非国民通信

ノーモア・コイズミ

セーフティネットを拒む自立心

2010-04-23 23:01:17 | ニュース

ホームレスの約6割はうつ病!? “路上に引きこもる”人々が生活保護を嫌がる理由(DIAMOND online)

 IT企業に勤務していた30代のシミズさんは、一生懸命に頑張って働いてきたものの、うつ病になり、働けなくなって、家で引きこもっていた。

 しかし、同居していた親から「家を出ろ!」と言われ、アパートで一人暮らしを始めた。シミズさんは、自立しようとして、一生懸命頑張ってみたものの、うまく生活できなくて、アパートも出ざるを得なかった。

 アウトリーチで出会った森川医師は、「これまで頑張ってきたんだし、世の中がこういう状況なんだから、一旦、生活保護を取って、そこから働く基盤をつくってみたらいかがですか?」と勧めてみた。

 しかし、シミズさんは、
「いや、働きます。自分で頑張ってみます」
と、あくまで他者の助けを借りず、自立することにこだわった。考えていくうちに、どんどん自分の未来が見えてきて、今のままではまた路上に戻ると考えたからだ。

 何しろダイヤモンドなので引用元で主張されていることに関しては疑問を感じないでもないのですが、紹介されている事例は注目に値すると思います。まず最初に登場する「シミズさん」は「自立」にこだわり、生活保護を拒んでいるわけです。本人だけではなく親御さんもまた「自立」にこだわって子どもを追い出したようで、本人の適性や近年の労働環境もさることながら、強すぎる「自立心」がトドメを刺している部分もあるのではないでしょうか。若い男性が生活保護を受給するには何かとハードルが高いですけれど、そのハードルを「自立心」によって自ら高くしているとも言えます。

 「生活保護は絶対に嫌だ」
と、ヤマザキさんもまた、セーフティーネットの生活保護を拒み続ける。

 「生活保護を受けたら、ヤクザに利用されて、お金を全部取られる」

 生活保護は、ヤクザがベンツを乗り回すためにやるものだと、ヤマザキさんは本気で思っている。

 「俺は、あいつらとは違う」

 次に出てくるのは「ヤマザキさん」、ネットで真実な人たちでなくとも、こういう世界観の持ち主は少なくないのでしょうか。「生活保護=ヤクザが不正に受給するもの」と固く信じ続ける人もいるものです。まぁ信教の自由は憲法で保証されていますけれど、それに殉じて自分の首を絞めるのはどうなんだろうと思いますね。暴力団などによる不正受給が蔓延していると、事実とは異なったイメージを広めるのに血道を上げている輩は後を絶ちませんが、実際のところ不正受給は総額の0.3~0.4%程度しかなく、その半数以上は単に「収入を申告していなかった」だけのことであり(参考)、不正受給による損失と漏給(必要な人に行き渡らないこと)は無関係でもあるわけです(参考)。しかるに「生活保護=ヤクザが不正に受給している」との誤解が蔓延した結果として自ら生活保護への道を閉ざそうとする人まで現れているとしたら、たぶん生活保護に関する誤ったイメージを蔓延させてきた連中の罪は不正受給者よりも何倍も重いような気がします。「生活保護に関する誤ったイメージを広めようとする輩」への対策も福祉の一環として必要なのかも知れません。

 家族が孤立して、地域で守れなくなっているため、家族の負担が大きくなっている。しかも、雇用状況が悪いため、働かない大人が家にいることに対し、家族が悪いとは言えない。しかし、社会は「甘やかしだ」「家族が面倒を見るべきだ」などと、家族のせいにする。

 家族は、自立させなければいけないと焦る。すると、言うことを聞かない本人のせいになって、「おまえなんか、出ていけ!」と、家を追い出されることもある。

(中略)

 生活保護に対するイメージの悪さから、「税金の世話になりたくない」「税金で食べていると思われたくない」という考え方が、社会復帰のネックになっている。一方で「生活保護ではなくて、働きたい」という勤勉意識の強さも反映されている。

