広く識相を明かす・初能変
已に略して能変の三の名を説くと雖も、而も未だ広く能変の三の相を弁ぜず。且く初能変の其の相云何ぞ。頌に曰く。
(第二頌) 初のは阿頼耶識なり 異熟なり、一切種なり。
(第三頌) 不可知の執受(シュウジュ)と処と了となり。常に触と
作意と受と想と思と相応す。唯し捨受のみなり。
(第四頌) 是れ無覆無記なり。 触等も亦、是の如し。
恒に転ずること暴流の如し。 阿羅漢の位に捨す。
一、 本識の三相
論に曰く。初の能変の識をば、大・小乗教に阿頼耶と名づく。
此の識には具に能蔵と所蔵と執蔵(シュウゾウ)の義有るが故に。
(自相) 謂く雑染(ゾウゼン)の與(タメ)に互いに縁と為るが故に。有情に執せられて自の内我と為(セ)らるるが故に。此は即ち初能変の識所有の自相を顕示す。因と果とを摂持(ショウジ)して自相と為るが故に。此の識の自相は、分位多なりと雖も、蔵と云うは初なり、過重し。是の故に偏に説く。
(果相) 此れは是れ能く諸の界と趣と生とを引く。善・不善の業の異熟なるが故に、説いて異熟と名づく。此に離れて命根と衆同分等の恒時に相続して勝れたる異熟果なりと云うことを得べからざるが故に。此は即ち初能変の識所有の果相を顕示す。此の識の果相は多位・多種ありと雖も、異熟と云うは寛く不共なり。故に偏に之を説けり。
(因相) 此は能く諸法の種子を執持して失せざら令むるが故に一切種と名づく。此に離れて余の法は能く遍く諸法の種子を執持すること得べからざるが故に。此は初能変の識所有の因相を顕示す。此の識の因相は多種有りと雖も、種を持すること不共なり。是の故に偏に説けり。
(総じて結す) 初能変の識の体相(タイソウ)多なりと雖も、略して唯だ是の如き三相のみ有りと。
(語句説明)
界 ― 欲界・色界・無色界の三界。欲界は散地ともいわれている。欲にともなって、あっちこっち、心が散乱して定まらない状態です。地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間と天上の中の六欲天までが欲界です。色界・無色界は欲を離れていますから定地といわれます。色界は四静慮、無色界は四無色定に分かれます。定は苦を離れていますから楽・捨のみで、煩悩の中の瞋恚はありません。
趣 ― 地獄・餓鬼・畜生・人間・天上の五趣です。六欲天以上の転が、色界・無色界です。
生 ― 胎生・卵生・湿生・化生の四生のこと。
界・趣・生は衆生の分類の仕方の違い。
命根 ― いのちを支える力。
有部の説は、不相応行として、その本体は寿(いのちを成り立たせる三つの要素の一つ。寿は実有であり、煖(ナン)と識とが寿を維持する。)であり、実体として存在するものとみなし、実有・実法とする。寿・煖・識は一体で、命根(寿)が尽きると煖(体温)も識もなくなると説きます。
論主の答
「この識を、界と趣と生との体と為すに足んぬ。是れ遍ぜり、恒に続せり、異熟果なるが故に、労(ワズラワシク)しく別に実の命根有りと執すること無(ナカ)れ。」
「然も親しく此の識を生ずる種子に依って、業に由りて引かれたる功能(クウノウ)差別(シャベツ)の住する時を決定(ケツジョウ)せしむるを、仮て命根と立つ。」
衆同分(シュドウブン) ― 同じ種類を成り立たしめる原理。
人は人、犬は犬というような相似する実法があって同 ならしめているという。
論主の答
「然も有情の身心の相似する分位の差別に依って同分を仮立す。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 初能変(初二頌半)は八段十義に分かれて説明されます。 十義(初能変相十門) 初自相門 初阿頼耶識 五教十理証(以五教・十理証有本識)
(ページ数は、『選註 成唯識論』によります。)
二果相門 異熟
三因相門 一切種
四所縁門 不可知執受処
五行相門 了
六相応門 常與触作意受想思相応
七受倶門 唯捨受
八三性門 是無覆無記触等亦如是
九因果譬喩門 恒転如暴流
十伏断位次門 阿羅漢位捨
五教証 (p55~) ・ 十理証 (p62~)