非国民通信

ノーモア・コイズミ

週刊朝日に見る政治への無理解と拒絶

2009-01-19 23:23:09 | 編集雑記・小ネタ

 今週の週刊朝日の看板記事は、<「金融不況」「派遣切り」で庶民が身を切りながら生活苦に耐える中… / 「特権」だらけの国会、地方議員>……だそうです。中身は読んでません。読むほどのこともないですよね? 週刊誌ってのは中吊り広告を見れば内容の90%は理解できる、読者に優しい作りになってますから。とりあえず今週の中吊り広告を載せておきますので、右側の部分だけ目を通してください。

 さて、ここで槍玉に上げられているのは国会議員の「高給優遇」です。普段こういう役回りは「公務員」が引き受けるもので、竹中平蔵とか赤木智弘とか御用学者とその追従者ですと「正社員」を代わりの非難対象とするケースもありますが、そうした生贄の常連ではなく国会議員がこういう扱いをされるのは、割と新しいかも知れません。これが流行るかどうかは微妙なところ、来週には忘れられている可能性も高いですけれど。

 で、国会議員が「高給優遇」だそうです。まぁ、平均的なサラリーマンより給料は高い、私みたいな派遣社員なんかよりはるかに高給には違い有りませんが、野球の一流選手やオーナー経営者から見れば微々たる額でもありますね。そんなに問題なのでしょうか。高給優遇に問題があるなら、真っ先に給与返上を実行した安倍晋三あたりが理想の政治家になりそうなんですが、週刊朝日の評価としてはどうなのでしょう? 天文学的な報酬を受け取るアメリカのCEOならいざ知らず、議員報酬ごときを削減したところで財政への影響など皆無でしょうし。

参考、日本的欺瞞

 そもそも、政府与党の中枢を担う世襲議員達には父祖伝来の資産があるわけで、生まれながらの特権階級である彼らには議員報酬のような給与所得はお飾りのようなものです。企業グループの実質的なオーナーだったり大株主だったり、親族が企業経営者だったりするのなら、議員報酬などあってもなくても構わない代物に過ぎません。むしろこの議員報酬を返上することで国民の歓心を買えるなら安いものでしょう。収入は他から得られるわけですから!

 逆に、経済的な地盤を持たない政治家にとって議員報酬は生命線です。議員報酬の減額は即座に政治活動の範囲の縮小に繋がります。国民は私財を投げ打つことを政治家に求めるかも知れませんが、それにも限度があります。政党丸抱えの議員ならいざ知らず、特別な収入源を持たない非資産家であれば、経済上の理由から政治活動を断念せざるを得なくなることもあるでしょう。議員報酬の切り下げは、既に地盤を有している議員及び政党には大した影響を与えませんが、これから政治の舞台に飛び込もうとする新参には深刻な影響を与えます。政治へのハードルを高くする行為ですね。

参考、そして有閑階級による独占へ

 「原資は全て血税から」とも書かれています。産経新聞が「派遣村」出の社会保障受給者を非難するために似たようなフレーズを使っていたような気がしますが、それを言うなら在日米軍のためにゴルフ場や住宅を建設するのも、企業誘致のために「助成金」を差し出すのも、鯨研のような天下り団体を支えているのも、国歌を起立して歌っているか監視するのも全て「血税」が原資ですけどね。そこで議員報酬を惜しむなら、累進課税を強化すれば元は取れる、何十億、何百億の資産にちょっと課税してやれば議員報酬分くらいはすぐに取り返せるわけですが、なぜかそういう選択肢はないようです。歳入と歳出のバランスを合わせることではなく、とにかく給与が高いことが許せないのでしょうか。

 現実問題として、政治にはお金がかかります。理想はあくまで「金のかからない政治」かも知れませんが、実際問題として政治には金がかかるわけです。そこで資産家でなくとも政治活動に専念できるように、テレビ出演などの副業で稼いだり収賄に手を染めたりせずとも、経済的な理由で政治活動に支障を来すことがないように議員報酬は高めに設定されているわけです。ボランティア精神抜きで活動するなら、今の水準では到底足りないくらいですが。しかるに、その政治活動の意義を認めないことで、それにかかる費用の必要性も認めないのが世論だとしたら?

