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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎「深きより」を読む、発売中

2021-01-25 23:33:16 | 高橋睦郎『深きより』
最新評論集
「高橋睦郎の「深きより」を読む」
発売中。
定価1000円(税込み1100円)



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高橋睦郎『深きより』(28)

2021-01-03 10:19:05 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(28)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「対話 半世紀ののちに」

 「対話 半世紀ののちに」には「跋に代へる」書いてある。三島由紀夫と高橋の「対話」が書かれている。三島も登場するが、高橋自身が登場しているということが要点だと思う。二十七の作品で高橋はだれかに「なりすまし」てきた。しかし、ここでは高橋はだれかに「なりすまし」たりはしていない。三島は、高橋が高橋になるための「方便」である。もちろん高橋が高橋に「なりすまし」ていると読むこともできるのだが、「なりすまし」てでもあらわしたい高橋の本質が書かれているととらえれば、ここには高橋の「正直」があらわれているといえる。
 高橋は三島に向かって、こんなことを言う。

                 あなたが拘はられた男根切除願望の
もう一つの根にあるものは何か。僕の推理のつづきを言へば、女性といふ
真の虚になること、真の虚になつて真の実有の訪れを待ち受けること。そ
れこそが古へ詩人であることを女性から奪はうと企てた男性の究極の自
己実現ではないでせうか。

 なぜ「あなた/僕(三島/高橋)」の対極に「女性」を置くのか。なぜ「高橋/三島」を「男性」と規定するのか。「男根」があるから、と言えばそれまでだが、この考え方そのものが「男根主義」であり、その究極にあるのが「男根切除願望」ということになるだろう。「男根」がなければ「切除願望」も生まれない。
 なぜ、こんなことを言うかというと……。
 高橋がこの詩集で試みていることは、高橋が「女性」になることではない。たしかに「女性」が主人公の作品もあるが、登場人物が「男性」であれ、「女性」であれ、高橋が「偽装」しているのは「他人」である。
 高橋が書いている「女性」を「他人」と言い換えると、こうなる。

「他人」といふ真の虚になること、真の虚になつて真の実有の訪れを待ち受けること

 「他人」がなぜ「真の虚」か。「僕(高橋)」が「真の実」なのに、その存在を排除しているからである。女性の詩人になりかわったときは、たしかに高橋の書いていることがそのままあてはまるが、高橋がやったのは「古へ詩人」になり、「真の実有の訪れ」の現場を再現するということである。だから、高橋の書いている「女性」をそのまま「女性」と読むわけにはいかない。
 詩集の後半には「式子内親王」以外の女性は出てこない。「源実朝」以降は「男性」しか出てこない。もちろんそこに出てくる「男性」も、実は「男根切除願望」をもった「男性」であり、実は「女性」だったと読むことができないわけではないが、そういう複雑な過程を経なくても「他人」という「項目」を立てればすむ話である。
 それなのに、「他人」ではなく「女性」にこだわる。ここに、私はとても不思議なものを感じる。錯綜した意識を感じる。
 高橋の欲望の奥底には、「自分は女性である。男(性)ではなく女(性)を生きている。だから真の実有を表現できる。もし男性の(高橋以外の)男根を切除してしまえば、世界の人間は真の実有(詩)だけでつくられたユートピアになる」という考えがあるのではないか。高橋を「男」ではなく「女」にしてしまう「男」にあこがれ、同時にその「男」の「男根を切除」することで、「男」を「女(自分=高橋)」の世界に招き入れ、「真の虚」にさせ、「真の虚」になった二人で「真の実有」を共有する。詩を、あるいは言語によって構築された美を共有する。
 それはそれで「論理」としては一貫するのかもしれない。(高橋は「論理」ではなく、「推理」ということばをつかっている。)
 でも、そのとき、女の性をもって生まれてきた「他人」との世界はどうなるのか。高橋の「論理」は、男性的な、あまりにも男性的な「虚構」に見える。
 女性が「私は虚ではない」と主張したとき、高橋の「論理」はどう立ち向かうことができるのか。高橋は、それを考えたこと(推理したこと)がないかもしれない、と思った。そこに高橋の「正直」と「うさんくささ」を私は同時に感じてしまう。



 この詩集には「伝統という冥界下り」というしおりがついている。「重ねての代跋」というサブタイトルがついている。この文章は、タイトルを見てもわかる通り「旧かな」ではなく「現代かな」で書かれている。つかわれている漢字も「常用漢字体」である。
 詩集の「跋」なのだが、あきらかに詩集とは切り離されている。
 これは、私から見れば、あまりにも「うさんくさい」。だから、「うさんくさい」とだけ書いて、あとは何も言わない。






