなく、余裕を持って、「これが詩です」と自慢している詩だ。
 一連目はとてもおもしろいし、二連目も途中までは楽しい。最後だけが、つまらない。

 

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山本育夫『ことばの薄日』

2023-09-11 21:56:15 | 詩集

 

山本育夫『ことばの薄日』(思潮社、2023年08月20日発行)

 『ことばの薄日』には、「博物誌」に発表されたときに感想を書いたものもある。書いたかどうか忘れたものもある。
 「しの居場所」の「し」は「詩」か。

しがありそうなところにはしはない
みんながしだとおもっているところにはしはいない
しじんがしだとおもっているところにはしはいない
しは薄い薄い皮膜のようなところにひっそりと棲息している
しはかぎりなくふつうのことばのふりをしている

 「ない」「いない」が「棲息している」「ふりをしている」にかわる。
 なぜ、私たちは「否定形」のまま語り続けることができないのか。どうして「いる」のような「肯定形」をつかわないと何かを語れないのか。
 しかし、この肯定形は積極的(?)な肯定形ではない。「ひっそり」とか「ふり」とか微妙なものを含んでいる。「薄い」もそのひとつだろう。その微妙なものを「否定形」の一種と呼ぶこともできるかもしれない。だから、やまもとは、この詩を「否定形」だけで書いたと言うこともできる。

 しかし、私がこの詩を読んで思うことは、もうひとつある。
 「詩の存在しない場所」を山本は書くことができるか。

 詩は存在するとか、存在しないとか、どこに存在するか、どこに存在しないか、というのは、その問い自体がレトリックにすぎない。
 存在させる意思が詩人に(あるいは読者に)あるかどうかだろう、と書いてしまえば、それもレトリックになってしまうかもしれないが。

 寺山修司や谷川俊太郎を思い起こさせるレトリックがここにある、と感じるのは私だけか。


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(36)

2023-09-10 21:41:27 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「忘れるな、身体よ……」は、自分自身の「身体」に呼びかける詩である。

忘れるな、ああ、きみを見つめていた眼の中の、あの憧れのきらめきよ。

 「ああ」が美しい。「あ」の「あ」こがれのということばのなかで、「ああ」が繰り返される。いや、「ああ」が「あ」の「あ」こがれのという音を先取りしているのだ。
 「ああ」がなくても「意味」はかわらない。
 しかし、詩は「意味」ではない。
 「あの」ということばは、話者と聞き手が「あの」について共通の認識をもっているときにつかわれる。自分自身の身体なのだから、詩人と共通の認識をもってるのは当然なのだが、その共通の「あの」の「あ」が和音となって重なり、和音となって散らばる。この重なりと分散が、ああ、美しい。


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