非国民通信

ノーモア・コイズミ

KILLING MACHINE

2010-02-08 22:53:23 | ニュース

死刑制度:容認85%、過去最高 「被害感情おさまらぬ」増加--内閣府調査(毎日新聞)

 内閣府は6日、死刑制度に関する世論調査の結果を発表した。死刑を容認する回答は85・6%と過去最高に上り、廃止論は5・7%にとどまった。被害者・家族の気持ちがおさまらないとの理由が前回調査より増えており、被害感情を考慮した厳罰論が高まっていることが背景にあるとみられる。

 死刑制度について「どんな場合でも死刑は廃止すべきだ」(廃止)、「場合によっては死刑もやむを得ない」(容認)、「わからない・一概に言えない」の3項目を選択肢とした。

 容認は調査ごとに増加傾向にあり、今回の調査では前回04年を4・2ポイント上回った。廃止は0・3ポイント減だった。

 死刑を容認する理由(複数回答)は「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」が54・1%で前回比3・4ポイント増。「命をもって償うべきだ」(53・2%)、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」(51・5%)はそれぞれ微減だった。

 一方、廃止の理由(同)は、「生きて償ったほうが良い」55・9%、「裁判で誤りがあった時に取り返しがつかない」43・2%、「国家であっても人を殺すことは許されない」42・3%など。

 一時期は殺人件数が過去最低を記録する一方で死刑判決と死刑執行が最多を記録するなんてこともありましたが、政権交代後はどうなるでしょうか。極右政党からポピュリズム政党へ代替わりして死刑の大安売りにはストップがかかりそうですけれど、一方で国民の死刑への肯定感には変化が無いどころか、むしろ強まる傾向にあるようです。今よりずっと凶悪犯罪の多かった時代は、ここまで死刑万歳ではなかったみたいなんですけどねぇ……

 「命をもって償うべきだ」云々は価値観の問題ですからどうしようもないとして、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」は完全に偏見の域で、日本だけが例外的に、死刑を廃止した他の国とは違った結果がもたらされるであろう明確な理由がない以上、無理解に基づく誤った解答として一蹴して差し支えないでしょう。ただ無理解ではなく信条から、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増えるに違いない」という自身の信念に基づいて回答している人も少なくないとは思います。ただ、そうした人々の「信仰」のごときものに国家が振り回される必要はないはずです。政治家のやるべきは国民の偏見に迎合することではありませんから。

 もっとも「命をもって償うべきだ」と「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」は僅かながらも前回調査から減少したようです。その辺は誤差の範囲かも知れませんが、後者の減少は正しい現状認識の拡大と受け止めることにしましょう。一方で「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」との回答は増加に転じたそうです。う~ん、この辺も価値観の問題に過ぎない、言うなれば「好き嫌い」で語っているに過ぎないわけですけれど、実際はどうなのでしょう、死刑制度を維持したところで被害者や遺族の気持ちが収まるわけでもあるまいと私なんかは思うわけです。そもそも死刑によって被害者/遺族の感情が満たされるというのもまた「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」と同様の、根拠のない思い込みではないでしょうか。被害者/遺族なら被告の死刑を望んでいるはずだ、と勝手に決めつけるのは被害者/遺族を蔑ろにしているとも言えます。

 元より日本のような極端に治安の良い社会の場合、凶悪犯罪が赤の他人によってなされることはむしろレアケースです。例えば殺人に至っては検挙された加害者の4割以上が家族です。しかも赤の他人による犯行の減少ペースが家族による犯行の減少ペースを上回っているため、微々たる変化ではあれ殺人犯が「家族」である比率は上昇傾向にあります。昨今では一人を殺しただけでも死刑が問われることすらありますが(まぁ被害者の頭数に関わらず、やってはならないことに代わりはないのでしょう)、そうなると殺人の被害者及びその家族とは同時に加害者の家族でもある、そういうケースが結構な割合を占めることにもなるわけです。では家族を殺した家族を死刑にすることで、その家族の気持ちが収まると思えますか?

