音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律第2巻19番前奏曲は「八声体」、平明な美しさの根源はそこに■

2014-10-04 18:48:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律第2巻19番前奏曲は「八声体」、平明な美しさの根源はそこに■

            2014.10.4   中村洋子

 

 

★御嶽山の噴火から1週間たちました。

まだ、山に取り残されている方々のことを思いますと、

心が痛みます。

時期外れの大型台風の襲来、暗いお話が多い毎日ですが、

一条の光は、やはり Bach の音楽です。


★CD ショップを覗きますと、平均律クラヴィーア曲集第1巻に比べ、

第2巻の録音は、やや数が少ないように思えます。

私にしましても、2巻は 1巻に比べ、

「難しい」という意識があったことは、否めません。

何が「難しい」のか、具体的に説明できなかったのも、

事実です。


KAWAI 表参道で、9日開催「平均律第2巻・アナリーゼ講座」では、

≪19番 A-Dur BWV888  Prelude & Fuga ≫ を、

勉強いたします。


この19番 Prelude の美しさは、

なんと表現したらいいのでしょうか。

誰もいない早朝の教会、清澄な空気が漲り、

高いステンドグラス越しに、透明感溢れる朝日が差し込んでいます。

室内は輝き、その平明さに浸る安らぎと心地の良さ。

そのような趣のある曲です。

 

 


★少し、その美しさの源を辿ってみましょう。

この Prelude は、最後の 33小節を除いて、

いつも、三声で動いています。

それでは「三声」なのでしょうか?

いいえ、違います。


三声とみえて、実は立派な「四声体の音楽」です。

そして、それをさらに詳しく分析しますと、

「八声」にまで、細分化されます。


★どうして、そのように細々と面倒くさく、分析するのか?

もっと大らかに、楽しんで弾けばいいのではないの?

という声が聞こえてきそうです。


★それは、Bach が作曲したとき、彼の頭の中で、

soprano ソプラノ、alto アルト、tenor テノール、bass バスの

声部がどのように、組み合わされていたのであろうか、

それを考えることが、最も、弾きやすくなるからです。

その結果、どのような音色で演奏すべきかも、

自ずと、分かるのです。

つまり、弾きやすく、美しく、聴く人を感動させることができる、

演奏となるからです。


9日の「19番 A-Dur アナリーゼ講座」では、

どのように ≪八声部≫ が、成り立っているか、

具体的にお示しし、

それを、どのように演奏すべきか、お話いたします。


★それを理解されますと、凡庸な校訂版楽譜が、

必要なくなるばかりか、

邪魔になってくるかもしれません。

Bach  の音楽は、Bach から、つまり、

「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 から、

学ぶしかないのです。

 

 


★しかし、Röntgen 版などの立派な校訂版は、

とても、勉強になります。

Röntgen 版は、Bach への重要な道標である、といえます。

例えば、冒頭 3小節上声の 四つの fingering フィンガリング

 

 

『 a1 →  「3」 、 h1 →  「3」 、 cis2 →  「3」、  d2 →  「3」 』 は、

決して easy to play の指使いではありません。


★この四つの音をつなぎますと、

 

 

という、4度の順次進行 motif モティーフが、生まれ出ます。


この motif モティーフこそが、

19番 Prelude & Fuga を支配する要素となります。


★最も分かりやすい例としましては、

Fuga 冒頭1小節目の Subject 主題 

『 a - h - cis1 』 が、導き出されます。

 

 

しかし、何故 a1 、 h  cis1 は、冒頭で隣同士の音なのに、

「 d2 」 は、ずっと離れ、1小節目最後の音なのでしょうか?


これを解明いたしますと、 Prelude と Fuga を、

どう弾くべきかの、カギが分かります。

講座で、詳しくお話いたします。


Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) が、独自の配列を施した、

 Wohltemperirte Clavier 校訂版も、大変に素晴らしいものです


★この19番  A-Dur は、彼の校訂版では、

 「第1巻 12番」 に、組み入れられています。

その Fingering は、19番ではそれほど似ていませんが、

他の曲では、Röntgen 版と非常に似通った Fingering が、

記されています。


★どちらが先か、気になるところですが、

Röntgen 版の出版年は、残念ながら、分かりません。

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945)校訂版を見ますと、

「©1908 by Rozsnyai Károly, Budapest」 が、

最初のコピーライトで、

「© Copyright assigned 1950 to Editio Musica Budapest」

とあり、1950年に、Editio Musica Budapestへと、

譲渡されたようです。

 

★最初のコピーライト年の1908年は、Bartókが27歳前後です。

Bartók版は、20代半ばの作品ということになります。

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)は、

53歳前後で、有名なprofessorでした。

Röntgen が亡くなった1932年は、

大手出版社であったEditio Musica Budapestに、

Bartók版の版権が譲渡された1950年より、18年前です。


★Bartókは、Bach 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」

を、しっかり勉強した人ですので、

Röntgen 版が以前から存在していたとするならば、

それを勉強したのはあり得ることでしょう。


★しかし、両者とも共通点はありながら、

Bach の音楽の真実に、辿り着くための「導き」であることに、

変わりありません。

 

 

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■第 16 回  第 19 番 A-Dur BWV888 Prelude & Fuga
  ~ 19 番は Bach の counterpoint 対位法の極致 ~

■日 時 : 2014 年 10 月 9 日(木) 午前 10 時 ~ 12 時 30 分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予約  : Tell..03-3409-1958

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

    2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

    07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

    08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

    08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

    09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
          「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

    10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

    10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

    11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

    12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

    13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

  ★上記の 楽譜 & CDは、
カワイ・表参道http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
アカデミア・ミュージックhttps://www.academia-music.com/   で
   販売中

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 

 

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