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高橋睦郎『深きより』(27)

2021-01-02 15:05:13 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(27)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十七 悪の華くらべ」は「河竹黙阿弥」。

 ボードレールの「悪の華」を引き合いに出し、「白波五人男」のことを書いている。その終わりの部分。

なに僕とて真面目は立前 紙の上での悪行三昧
謳う勧善懲悪とは お上を憚るうはべの口実

 とある。
 そうであるなら、この「論理」もまた、だれかを憚る上辺の口実ではないだろうか。偽装は「僕」と書いて「あたし」と読ませるところにも垣間見ることができる。
 だいたい「悪」とは何なのか。
 それは前半に書かれている。「悪」とは定義されずに狂暴に振る舞っている存在がある。

見直せば はだか身に長襦袢の前髪立ち
女と見紛ひ見取れた刹那 見返された目つきの凄さ

 「女と見紛」う美しさ、「見取れ」る美しさ。「悪」にとって重要なのは「見紛う」だろう。そして「見取れる」だろう。「間違っている」けれど、「見取れる(引きつけられ、誘い込まれる)」ものが「悪」なのだ。単純な美しさは「見紛う」ことはない。
 しかし、それよりもさらに重要なのは「見返された目つきの凄さ」の「見返す」という動きだ。「見返す」は「誘い」でもある。「ついて来られるわけがないだろう」と拒絶を投げつけることで、誘っているのである。
 ここには「矛盾」があるのだ。矛盾を生み出してしまうのが「悪」だろう。

 この詩では先に書いたように、高橋は「僕」と書いて「あたし」と読ませている。これまでの作品に出てきた「わたくし」「わたし(これは一回限り)」とは違い、一種の「間違い」を含んでいる。「嘘」を含んでいる。しかし、それは「悪」と呼ぶにはあまりにも弱い。
 なぜ、この作品だけ「わたくし」と書かずに「僕(あたし)」と書いたのか。「わたくし」と書いて、同じ嘘、同じ「悪」を書こうとしなかったのか。






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高橋睦郎『深きより』(26)

2021-01-01 12:31:59 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(26)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十六 語らず歌へ」は「蕪村」。

思ひ出す 毛馬の堤は いつにても春の日永
その上を駈けつ転びつ 日ねもす遊ぶ幼い日日

 「思ひ出す」と「いつにても」が強く結びついている。これは、高橋が、やはりいつも故郷(生誕の地)を思い出しているからだろうか。「日永」と「日ねもす」が「一日」をを永遠に帰る。その「永遠」は一日ではなく「日日」となってつづく。

水の上には上り下りの川船 陸には行き来の客
中に藪入り里帰りの嬢あり 浪華振りの化粧衣裳
年嵩の悪太郎に唆されて囃したこと 忘れもやらぬ

 「思ひ出す」はもう一度「忘れもやらぬ」と言い直される。
 この書き出しの五行は、非常に音楽的だ。情景が見えるというよりも、幼い日々のこころの伸びやかなリズムが聴こえる。
 高橋も、やはり里帰りのだれかを囃したことがあったのか、と想像させる。同時に、年上の女性への、不思議な視線も感じられる。故郷と年上の女性とが緊密に結びついているところに、蕪村の、ではなく、高橋の人生が反映されているのだろうか。

父母は知らず まことに私を知る友垣なら はるか後世
明治の子規居士 大正の朔太郎ぬし つづく誰彼

 「つづく誰彼」に高橋が入るのだろう。もし、「蕪村」を高橋に置き換えるとき、では子規や朔太郎はだれになるだろうか。高橋は三島由紀夫を思い描いているかもしれない。



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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
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高橋睦郎『深きより』(25)

2020-12-30 10:16:14 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(25)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十五 作者名乗りとて」は「近松門左衛門」。

二人の血の婚礼をことほぐ道行唄も わが発明ならず
外ならぬ 二人の最期がもたらしたもの わたくしは
それをしかと聞き取り 忠実に記し取つたに過ぎぬ

 この「謙虚さ」は近松にかぎらないかもしれない。シェークスピアも、自分の声ではなく、市井で聞いた人々の声を舞台に載せた、と言えるかもしれない。舞台を離れれば、たとえば谷川俊太郎は自分の声よりも、やはり市井で聞いた他人の声を「忠実に記し取つた」と言えるだろう。多くの「ことば」は「他人のことば」である。
 日本国憲法さえ、幣原喜重郎は「9条の原点」を「いったい、君はこうまで日本が追い詰められていたのを知っていたのか。なぜ戦争をしなければならなかったのか。おれは政府の発表したものを熱心に読んだが、なぜこんな大きな戦争をしなければならなかったのか、ちっともわからない。戦争は勝った勝ったで敵をひどくたたきつけたとばかり思っていると、何だ、無条件降伏じゃないか。足も腰も立たぬほど負けたんじゃないか。おれたちは知らぬ間に戦争に引き込まれて、知らぬ間に降参する。自分は目隠しをされて場に追い込まれる牛のような目にあわされたのである。けしからぬのは、われわれをだまし討ちにした当局の連中だ」と言っている。(鶴見俊輔『敗北力』から)
 ことばに携わる人間は、常に「他人の声」を「自分の声」として聞く。
 高橋は、これをさらに拡大している。