 ワイドショーを賑わすような猟奇的で残忍な犯行は例外中の例外です。しかしその「例外的なケース」を「一般的なケース」と(しばしば意図的に)取り違えたまま死刑制度を考えている人が多いような気がします。見せ物化された裁判では被害者遺族が声高に復讐を叫び、観客はそれを当然のことと思い込む、そして「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」と称して死刑制度に賛成する、そういう流れではないでしょうか。だとしたらこの辺もやはり「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」と同様、実態に基づかない、思い込みや偏見に基づいた議論と言えます。凶悪犯罪の実態や死刑制度がどのように機能しているか、その辺を踏まえた回答であれば意味のあることですが、偏見にとらわれたまま賛成票を投じている人が多いのが実態でしょう。廃止するか継続するか、回答者の大部分はそれを問う以前に議論の前提(正しい現状認識)に到達できていないのかも知れません。昨今では民意さえ得ていればそれだけで正しいものとして扱われがちですが……

 

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
死刑制度 (コンポコ)
2010-02-09 19:10:32
私は死刑を廃止するなら、同時に無期懲役も廃止し、最も重い刑罰を終身刑として設定します。
それと同時に全体的に懲役期間を長く設定し、未成年でも長期的な懲役刑を科すようにします。

個人的感情からすれば、竹中と小泉、石原なんかは死刑にしたい程憎いのですが‥
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TB ありがとうございます (flagburner)
2010-02-09 20:49:04
色々難しい結果になった感が強いのですが・・・。

>凶悪犯罪の実態や死刑制度がどのように機能しているか、その辺を踏まえた回答であれば意味のあることですが、偏見にとらわれたまま賛成票を投じている人が多いのが実態でしょう。
私にとっては、そこが不安な点なんですよね。
というのも、(私が言うのもなんですが+繰り返しになりますが)そういった偏見を解くためにどのような事を行えばいいのか、という問題が避けて通れないんですよね。
その意味では、凶悪犯罪の実態や死刑制度がどのように機能しているかについて(政府とかが)広く伝える必要があると思うのですが・・・。

頭が痛いところです。
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村野瀬玲奈さんも (Bill McCreary)
2010-02-09 21:02:45
そんなことをお書きになっていましたけど、いまだかつて私、自分の身内を殺した人物の死刑が執行されて大喜びしている人間って見たことありませんね。喜ぶとまではいわずとも、犯人が死刑になったからって、遺族がほんとうに心が救われるということはほとんど期待できないでしょうね。

http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-439.html

>見せ物化された裁判では被害者遺族が声高に復讐を叫び、観客はそれを当然のことと思い込む、そして「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」と称して死刑制度に賛成する、そういう流れではないでしょうか。

光市の事件、名古屋の闇サイト事件、池田小学校の事件、みんなそうです。名古屋の闇サイトの事件にいたっては、遺族が犯人を3人とも死刑にしろとか無茶苦茶なことを言う始末で、これなんか「いくらなんでも、そりゃ無茶だ」と誰かが言わなきゃいけないんですが(だから私は書きました)、なかなかね。
http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/f4d3c86714aa36dec39af3c42e1c750d
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-02-09 22:55:15
>コンポコさん

 ただ実際の運用として無期懲役が実質的に終身刑化しているところもありますので、終身刑をバーターとした死刑廃止案には慎重になる必要があると思います。未成年者の犯罪に関しても過剰に煽られているところがありますし。

>flagburnerさん

 そこは難しいところですよね。単に「知らない」のではなく、「知りたくない」のではないか、むしろ自身の偏見を正しいものとして「信じたい」人が多くて、何かを伝えてもそれは頑として撥ね付けられるだけではないかという気もしますから。以前に「要は死刑が好きなのだろう」と書いたことがありますが、死刑が好きだから、死刑が必要な理由を考えてしまう、死刑に抑止力があるとか信じたがってしまうのではないかと思うわけです。