 で、再び「自立」がキーワードになってきます。公的なセーフティネットの不備を家族の繋がりによって補わせるにも限界がありますが、それ以前に家族がセーフティネットとして機能することを否定する気運もまたあるようです。とにかく自立しなければならない、自立させなければならない…… セーフティネットの拡充もさることながら、強すぎる自立心を克服することもまた必要なのではないでしょうか。自主独立、自給自足、日本は何が何でも自立しなければならない社会と言えますが、これをお互いに頼りあえる社会に変えていかねばならないと思います。

 ある70代のホームレスは、生活保護を申請した。生活保護の認定には、別居する家族から「面倒を見ない」と言ってもらうことが条件になる。

 役所は、電話や手紙で家族に問い合わせる。「あなたの父親が相談に見えていますけど、経済的な援助とかできませんか?」

 ところが、会社社長の息子は、本人には「面倒を見ない」と言いながら、役所には「自分が援助します」と言ってしまう。結局、その人は経済的な援助を受けることができず、ずっと路上で生活せざるを得ない。

 引用の順番が前後しますが、最後に「ある70代のホームレス」の場合を見てみましょう。別居する家族から「面倒を見ない」と言ってもらうことが条件になるそうですが、息子は本人に「面倒を見ない」と言いながら、役所には「自分が援助します」と言ってしまうとのこと、これはひどい。申請者の収入や資産状況については実態を確認する一方で、親族からの援助の有無に関しては自己申告だけで済ませるとはダブルスタンダードも良いところです。せめて息子が「実際に」援助しているかどうかを調べるべきではないでしょうか。まぁ、今時の窓口担当者に求められているのは申請を水際で追い返し、少しでも歳出を削減して財政再建に貢献することなのかも知れませんけれど……

 親の面倒を見ない会社社長の息子もどうかとは思いますが、この辺は個人的な事情もあるかも知れませんので留保しておくことにしましょう。そもそも親や子どもに面倒を見させるのは道徳的には正しく見えるとしても、政治が何もしなくて良いはずがありません。親子関係が良好な人もいれば、親子関係に深刻な問題を抱えている人もいる、あるいは親族も全て貧乏な人もいれば、全く身寄りのない人もいるわけです。家族関係に頼らないセーフティネットは政治が何とかしなくてはなりません。息子が裕福なら息子に面倒を見させればよいと考えるのではなく、息子が裕福ならばそこに適正な課税を行い、それを原資として公的な保証を手厚くする、これが政治の基本であるはずです。

 

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9 コメント

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似非自己責任論者 (northeast)
2010-04-24 07:05:17
前にニュースで見た、オバマ医療改革に反対しTEA-PARTYに参加するアメリカ人お婆ちゃん(白人で、あまり裕福でない)。断固オバマ医療改革に反対(ただし、本人はメディケア-高齢者の公的医療制度に加入しているので言っていることはひどく矛盾している)。アメリカ庶民の典型的な自己責任論者、リバタリアンなんでしょうが、教会のボランティアに参加したり、チャリティ活動に熱心だったりと、慈善に関しては積極的で、貧しい人を救おうと努力していました(それだけでは十分な福祉が及ばないとは思っていないようですが)。
ひるがえって、日本の自己責任論者、リバタリアン達で、ボランティアやチャリティに熱心なんて人はあまり聞いたことがありません。公的福祉も否定し、ボランティアもチャリティもしないとは、心底から「貧乏には飢えて死ね」と確信してるでしょうかね。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-24 12:49:03
>northeastさん

 アメリカの「小さな政府」論者の場合、国家の干渉を嫌う、民間レベルで何とかしたいという意志が感じられるのですけれど、日本の場合は単に福祉の否定という印象がありますね。日本の場合、民間レベルのセーフティネットにすら否定的であり、そのくせ軍事や公安、徴税部門の拡大は容認する傾向がある、なかなか独自性の強い社会のようです。
自立独立 (介護員)
2010-04-24 14:48:34
させたいなら、まともな賃金夏冬の手当と毎年の昇給、退職金等を備え、