詞のみならず 詞を立ちあがらせる 三絃の曲節も
詞節に合わせてうごく人形の振りもまた 二人の手柄

 「人形の振り」というとき、そこには人形を動かす人が、ことばを聞く人と同じように存在する。「二人の手柄」は、そこまで広がっている。
 しかし、そこにとどまらずに、高橋はさらにことばを動かす。

開闢以来 人びとが流しつづけて 水に様ふ捨て人形の
まぼろしの 慰みたはぶれごとと ご承知あれ

 「二人の手柄」を「人形の手柄」にまで還元する。「人形」がなかったら、二人の悲劇は『曽根崎心中』に結晶はしなかった。
 この「結論」までの道筋をたどるには、もっと多くのことばが必要だと思うが、それについては高橋は書いていない。高橋にとって、「人形」こそが「詩」なのだという思想が、肉体になってしまっているためだろう。「生身」が「現実」ではなく、「人形」が現実。それは肉体が現実ではなく、「ことば」が現実なのだ、と言い直せば高橋を語ることになるのかもしれない。
 高橋は「ことば」という現実を生きている。肉体にしている。





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高橋睦郎『深きより』(24)

2020-12-27 11:16:25 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(24)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十四 旅に死んでなほ」は「芭蕉」。

宿の外は時雨 降ると思へば止み 止むと見れば又降り

 この絶え間なく変化する動きは、逆に、芭蕉の多くの「静謐な世界」を鮮烈にする。激しい動きが見えていたから、一瞬の絶対を芭蕉は見ることができたのだと感じさせてくれる。

雨脚しぶく夜闇のむかうは枯野 其処駈け廻るは
夢に変じた魂魄 わたしはいつより魂魄と化したのか

 私は驚いてしまった。枯野を駆けめぐっているのが「魂魄」と考えたことはなかった。芭蕉が「肉体」のまま駆けめぐる姿を想像していた。(ここには「わたくし」ではなく「わたし」と書かれているが、誤植だろうか。あえて、ここだけ「わたし」にしたのか、気になる。)
 高橋はこのあと、芭蕉を夢の中で長崎へ向かわせている。

石の道 石の大厦 石の城市 石の広場に炎のはしら
同じき景色は百 千 万と増えやまない 石の枯野

 「石の枯野」は芭蕉ではなく、高橋が夢見ている枯野だろう。高橋は長崎を越え、中国を越え、ヨーロッパを駆けめぐっているのかもしれない。
 前後するが、最初に引用した行の直前の一行のなかに「越え」ということばがある。

それでも芯は覚めてゐるのか 寝を囲む人びとを越え

 この「越える」という動詞が「肉体」を越えて「枯野」を越えて長崎まで旅するとき、その芭蕉と一体になっている高橋ならば、きっと長崎を越え、石のヨーロッパへ向かっているだろう。







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高橋睦郎『深きより』(23)

2020-12-22 10:54:55 | 高橋睦郎『深きより』
高橋睦郎『深きより』(23)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十三 立ちぞ浮かるる」は「宗祇」。

連歌こそがわたくしを産み わたくしを育てた
連歌がわたくしに命じるので わたくしは旅に出た
旅に次ぐ旅の中で わたくしはわたくしになつていつた

 この「論理」はあまりにも論理的で、味気がない。芭蕉は、この宗祇にならったということだろうし、ほかの詩人たちも「旅」を生きたどうかは別にして、「ことばがわたくしを産み、わたくしを育てた」「ことばのなかでわたくしはわたくしになつていつた」と言えるだろう。
 宗祇の、宗祇性は、どこにあるのか。

