非国民通信

ノーモア・コイズミ

誇りの中身が空疎になった

2008-01-27 22:51:23 | ニュース

「日本国民に誇り」93%で過去最高…読売調査(読売新聞)

 日本国民であることを誇りに思う人は93%に達し、「国の役に立ちたい」と考える人も73%に上ることが、読売新聞社の年間連続調査「日本人」で明らかになった。

(中略)

 「日本の国や国民について、誇りに思うこと」の具体的内容を複数回答で選んでもらったところ、「歴史、伝統、文化」を挙げた人が72%で最も多く、「国土や自然」43%、「社会の安定・治安」「国民性」(各28%)などがこれに続いた。86年の同様調査と比べると、「歴史、伝統、文化」が19ポイント増えた一方、「教育・科学技術水準」が22ポイント減の19%、「経済的繁栄」が17ポイント減の19%に落ち込んだのが目立った。

 「国民の一人として、ぜひとも国の役に立ちたい」との考え方については、「そう思う」が73%だったのに対し、「そうは思わない」は20%だった。2005年の同様調査ではそれぞれ68%、28%で、国への貢献を前向きにとらえる意識が強まったことがわかる。

 調査対象が何人いるかもわからない不思議な調査ですが、「日本国民であることを誇りに思う人」が93%に達したそうです。そいつは凄い数値だと言いたいところですが、20年前の調査でも91%と大差ないようで、たぶん昔から日本人は国家や国籍にアイデンティティを求める性質なのでしょう。

 大きく変わったのは「誇りに思うこと」の内容で、「歴史、伝統、文化」を挙げた人が19%増の72%、「教育・科学技術水準」が22%減の19%、「経済的繁栄」が17%減の19%となっているようです。つまり20年前は、教育や科学技術、経済といった目に見えるものに誇りを持っていたけれど、今は「歴史、伝統、文化」という目に見えないものを誇っているということでしょうか。

 確かに20年前、Japan as no.1と言われた時代がありました。その時だって何もかも上手くいっていたわけではなく、問題は色々とあったわけですが、それでも教育や科学技術、経済の面で少なからず日本が世界をリードしていた時代であり、それは誇るに足るものだったのでしょう。自分達の優れているところを誇るのは、そこに他人を見下す視線が介在しない限り、決して不健全なものではありません。

 ところが誇るものの変わった今はどうでしょうか? はっきりと優劣の現れる経済ならいざ知らず、歴史や伝統、文化といったものは優劣の付けられるものではありません。それはどの国にでもあるものであり、どの国のものも尊重されるべきであって、少なくとも自国の文化が特段に優れているとか、そういう意識を抱くべきものではないわけです。

 優れた科学技術を開発して世界をリードしていくとしたら、それは世界全体の発展に寄与するものですが、自国の文化を優れたものとして世界に広めようとする場合、それは往々にして征服という形をとります。前者を誇るのは納得できますが、後者を誇るとしたら危うさを感じますね。あるいは自国の文化を優れたものとして、他の国の声に耳を傾けない、ひたすら内向きの自分ルールで満足し、国際社会からの孤立も気にかけない、近年の日本の場合はこちらでしょうか。

 しかし、本当に「歴史、伝統、文化」を誇りに思っているのか、その辺りからして甚だ疑問です。例えば歴史ですが、我々の社会は自らの歴史を書き換えようとしているわけです。それも政府筋の後援の元に! 自らの歴史に誇りを持つのなら、どうしてそれを書き換えようとするのか、本当は自らの歴史を恥じているのではないかと、そう問わざるを得ません。

 伝統にしたところでそう、伝統に誇りを持つつもりなのに、伝統が全く受け継がれていないわけです。受け継がれているのは大半が明治以降に創られたものばかり、江戸以前の伝統なんて今や見る影もありません。文化はどうでしょうか? 大阪の知事などは「能や狂言が好きな人は変質者」などと言っていますが、とりあえず伝統文化に関しては、日常に入り込んでもいなければ、尊重されてすらいないように見えます。我々は一体何を誇っているのでしょう?

 「ぜひとも国の役に立ちたい」なんて考える人も増えているようですが、その具体的な中身はと言えば誇りの根拠と同様、空疎なものに違いありません。ただ漠然と、国民は国に仕えるべきだと思っているだけです。それは国民ではなく臣民の役目ですが、戦前の伝統がよく受け継がれている結果でしょうかね。それ以前に問われるべきは、国が国民の役に立っているかどうか、なのですが。

 

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8 コメント

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国と政府と (Bill McCreary)
2008-01-28 00:35:18
黙然日記さんのところでも、この世論調査が取り上げられていたので、私もコメントさせていただきました。
http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080124/1201179846#c
やや読売の主張は牽強付会ではないかと思います。

そもそも、このような世論調査で「国」とかいうような言葉をつかっても、意味内容が抽象的かつ広義になりすぎて、話がまとまりません。ずばり、国を「自民党政府」とか「行政」とでもすれば、まだ面白いですが、そうすると思想調査になっちゃいますしねえ。