バワハラやらモラハラ等から人権を守る法律を

また家族が家族を追い出す等絶対させてはなりません!介護員の言う事が過激でしょうか?
いかなる理由があっても
家族が家族を追い出した時はやはり処罰または取り締まるべきです
いくら不景気とはいえ障害を持った子供をほうり出し路上生活者に‥たしかそんな記事を他のblogでよんだ
向かう矛先が違うはず
バワハラモラハラも、法律で欧州みたいには出来ないまたは法律までと思いますが
今の日本ではそうしないと絶対に、阿鼻叫喚になります。言いたくないが、損するのは、国政府
国民自身ですよ!
HANAKO (Unknown)
2010-04-24 15:37:35
過日派遣村関係のイベントに参加したのですが、ネガキャンに対抗するためか生活保護を受けたくない人もいるとか、酒や煙草を吸うような人は一部とかやたら自立&品行方正を強調する内容だったのは気になりました。まあ自己責任論を解体すべきとも言ってましたが正直不安です。
「施しを受けるはの恥」という感情に乗じて (凡人69号)
2010-04-24 21:17:49
「武士は喰わねど高楊枝」ではないですが、日本ではやせガマンというか施しを受けてもらうことを恥と考えている人が多いのでしょうかね?(それは日本の教育や風潮によるものだからなのかどうかはわかりませんが)ただ、政府がそれに乗じてセーフティネットの不備をほったらかしにしているとしたら、大いに問題アリですね。
Unknown (シトラス)
2010-04-24 22:53:50
セーフティネットが手厚いヨーロッパ諸国も、自立を是とする文化のはずなんですけどね。
あと、税金の世話にならないと言っている人たちも水道やゴミ処理などのサービスを受けているはずです。
こども手当より制度の充実を求める意見から考えると、誰かが物をもらっていることがやっかみの要因となるのでしょうか。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-24 23:19:06
>介護員さん

 まぁ家族関係に関しては、それぞれ事情が異なりますので一概には言えないのですが、「自立」の類を理由にした追い出しは好ましくありませんね。その辺は法的なものを含めたセーフティネットが必要なところですが、日本の場合は法律があっても形骸化しがちですし……

>HANAKOさん

 不当な非難に対してマトモに反論しようとすると、かえっておかしなことになる場合もありますよね。別に品行方正である必要はないはずなんですが、咎め立てされないようにと縮こまっているところもあるのでしょう。

>凡人69号さん

 かつてはセーフティネットを家族や大企業が補ってきたのが日本型ですから、政府がそこに甘えてきたところはあるでしょうね。国民も「富国強兵」の理念が抜けていないのか、行政に支援を求めることを良く思わない、自分で働いてどうにかするものと信じているようですし。

>シトラスさん

 ある意味で「平等」意識が強いと言いますか、自分以外の誰かが、自分には与えられない保障を受けることに不快感を感じるみたいですね。後は消費税がらみでも思ったのですが、微妙に生活感覚がないのかな、と。自分で水道代を払ったりゴミを出したりしていれば、その辺の行政サービスの存在にも気づきそうなものですが、人任せだと気づきにくいのかも。
事情は分かりませんが (Bill McCreary)
2010-04-25 10:45:59
もし、息子の話が事実であるならば、あるいはこの父親は何らかのトラブルをかかえてひどい迷惑をかけている可能性もありますね。ともかく事情は様々で、このような息子もいるんですから、

>結局、その人は経済的な援助を受けることができず、ずっと路上で生活せざるを得ない。

というのが事実であるのならば、これは言語道断な話ですから、役所のほうで早急に対応しなければなりませんね。

なお、管理人さんのおっしゃる

>かつてはセーフティネットを家族や大企業が補ってきたのが日本型ですから、政府がそこに甘えてきたところはあるでしょうね。

という言葉が心にしみました。ほんと、家族に見捨てられている人だって、この日本にはたくさんいるんですからね…。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-25 18:55:52
>Bill McCrearyさん

 単に仲が悪いだけの場合もあれば、双方の間で何らかの問題を抱えている場合もありますからね。そういうケースもあり得るだけに、家族関係に頼らない公的なセーフティネットの整備が不可欠だと思うのですが、その辺は何かと道徳的なものでごまかされがちな気がします。

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