武将たちは束の間のたのしみに 連歌の座を設けたがつた
そこに現はれて一座を捌くわたくしは 漂白の乞食神

 「捌く」という動詞に、高橋は、宗祇を見ている。「座」を捌く。しかも「一座」を捌く。このときの「一座」とは「一期一会」の「一」を含んでいる。その瞬間にだけ「現はれる」ものである。そして、それは「捌く」ことによって「一」を超えて「永遠」になる。「捌く」は姿を整え、完成させるということである。
 高橋が試みているこの詩集そのものが、高橋の「捌き」によって初めて成立する「一回かぎり」の「永遠」なのである。
 「捌く」ことによって、その「座」に存在する「座」そのものを、「定着」ではなく「漂白」させる。「ことば」そのものを「漂白」させる。新しい旅、誰も体験したことのない、しかし、誰もが知っている旅へと誘い出す。
 そこで、ことばは「古今」に、「源氏」に、「伊勢」に会う。それもやはり「一期一会」なのだ。

 稗田阿礼から出発して、何人ものことば(人生)を「捌き」ながら、高橋は、「わたくしはわたくしになつていつた」という過程を、この詩集のなかで、新しく実践して見せている。






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高橋睦郎『深きより』(22)

2020-12-21 10:00:38 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(22)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十二 魔界へ 虚無へ」は「一休宗純」。

 世阿弥で語られていた「自然」が言い直されている。

大悟とは何の大悟 悟りを求めぬこそ真の悟りならずや

 「真の悟り」とは「悟りを求めぬ」こと。この「真」が「自然」である。「自然の悟り」。「自然」の定義はむずかしいが、「ほんらい」、もとのかたちとつかんでみよう。
 たとえば、それは

やむなく許されて 腰萎えの老師の屎尿の濯ぎ役
昼は都に出ての香袋づくり・雛人形の顔描き稼ぎ

ということと、

印可状など破り去り 昼も夜も入り浸る魚肆・淫房
老い耄けては盲の女芸人を仏と崇め 啜淫・雲雨の契り

は同じことと。「違い」を持ち込まない。この「違い」は「境」と言い直されて、最終行にあらわれる。

入り難い魔界を得たとは 即ち詩禅一如の虚か無の境?

 「境」などない。「境」に人間の「理性」が持ち込んだものであって、「迷い」にすぎない。「理性」をとっぱらえば、世界は「一つ」になる。それが「自然」の状態であり、「悟り」ということになる。
 そう「頭」で理解して(あるいは、誤読して)、その上で思うのだが……。

記憶の如きはないではない 仄かな乳汁の匂ひと
白い胸乳の暖かさ あれが世に母というものか

 この「母」の描写には、乗り越えられない「境」がある。「母」は「私」ではない、「母」は「私」から切り離された存在である、という「認識(理性)」がある。
 高橋が「悟り」に到達できないとしたら、それは「母」の記憶があるためだ。また高橋が「悟り」を求めずにはいられないのは「母」の記憶があるからだ。高橋を個人的に知っているわけではないが、「母」は高橋にとって非常に重大なテーマなのだということが、この詩から感じられる。
 「母」は「自然」であると同時に「自然」を否定する。「母」を「ことば」と言い換えるなら、「ことば」は「自然」を求めて「詩」になろうとする。「ことば」が「詩」になったとき、そこに「自然」が姿を現わす。高橋は、その「出現」を待っている。






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高橋睦郎『深きより』(21)

2020-12-20 18:18:32 | 高橋睦郎『深きより』


 「二十一 面の果ては」は「世阿弥」。

 世阿弥を高橋は見たわけではない。顔を見たわけでも、姿を見たわけでも、さらには肝心の「動き」を見たわけでもない。他人の書いた(残した)「評判」を読んだだけだ。たとえば、「振り風情ほけほけとしかもけなわ気に候」と。それなのに高橋は、世阿弥を「詩人」としてとりあげ、こう書いている。

女体 修羅 物狂 法師 唐事と 面を替へ番数を重ね
ときに面無しの直面といふも 面の一つとなつたは自然

 この「自然(じねん)」が高橋が世阿弥から引き継ごうとしている「詩」ということになる。高橋は、世阿弥を直接見ることなく、「評判」を読むことで「自然」をつかみとっている。それが正当な批評かどうか、私は判断できない。私は世阿弥を見ていないからである。
 しかし、だからこそ、こういうことができる。
 「自然」は高橋が理想としている「詩」なのである。「自然」としての「詩」を世阿弥からつかみとり、高橋は「自然」の「詩人」になろうとしている。
 稗田阿礼、額田王、柿本人麻呂……とさまざまな「ことば」のひとになる。それは「面」をつけて演じることに通じる。その数を重ね、では、この詩集のなかで「面無し/直面」は、いつ、出てくるか。
 この世阿弥を書いた詩が、高橋にとっての「直面」になるのではないか。そして、私には、この「直面」と「自然」は、つぎの一行のなかに、別のことばで書かれているように思える。

