櫛引道守 木内昇(著)2013年12月発行
安心して読める小説家・・・という表現はイマイチ冴えない感じがする
かもしれないのですが、今時、貴重な存在だと尊敬しています。
毎回、小説のテーマは違えど、常にどの小説も安定感があり且つ面白いです。
(などと言いつつ、全作品を読んだ訳ではないんで、恐縮ですが、、、)
江戸末期、幕府崩壊寸前の頃、黒船襲来、尊王攘夷、と社会が騒然としている時代に、
中山道の宿場町の一つ、木曽路の中でも高地にありその険しさで旅人に難所として
怖れられた藪原宿で、ただひたすらに毎日櫛を引き続ける家族の話。
派手さはなく、使った者のみにその良さが分かる櫛「お六櫛」は実用本意の櫛。
なので、朝から晩まで、根を詰めて作っても、その日の米と交換するのが精一杯。
そんな貧しい一家ではあったが、代々「お六櫛」の名人の家系を継ぎ、
一家の父親「吾助」の技も優れており名人と言われている。
そんな父の背を尊敬の眼差しで見つめつつ、
女ながらに父のような櫛引になりたいと精進を続ける長女「登瀬」が物語の主人公。
登瀬の家族は、父、母、妹、の4人だが、実は、12才で亡くなった弟がおり、
跡継ぎとなるはずだった才能を秘めた弟の死が一家に陰を落としている。
跡継ぎをなくしても、淡々と櫛を引き続ける父、心のバランスが崩れかけている母、
その母を支えながらも屈折した思いを貯めている妹、ただただ父のような櫛引に
なりたいと願う登瀬、こんな4人家族に、少ないながらも幕末の影響が及んで来る。
そこに、吾助の素晴らしさを訴え、弟子入り志願し同居を始める「実幸」が現れ、
色々ないきさつを経て、「登瀬」と夫婦となり、吾助の櫛の跡継ぎとなっていく。
結婚してからも「実幸」に違和感を抱いたままの「登瀬」だったが、
やがては、彼を理解するに到る。
と、ストーリーだけだと、とてもシンプルで物足りなさそうだが、
職人技について、家族の問題について、商売の仕方、夫婦の在り方、等々
深い内容に読み応えは充分。
幕末に詳しい著者だけに、こんな地味な宿場町の一家に話の中にも
江戸末期の歴史と社会情勢がたっぷり盛り込まれ詳しく語られていて、さすが。
いい小説だな~、と思いながら読みました。
わがまま母