しぐるるやしぐるる山へ歩み入る 種田山頭火
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「しぐれ」は、辞書によると「過ぎる」から派生しているらしい。「通り雨」の意。秋の末から冬の初めにかけて、降ったり止んだりする雨。今日の当地の天候が、まさしくこうだ。しぐれている。
「蝉時雨」はしきりに続く蝉の鳴き声。これはなかなか鳴き止まない。「時雨忌」は10月12日に没した芭蕉の忌。「時雨煮」は因みに貝類の剥き身に生姜、山椒などの香味を加えて醤油砂糖で煮詰めた料理だそうな。
動詞「しぐれる」になると、「涙を催す」意になる。山頭火のこの俳句の「しぐるる」もこちらと掛けてあるかもしれない。
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山頭火はまたまた旅に出ている。放浪をしている。秋も末になって、寒い。雨も降り出した。と思うと止む。空はどんよりしている。これから山を抜けて隣町まで行く。山の麓の椎の林、竹の林が雨に煙っている。あの辺りはまだ降っているらしい。地蔵堂でしばらく休憩をした後で、笠を取って立ち上がった。畦道の草を踏んでいくと草履が濡れる。上り坂になって来た。夕方までには目的地にまで着いていたい。山頭火の足は軽くなった。