佐渡に着いては名所を巡り 罪なくして見る配所の月

 「名所を巡り」はさまざまな人間を演じるに通じる。「直面」は「罪なく」である。「面」は、ある意味では「罪」なのだ。人間(他人)を演じるとは、他人の「罪」を演じることなのだ。「他人=罪」を脱ぎ捨て、それなのに、流刑され、「配所」に身を置き、月を見る。世阿弥にとっては、「他人=罪」を演じる(生きる)という「不自然」が生涯だったのである。それを脱ぎ捨て「自然」に、「世阿弥自身」になる。それは、世阿弥にしかわからない「演技」である。「花」である。
 伝統を引き継ぎ、さまざまな詩人になる詩(演技)をくりかえしながら、どこかで高橋は世阿弥の「自然」の瞬間を生きようとしている。その欲望が、この詩に噴出してきていると思う。「自然」ということばと「罪なくして見る配所の月」ということばに。
 でも、このとき「月」とは何なのか。
 これは、この詩だけではわからない。けれど、徒然草に出てくることばを借りて、忍び込ませたかった何かがここに書かれている、ということだけは、まがまがしい何かのように目に見える。
 この詩は、詩集中の最高傑作である、と思う。




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高橋睦郎『深きより』(19)

2020-12-15 11:04:36 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(19)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十九 詩の完成者」は「源実朝」。

 高橋のことばの奥には「死」がある。私は、いつもその「死」の匂いにぞっとする。近づきたくない。近づかないために、書く、とさえ言える。ふつうは対象に近づくために書くのだが、「ことば」を間に置くことで、私は距離を保ちたいと思うのだ。

血がいのちのしるしなら この身はその瞬間のみに生きたのだ
そのとき わが死の一族の死は荘厳され 完成した

 死ぬ瞬間を生きる。これを「生きざま」という。「死にざま」ということばがいつごろからか流行しているが、私は、このことばが嫌いだ。嘘っぽい。
 「生きざま」だからこそ「完成した」と言える。
 そして、こういうことは、同時にことばは「伝統」なのである。そして、(私は、あえて、そしてをくりかえすのだが、)そしてそれは「伝統」だからこそ、「定型」である。つまり、この二行には一種の「聞き覚え」がある。
 「わが死の一族の死は荘厳され」とあえて「死」ということばを二度つかい、乱調を導入しているのは、「聞き覚え」を破るための手段だろう。
 ここまでなら、あえて「死の匂い」と、私は言わない。「生きざま」ということばとともに、くりかえし語られてきたことだから。
 私はその次の二行に、立ち止まり、引きつけられ、「動いてはいけない」と自分に言い聞かせるのである。

そのことの栄誉を受けるべきは 殺されたこの身と共に
この身を殺してその身も殺された 一族最後の死者なる若者

 「最後の死者」。それはけっして死しない「死者」なのである。多くの死者は「この身を殺してその身も殺された」という悲劇(ドラマ)となる。つねに動きがある。動く輝きがある。その「悲劇」そのものと同じように「最後の死者」を見ることはできない。「最後の死者」は、もう殺されないのだ。ただ、「死者」として絶対的に存在してしまうのだ。「ドラマ」は激動であり、条件次第でどうとでも展開する。しかし「最後の死者」には、その後の展開がない。「絶対的存在」として、ドラマを超越して存在し、輝いてしまうのだ。「最後の」の何と言う強い閃光。
 高橋には、きっとことばによって選ばれたもの、「ことばの最後の死者」という自負があるに違いない。
 「それには触れてはいけない」私のなかの、何かわからないものが、いつも大声を出して、私を踏みとどまらせる。






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高橋睦郎『深きより』(18)

2020-12-08 14:39:30 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(18)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十八 たとへば篠笛」は「式子内親王」。

まづは神なる夫の思ひを心耳に聞き 言の葉に書き止め
つぎには妻なる人の思ひを聲にして 神前の闇に呼びかける
いつしかこの身はおのづから男うたになり 女うたになつていつた

 「男になる」「女になる」ではなく「男うた」「女うた」になる。それは「ことば」である。しかし、この「ことば」は、もう一度、変身する。いや、さらにもう一度。またもう一度。

歌を詠むわたくしは 詠むごとにわたくしを脱いで透きとほり
つひに残つたのは歌のうつは たとへていふなら一管の篠笛
吹き込まれる息もわたくしならず 宙宇にただよふ霊の息