 「政争を繰り返すだけ」と、週刊朝日には書いてあります。世間一般の政治認識としては、それに近いのではないでしょうか。まぁ中には無駄な審議があることを否定はしませんが、内容を知ろうともせずに政治を全否定するのが最大公約数的な態度だとしたらどうでしょう? 政治とはそもそもがムダである、ゆえに政治の規模は小さいほどよい、従って議員報酬も少ないほどよい、金をかけずボランティア精神で運営されるのが良い政治だと、そんな感覚が蔓延しているような気もします。

 ことによると我々の社会が政治に期待しているのは、具体的な政策ではなく禁欲趣味とでも呼ぶべきものなのかも知れません。「血税」はできるだけ使わずに節約に努め、議員は報酬を受け取らず清貧を貫く、週刊朝日に見られるような類型的な批判を裏返しにすることで見えてくるビジョンはそういうものです。もちろん、現状では金をかけない政治=掛け声だけで実効性のない政治です。政治に金がかかるのは好ましくないかも知れませんが、だからと言って「政治に金がかかるのが良くない」と政治に金をかけることを否定し、無為のままでいることを正当化するとしたら、日本は永遠に変われないでしょうね。

 

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16 コメント

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すごいしっくり来ました (いるか缶)
2009-01-20 00:01:08
>政治とはそもそもがムダである、ゆえに政治の規模は小さいほどよい

この考えは持っている人多そうですね。ものすごいふに落ちました。これを利用して小泉元首相が「絶対安全圏」から議員半減とか言って支持を集めて自分の子どもも「絶対安全圏」に置くという構図が見えました。そんなことしたら「世襲」と「タレント」ばかりになりそうですけど、結局金持ちだけの国会には期待出来ないけど議員歳費や定数の削減には賛成の方々は世襲がいいのかいやなのかどちらなんでしょうか?
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-20 00:52:38
>いるか缶さん

 自分は安全圏にいるつもりで(実はとんでもない誤り)、政治をムダと断罪する、そうした人が、これまた安全圏(こちらは正真正銘の安全圏)からモノを言う人を支持してしまうんですよね。議員なんているだけムダ、という立場を取る人も多いですが、議員を減らせば減らすほど政治へのハードルは上がる、元から地盤を持っている人にしか手のでないものになるわけですが、その辺の因果関係も考えずにただ不満を述べているケースも多そうです。
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Unknown (usop)
2009-01-20 01:52:01
以前ドイツ版The SUNかはたまた週刊現代状態の大衆ゴシップ新聞であるBILDがドイツの連邦議員や閣僚がどれだけ稼いでいるかを訴えていました。確かメルケル首相が月17,000ユーロぐらいで、とりわけ、左翼等とかSPDなどの「労働者のため」の党の党首たちがメルケル以上の報酬を得ていることを非難していた記憶があります。結局民衆の政治不信に乗っかって部数稼ぎをしようとしているだけだとは思うのですが、多くの人たちが長年こういうのを読んでる、読まされているわけで、まぁ根は深いなと思いました。

たぶん日本に理想の政治形態は皇帝プラスローマ元老院でしょうかね。あれなら議員の数も少なくてやれますし、皇帝をめぐる陰湿な権力争いは、表立った争いを本来好まない日本のお家芸ですし。大日本ローマ帝国こそが日本の行き着く先なのでしょうか。
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地方議員のなりて (kuroneko)
2009-01-20 11:25:59
国会議員も大変でしょうが、地方議員のなり手も少ないって聞いたことがあります。
お金もかかるし、時間はとられるし。不況で昔ながらの家業はつぶれているでしょうから、地方の名士や旦那衆が政治をやるという時代でもなさそうだし。
野党議員だって、労組の力も落ちているし大変だと思う。市民運動も話題にはなってもお金はないでしょうし。