つまり、こんな愚にもつかない「世論調査」なんかするべきではないということです。
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純粋にそう思うか (goen)
2008-01-28 05:24:42
日本人として自分の国に誇りを持てるかと言えば疑問もありますが、誇りを満ちたいと言う願望は強いです。日本の国の中でその事を考える時と、外国に旅立った時考えるかでは可成り意味合いが違うでしょう。新聞の世論調査が意味する所は判りませんが、自国に誇りを持てる、又は誇りとなるところを見つける事が出来る人はある意味で幸せです。と同時に汚く、欠点と言われる部分を知っておく必要があります。国家とか国と言葉は自国にいて直接的に意識するのは難しい、でも一歩他国に旅立てば直ぐに感ずるでしょう。外国に一度も行った事がない人は、生まれ育った故郷とが古里に誇りを持ちたいでしょう。この場合の誇りとは相手に自慢したり優越感を得る為ではありません。あくまでも自分の精神的な内面としてです。
問題は国家とか国という存在を理由に人々を縛り込む輩が利用する事です。曰く、日本人として恥ずかしくないのか..。国の恥さらしだ..とか、評価する人が自分の正当性を主張する根拠に利用する人々です。新聞は一番こういった利用に使うのです、注意してその内容が意味する裏を考えよう。
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Unknown (まに)
2008-01-28 18:23:28
「誇り」が軽くなっているというタイトルには同意です。しかしその後の分析はちょいと歪んでいませんか?
このアンケートの選択肢ならば、よっぽど自国を蔑んだり絶望しているのでなければ、とりあえず「非常に」か「少しは」と答えてしまうんじゃないでしょうか。そういう意味で非常に空疎な誇りだとは思いますが。
そしてその根拠を探したときに、現状、政治や経済や教育などに誇りを持てないからこそ、歴史、文化、伝統といった過去に根拠を求めてしまうだけではないかと。
しかし、誇りを持つということは他者よりも優れた点を意識することばかりではありません。伝統や文化に誇りを持つ人は、優劣ではなくその独自性に誇りを感じていると私は見ています。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-01-28 23:12:53
>Bill McCrearyさん

 上手いこと設問に幅を持たせて回答を誘導しつつ、結果を作った印象もありますね。そうそう、御紹介いただいたリンク先から調査項目の詳細を辿っていったのですが、こんなものもあったみたいですね。

「日本人は、他の国の国民に比べて、すぐれた素質を持っている」
 ・そう思う 69.6%

 う~ん。

>goenさん

 誇りを持つこと自体は結構なことなのですが、問題はその中身や、使われ方ですよね。単なる自惚れや独善ではない誇りでなければいけませんし、それを他人に強要するなどもってのほかです。そうして面では、読売の世論調査と、その結果が表すものは何ともきな臭いと言いますか……

>まにさん

 では、まにさんの仰る独自性とは何ですか? 確かに独自の伝統や文化はありましたが、そのほとんどは現代の我々の生活にとって縁のあるものではないでしょう。昔の性道徳は独自性があったと思いますが、今の日本の性道徳はイスラム教文化圏のそれと似たようなものですし、労働文化も今や二流の工業国のようなもの、人権意識も中国あたりと同じようなもので、誇れるような独自性は失われていますがね。
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Unknown (まに)
2008-01-29 12:16:27
確かに独自の文化や伝統は現在失われつつある気がしますね。だからこそ、管理人さんも認めているような「過去に持っていた」独自性にプライドを求めているのでは?と言いたかったんですよ。
現在の文化や思想に誇りを持っているわけではなく、ましてや他文化よりも優れているから、とか押しつけるべき、なんて考えている人はそうそういないんじゃないかな、と。
自分がのんきなだけかもしれませんが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-01-29 23:37:26
>まにさん

 しかし、日本の伝統や文化に誇りを持つという人ほど、日本が「過去に持っていた」ものとは遠く離れているような気がします。むしろ、昨今になって作り上げた伝統に対して誇りを持っている人が多いのではないでしょうか。虚構の上に誇りを持つことで、その虚構が現実に悪影響を及ぼしている側面を考えてみるべきだと思います。
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知識による差異 (kuroneko)
2008-02-08 10:51:27
こんにちは。
日本の伝統と聞いて「教育勅語」などを思い出す人はいないでしょうが、日本人の道徳観念や家族制度は素晴らしいと思う人はいるかも。
でも江戸時代の農村では「夜這い」は普通に“伝統”だったのでしょ? でも民俗学の本を読む人はそう多くはない。

能や狂言の台詞、詞章を聞いて、わたしは日本語として理解できますが、「誇りを持っている」という人に意味を聞いたら答えられるかなあ。

日本文化の独自性というのは確かにあります。例えば漢字を訓読するみたいな言語体系はそう多くはないはず。中国文化を抜きには考えられないのが日本の独自性なんだけど、そう言うとネットウヨクみたいに怒る人が増えていそう。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-08 23:53:25
>kuronekoさん

 今の日本で産業としてのセックスは発展しましたけれど、「性」に対する意識はかつての日本に比べると閉鎖的、抑圧的になった気がしますね(日陰者とでも呼ぶべきでしょうか)。もちろん自分の経験として知ることはもはやできないわけですが、性という最もプライベートな領域が今よりも大切にされていたのかも知れません。今やそれが軽蔑の対象に…… もちろん日本に独自性はあるのですが、その独自性が誇られていると言うより、作られた伝統の方に誇りの重点が置かれているような気がしてならないのです。
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