 「うた」は「歌のうつは」に、そして「一管の篠笛」に。そのとき「うた」は「篠笛」のための「息」になり、「息」になった瞬間「わたくし」は「霊」になる。
 それは、どれも仮の名前に過ぎない。
 そこには「歌う」という動詞だけがあり、「動詞」はそのときそのときに応じて「名詞(主語)」を引き寄せる、あるいは誕生させる。「この身」は同時に「うつわ」にすぎないが、「うつわ」は「この身」を永遠の「遊び」へと招いている。「遊び」のなかに「宙宇/宇宙」がある。
 この「遊び」としての「宙宇」を高橋は「エクスタシー(わたくしという境を超え出た存在)」と呼び、まだ「自由」と呼んでいる。

わたくしを出た歌はわが名をまとひつつ 名からいよよ自由に
男・女の境を超えて生きつづけよう 百とせ・千とせののちを










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高橋睦郎『深きより』(17)

2020-12-07 08:40:47 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(17)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十七 血もて歌ふ」は「宮内卿」。

何ごとも身のあつてこそと 父禅師は案じられるが
歌のために身をそこなふ以上の喜びが あらうものか
わたくしの遺した歌は 数のうへで少なからうと
ことごとく 自らの血もて歌ひ記した三十一文字

 詩の最後に「血」が登場するが、この血が具体的な肉体であると感じさせることばを、私は詩のなかに見つけ出すことはできなかった。
 「血をもて歌ふ」のは、たいていの場合「恋」だろう。「恋」ということばは、この詩には何度も出てくる。

いいえ あの方を恋したなどとは 怖れ多すぎる
わたくしが恋したのは あの方が望まれる良き歌
まだ何処にもない未知の歌に恋して 似姿を試みる

 存在しないものを「ことば」の力を借りて産み出す。そうやって生まれてくる歌を恋する。こういうことは「頭」では理解できるが、その「理解」は単に「論理」にすぎない。論理は美しくなればなるほど「肉体性」を失う。不透明さを失う。
 だからこそ、逆に「血」ということばを必要としているのかもしれない。
 「歌」が、あるいは「詩」が、そして「ことば」が透明であってはいけない。透明を拒絶する絶対的な「不透明」がないかぎり、ほんとうは何も生まれない。
 なんでもそうだが、たとえばニュートン力学にしろ、アインシュタインの相対性理論にしろ、何かが「間違っている」、つまりそれだけでは説明できないものが「世界」に存在する。その「間違い」があるから、新しい「真実(論理/理論)」が生まれ続ける。
 しかし、こんな「仮説」に意味はない。「論理/理論」というのは、いつでも何ごとかが起きたあと、そのときの都合で「捏造」されるものだからである。
 この世に「捏造」ではないものがあるとすれば、それはやはり「血」と「肉」なのだろう。

 最後に一回だけ登場する「血」ということばのなかに、私は、高橋の「血」へのあこがれを感じる。それは高橋が絶対に手に入れることのできないものではないか、という気もする。高橋のことばには「血」を拒絶する死の匂いがいつもつきまとっている。
 この詩自体が、宮内卿が夭折しなかったなら成立しないだろうということが、それを明確に語っている。死を前提とするから「血」ということばが「論理」としてつかわれているのだ。でも、論理でしかない「血」は、私の感覚では血(肉体)ではなく、やはり「死」であると思う。

わたくしの遺した歌は 数のうへで少なからうと
ことごとく 自らの「死」もて歌ひ記した三十一文字

 私は、そう読み替えて、やっとこの詩を納得する。「血」をもって歌ったのではない。「血」を殺すことで産み出したのだと感じるのである。
 私の感想は、宮内卿の歌を読んでの感想ではなく、あくまでも高橋の詩(ことばの運動)を読んでの感想なのだが。



 また、こんなことも思うのだ。

まだ何処にもない未知の歌に恋するなどとは 怖れ多すぎる
まだ何処にもない未知の歌る似姿を試みるなどとは 怖れ多すぎる

 高橋は、「伝統」を否定し、同時に「伝統」の創出する運動、「ことばの肉体」がその力で「ことばの肉体を再構築する」力をもっているということに対して「畏怖」を感じているのかもしれない。宮内卿を畏怖するというよりも、「ことばの肉体」が宮内卿をのっとってしまったことに対して畏怖しているのかもしれない。
 「*」以降の文章は、いったん感想を書いたあとで、ふいに思いついて書いたものである。この視点から感想を書き直すこともできるのだが、そのときは前に書いたものとは違ったものになる。感想は、書いているその瞬間にもかわってしまう。その「動きの変化」(迷い)を、ひとつの例として、そのまま残しておくことにする。









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高橋睦郎『深きより』(16)

2020-12-04 10:50:13 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(16)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十六 新じま守として」は「後鳥羽院」。