>Bill McCrearyさん

 メディアを賑わす被害者(遺族)は声高に死刑を要求するケースが目立ちますけれど、被害者(遺族)ってのは最も感情的にならざるを得ない立場ですから、反対に回りは冷静に判断していかないとおかしなことになってしまうと思うんですよね。一部の例外的な被害者に同調して厳罰を叫ぶのが当たり前のように思われがちですが、そこはちょっとはずですから。
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感情論で (ヒイロ)
2010-02-09 23:22:55
罪刑法定主義が蔑ろにされないように、死刑制度のあり方が論じられることを大切にしたいです。
感情に流されていると、どうしても放置されやすいことですから。
裁判員になったときに備えることにおいても必要だと思いましたので投稿しました。
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「説得」が難しいのは (ノエルザブレイヴ)
2010-02-10 05:15:51
まあ「死刑が犯罪の抑止力に~」というタイプは先行して死刑を止めた国などの統計がまだ説得力を持ち得そうな気はします。
厄介と思われるのが最多数派でもある「被害者感情が~」というタイプです。凶悪犯罪は減ってはいるとしても起こっていないわけではなく、この意見だと凶悪犯罪が起き続ける限り(さすがに「殺人が全く起きない社会」というのは非現実的でしょう)、叫ぶ被害者がいる限り死刑を止められないことになってしまいます。最後の一人が尽きるまで…。
「死刑は残酷で非人道的な刑罰である」と言っても無駄でしょうね。「死刑にしないことこそ残酷で非人道的である。被害者の叫びを聞け!」と返されるのがせいぜいでしょう。
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今日 (Bill McCreary)
2010-02-10 19:57:31
少年によって2人の方が殺されましたね。

少年ですが、2人殺してしかも情状はよくなさそうですから、死刑の求刑や判決の可能性がありますね。おそらく

>見せ物化された裁判では被害者遺族が声高に復讐を叫び、観客はそれを当然のことと思い込む、そして「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」と称して死刑制度に賛成する

となる可能性があるかと思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-02-10 23:16:13
>ヒイロさん

 でもその感情に流される、というか被害者遺族の感情に乗じるのが当たり前みたいになりつつあるんですよね。理非を論じようとすると感情面を蔑ろにしているかのごとく非難される有様ですから。

>ノエルザブレイヴさん

 ただ私の経験上、死刑制度を支持する人は統計的なデータを持ち出されても徹底的に無視する、論拠の一つが否定されれば話を被害者感情の面にすり替えるばかりの人が多いような気がします。どうあっても死刑が必要であると、そのための理由を探してしまう人が多いのは、やはり死刑が好きなんだろうと思うわけです。

>Bill McCrearyさん

 その事件ですが、何でも被害者と容疑者の間に子供がいるとも聞きました。してみると間接的な形ではあれ、被害者(遺族)にとって容疑者もまた家族なんですよね。おそらく死刑が要求されるであろうことは想像に難くありませんが……
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Unknown (バサラ)
2010-02-10 23:48:22
この調査に際して、対象者へ、死刑の実態はどの程度知らされているのでしょう?

その対象となる物の実態も明かさずに賛否を問う調査に、一体何の意味があるんでしょうね?
賛否を問うなら、まず先に、死刑の密行主義をやめるべきだと思いますけど。
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Unknown (nanami)
2010-02-11 11:26:33
被害者と言いますが、殺された当人とその家族とは別の人間ですよね。家族単位で考えすぎのように思います(生活保護の受給資格の問題などとも繋がっているのでは)。
被害者感情を叫ぶ割に、殺人以外の犯罪被害者や、無職者などの社会的弱者には厳しいですよね。自己責任の国ならば殺されるのも自己責任じゃない?と思うのですが。
基本は応報刑ですから、遺族が加害者の死刑を望もうと、被害者が天涯孤独であろうと、遺族にとって被害者も加害者も同じ家族であり加害者を庇おうと、それによって量刑に差が出るのは変ではないでしょうか。遺族の感情を重視し過ぎるのはどうかと思います。
死は救いだと考えているので死刑反対はしません。生きている事自体が懲役刑みたいなものですよ。安楽死の合法化、楽な自殺方法の一般化などの方が必要だと思います。
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