政治批判が安っぽいんですよね。メディアも「政治に何を期待しますか」って聞き方をする。大人なら、「政治とはどういうものだと思いますか」という問いが根底にあるべきなんじゃないかなあ。
ほとんど皆が「政治とはどういうものか」「政治はどうあるべきか」って実は考えてない。あるべき政治、って支持政党が政権をとることだ他t利、「クリーンな政治」ってイメージだけのスローガン以上のことを考えているのだろうか、というのがそもそも疑問です。
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政治を無駄とするのは (GX)
2009-01-20 13:07:25
 「問題のある議員」が原因ではないでしょうか。I吹議員とか、N山議員とか、S本議員とか・・・。確かに三者とも問題発言をしており、そこは批判されてしかるべきですが、これが「問題のある議員を少なくしよう」ではなく議員そのものを少なくする方向に走る。エキセントリックな事例を挙げて、救急車を呼ぶことを自粛させる方向へもっていくようなそのような勘違いが見られます。
 その割には非国民さんもおっしゃるような「本当に必要なのか」という財政の拠出は容認ですからね。本当に無駄をなくしたいのならば、要らないものや自分たちにとって不利になるような政策に「NO」と言うことこそが有効なのですが、逆を行っているようです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-20 14:05:10
>usopさん

 そう言えば「もやい」の湯浅誠さんも本が売れたので結構な収入があったそうですが、それを叩いているメディアもありましたね。世のため人のためを訴えるなら私財を投げ打って貧乏暮らししながら行わないと、そういう感覚があるようです。ただし生まれながらの特権階級は例外とされている点では、帝政や元老院政との愛称は良さそうですね。

>kuronekoさん

 たしか率先して議員の報酬をカットして話題を攫った福島の矢祭町では、ほぼ全員が元会社役員だったり60歳以上の本業リタイア組だったと記憶していますが、それだけ余裕のある人しか政治に取り組めない状況が作られているのでしょう。ほぼ無給で活動している(ただし資産は?)面では、有権者が期待する「クリーン」には違いないのでしょうけれど、何かが違う気もしますね。

>GXさん

 例えば生活保護行政では、一部の例外的な不正受給者を大々的に取り上げることで、あたかも受給者全体がそうであるかのように見せかけるわけですが、それを鵜呑みにする国民であれば当然、一部の(それなりに割合は高いかも知れませんが)問題議員を見ただけで、あたかも議員全体がムダであると確信することもあるでしょうね。ハナから内容を問う気はなく、木を見ただけで森を見た気になっている、何がムダで何が必要かもロクに考えられていないのかも知れません。
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たとえば (Bill McCreary)
2009-01-20 19:48:07
安倍にしたって麻生にしたって、まともな意味での社会人経験はほとんどないわけで、要は遊んで食って行ける人間のわけです。そういう本質を見ないでこのような記事を書くのも、何をいまさらながらうんざりします。

でも、安倍や麻生が首相になったら、そりゃまともな意味で貧乏人に対応できる政治にはなりそうにないよね。
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usopさんはじめまして (特命希望)
2009-01-20 22:55:46
こんばんは、特命希望と申します。

>以前ドイツ版The SUNかはたまた週刊現代状態の大衆ゴシップ新聞であるBILDがドイツの連邦議員や閣僚がどれだけ稼いでいるかを訴えていました。
>確かメルケル首相が月 17,000ユーロぐらいで、とりわけ、左翼等とかSPDなどの「労働者のため」の党の党首たちがメルケル以上の報酬を得ていることを非難していた記憶があります。

ほう!共産党の不破さんが専属コック云々と重箱の隅をほじくってた某氏の同類ですか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-20 23:50:54
>Bill McCrearyさん

 働かなくとも遊んで食っていける安倍や麻生なら、ここで取り沙汰された「高給優遇」を返上してて弁当で政治活動に打ち込めるわけですが、そうすれば国民の「痛み」が理解されるようになるかと言えば、そんなことは全く期待できませんものね。何とも的外れな、考え違いの甚だしい記事ですが、読者のウケはどうなんでしょう。

>特命希望さん

 その辺はたぶん夕刊紙的な「反体制」の限界なんじゃないかと思います。権力に抗うつもりはあっても、それを支える分別がない、結局は自分が気に入らないものに噛みつくだけで終わっちゃうような。
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Unknown (通行人A)
2009-01-21 03:52:09
今回のエントリも共感できました。

よくいわれるのは「議員定数を減らせ!」ですよね。あれで一番害を被るのは、共産党や社民党のような「小粒でもピリリと辛い」政党です。完全比例代表制にした上でなら、まだわかるんですが。民主主義にはコストがかかるという基本がわかっていないようです。

それと福島県矢祭町の議員報酬日当制、あれも大問題だと思うんですが(議員報酬だけでは絶対に生計を保ちえない)、あまりふれられることはないようです。
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