 「十五 なべて泡沫」の「藤原定家」の存在など知らないかのように、この詩のことばは展開する。後鳥羽院は「男」を相手にしていない。藤原定家は多くの男から一人の男を選び、選び取ることで自分自身を一人の男にするのだが、後鳥羽院は最初から「一人」でしかないからだ。だれを選ばなくても、すでに「一人」なのだ。もっともその「一人」は兄が死ぬことによってもたらされた「一人」だから、絶対的な「一人」ではない。そこに後鳥羽院の苦悩がある。
 もしかすると、これは高橋自身の「告白」かもしれない。私は高橋の個人的なことは何も知らないが、彼の周りには何人かの人間がいる。そして、その何人かの人間によって「一人の男」であることを強いられている。それがこの作品に反映しているような気がする。

唯一人の帝となつたのちも 朕は剣を帯びぬ最初の帝
じつは贋の帝ならずやとの不安に 日ごと夜ごと苛まれつづけた

 たとえば家族・親族のなかでたった一人の男。そのために自分自身を「贋の男」ではないかと苦悩し続ける。女であるべき人間なのに、「家」のために男を生きている「贋の男」。
 その「家」から出てしまうと、高橋はどうなるか。

朕は贋の帝から真の人に ひとりの男になつたのだ

 「贋の男」から「ひとりの男」、つまりだれでもない「自分自身」になる。「自分自身」になることで「真の人」になる。「真の人」とは「自分自身」である。

新じま守とは 運命の任けのまにま島を守る すなはち防人
守るための武器は一振りの剣ならず 三十一文字一行の歌
甦へるべき歌の島 言霊の国の前衛として いま此処に立つ

 そして「真の人」にならしめるのは「三十一文字一行の歌」、「ことば」である。
 ことばはだれのものでもない。だからこそ、それを「自分自身のもの」にするとき、そこに「唯一人」が甦るのだ。
 人間ではなく、ことばを選ぶ。それは「ことばになる」ということかもしれない。
 私はいつも高橋の詩に「死」を感じるが、それは「ことばになる」という高橋の生き方に、何か「いのち」を否定して、「いのち」を超越していこうする絶望のようなものを感じるからかもしれない。この絶望は、「頭」では理解できるような気がするが、私は「肉体」ではついていけない。どこか拒絶したい、拒絶しなければいけないものを感じる。




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高橋睦郎『深きより』(15)

2020-12-03 11:17:05 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(15)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十五 なべて泡沫」は「藤原定家」。

 高橋のことば(詩)は、男を描いたときの方が生き生きしている。「十四 もう一つの修羅」では男(西行法師)は抽象としての男(武者)と向き合っていたが、この詩では藤原定家は後鳥羽院という具体的な存在と向き合っている。そのことが、ことばにより力がこもっている。

この身はただただ あの方を驚かさむがためにのみ 歌に苦しんできた
その君を亡くしては 歌をつくる理由も 生きる気力も なべて泡沫

 最後の二行に書かれていることは「常套句」にもみえる。しかし、「常套句」ではない。「この身」は具体的な「肉体」である。「生きる気力」は「精神の力」というよりも「肉体」の力。「歌に苦しんできた」のは「肉体」そのものである。
 最初から詩を読み直すと、そのことがわかる。「この身」ということばは、この詩には三回書かれている。
 
あの方によつて わが歌ははじめて殿上に いや 天井に召された
しかし間違へまい 召されたのは歌であつて この身ならず

 「間違へまい」と自分自身に言い聞かせているが、定家自身はむしろ「間違えたい」。いや、すりかえてしまいたい。それは「間違えてもらいたい」でもある。
 「歌」が「生きている」のではなく、「肉体」が「生きている」。

この身より十八歳少く 眼するどく力みなぎる 一天万乗の君

御簾ごもるあの方の前 朗詠されるわが歌に 耳聳てながら

暑さ寒さに疲労困憊して 蹲るほかないこの身に ちらと一瞥

 「肉体」は「眼(一瞥)」「耳」と言い直されている。そして、この「眼」「耳」をつかって最初に引用した行「この身はただただ あの方を驚かさむがためにのみ 歌に苦しんできた」をを読み直せば、

この「歌」はただただ あの方「の眼と耳」を驚かさむがためにのみ 苦しんできた

 のである。つまり、「この身体を見て」「この身体の中に隠されている声を聞いて」と訴え、もだえているのが「歌(ことば)」なのである。
 精神(ことば)が交わるのではなく、「肉体」が交わることを求めている。
 だからこそ、

新たに敵とされたのは あらうことか 疎まれつづけてきたこの身

 「身分」でも「歌」でもなく、定家は「肉体」が「疎まれつづけてきた」と感じているのだ。

 「目(眼)が驚く」「耳が驚く」。最初は「肉体」が反応する。それを隠すために「こば」がある。それを記憶するために「ことば」があるといういい方もできるが、ほんとうの驚きは「ことば」がなくても忘れることはない。ことばを忘れてしまうのが「驚き」でもある。「ことばが出ない、声が出ない」のが本当の驚きである。

 「この身の苦しみ」を書くときの高橋のことばは強い。




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高橋睦郎『深きより』(14)

2020-12-02 10:32:51 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(14)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十四 もう一つの修羅」は「西行法師」。

今や武者の世 東に名告りを挙げれば 西に応える鬨のこゑ
その修羅を逃がれ歌に生きよと 教へてくれたのは 月の光
けれども 歌もまた別なる修羅 妄執ではなかつたらうか
他に卓れて秀歌を詠み 後の世に残さうと 骨身を削ることは?

 「修羅」ということばがくりかえされている。
 「生死をかけた戦いの場」という意味だろうか。「生死」をかけるとは「後の世に残る(生き残る)」かどうかという意味であり、「戦い」は「骨身を削る」と言い直されている。ただし、その「骨身を削る」はあくまで自分自身の骨身であって、「敵」の骨身ではない。
 だから、ここでは「武者」の戦いが敵(自分以外のもの)を傷つけることで勝利をおさめるのに対して、歌人は自分自身を傷つけることで勝利をおさめると言っていることになる。「武者」と「歌人」は生き方(思想/肉体の動かし方)が逆なのだ。だからこそ、

けれども

 ということばが「武者」と「歌人」をつなぐのである。
 高橋は、あるときは男と女をつなぎ、つなぐことで入れ換える。入れ替わる。それは、「先人」を書く、書くことで「先人」と高橋をつなぎ、つなぐと同時に入れ替わる。高橋が高橋ではなくなることが、新しい高橋を産み出す。
 この矛盾したような二重構造の運動を支えるのが「けれども」ということばなのだ。「けれども」のなかには、いま生きている次元を突き破って別の次元へと接続し、接続した瞬間起きるスパークを利用して、別の次元さえもまた新しく作り替えていこうとする「欲望」のようなものが動いている。
 「けれども」というのは「論理」を動かすことばだが、高橋の詩は、こういう論理のことばをつかんで押さえつけたとき、強靱な輝きを繰り広げる。
 「論理」とは「ことばの肉体そのもの」である。「論理」をつかみきることで、高橋はことばを「肉体」そのものになる。

過褒なされな 歌の亡者の罪の深さは 武者のに劣らず
死後の旅路に散り止まぬ花吹雪の 血腥さは未来永劫

 「血腥さ」ということばが最後に必要になるのは、「ことばの肉体」もまた「血」を内部にもっているからである。鮮血も流れてしまえば耐えがたいにおいを発する。いや、「ことばの外」にあるものによって変質してしまうということか。

 この詩を緊張させているもうひとつの要素に「月の光」がある。最初に引用した四行にも「月の光」は登場するが、書き出しの一行は、こうである。

それは月の所為 月の光のしわざとでも 答へるほかない

 「月の光」は不思議である。月そのものが光を発しているわけではない。太陽や星とは違う。あくまでも「反射」である。それは、たとえていえば「ことば」である。肉体があって、肉体が引き起こすさまざまなことがある。「ことば」は、現実を反映したもの(反射させたもの)なのである。そして、この「反射」は月がそうであるように、「ことば」が存在しないかぎり起きない。
 矛盾というか、絶対に切り離せない何事かがある。そして、その「切り離せない」ということを成立させているのが「論理」である。「論理」がすべてを産み出しているのだ。
 高橋のことばは、いつでも「論理」を探して動いている。その論理探しの欲望の強さには、そして、いつも「死の匂い」がする、と私は感じてしまう。否定された生の匂い、と言い直してもいいかもしれない。
 詩の最終行にあらわれた「血腥さ」ということばのなかには、死と生が、まさに「修羅」として動いている。

 私は、この詩が好きであるというしかないほど嫌いである。そして嫌いというしかないほど好きである。女になることをこころみた作品よりも、男のまま、「武者(男)」と向き合い、敗北する(武者として勝つのではなく、僧になることで戦いを放棄するという敗北)ことで、逆に死なないという生き方をする。ここには高橋の「ことばの肉体」と同時に、高橋の「生身の肉体」が「反射」という形で噴出してきていると感じる。






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詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

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「詩はどこにあるか」10月号を発売中です。
182ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

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(バックナンバーは、谷内までお問い合わせください。yachisyuso@gmail.com)



オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977





問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
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