■平均律第2巻19番前奏曲は「八声体」、平明な美しさの根源はそこに■
2014.10.4 中村洋子
★御嶽山の噴火から1週間たちました。
まだ、山に取り残されている方々のことを思いますと、
心が痛みます。
時期外れの大型台風の襲来、暗いお話が多い毎日ですが、
一条の光は、やはり Bach の音楽です。
★CD ショップを覗きますと、平均律クラヴィーア曲集第1巻に比べ、
第2巻の録音は、やや数が少ないように思えます。
私にしましても、2巻は 1巻に比べ、
「難しい」という意識があったことは、否めません。
何が「難しい」のか、具体的に説明できなかったのも、
事実です。
★KAWAI 表参道で、9日開催「平均律第2巻・アナリーゼ講座」では、
≪19番 A-Dur BWV888 Prelude & Fuga ≫ を、
勉強いたします。
★この19番 Prelude の美しさは、
なんと表現したらいいのでしょうか。
誰もいない早朝の教会、清澄な空気が漲り、
高いステンドグラス越しに、透明感溢れる朝日が差し込んでいます。
室内は輝き、その平明さに浸る安らぎと心地の良さ。
そのような趣のある曲です。
★少し、その美しさの源を辿ってみましょう。
この Prelude は、最後の 33小節を除いて、
いつも、三声で動いています。
それでは「三声」なのでしょうか?
いいえ、違います。
★三声とみえて、実は立派な「四声体の音楽」です。
そして、それをさらに詳しく分析しますと、
「八声」にまで、細分化されます。
★どうして、そのように細々と面倒くさく、分析するのか?
もっと大らかに、楽しんで弾けばいいのではないの?
という声が聞こえてきそうです。
★それは、Bach が作曲したとき、彼の頭の中で、
soprano ソプラノ、alto アルト、tenor テノール、bass バスの
声部がどのように、組み合わされていたのであろうか、
それを考えることが、最も、弾きやすくなるからです。
その結果、どのような音色で演奏すべきかも、
自ずと、分かるのです。
つまり、弾きやすく、美しく、聴く人を感動させることができる、
演奏となるからです。
★9日の「19番 A-Dur アナリーゼ講座」では、
どのように ≪八声部≫ が、成り立っているか、
具体的にお示しし、
それを、どのように演奏すべきか、お話いたします。
★それを理解されますと、凡庸な校訂版楽譜が、
必要なくなるばかりか、
邪魔になってくるかもしれません。
Bach の音楽は、Bach から、つまり、
「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」 から、
学ぶしかないのです。
★しかし、Röntgen 版などの立派な校訂版は、
とても、勉強になります。
Röntgen 版は、Bach への重要な道標である、といえます。
例えば、冒頭 3小節上声の 四つの fingering フィンガリング
『 a1 → 「3」 、 h1 → 「3」 、 cis2 → 「3」、 d2 → 「3」 』 は、
決して easy to play の指使いではありません。
★この四つの音をつなぎますと、
という、4度の順次進行 motif モティーフが、生まれ出ます。
★この motif モティーフこそが、
19番 Prelude & Fuga を支配する要素となります。
★最も分かりやすい例としましては、
Fuga 冒頭1小節目の Subject 主題
『 a - h - cis1 』 が、導き出されます。
しかし、何故 a1 、 h cis1 は、冒頭で隣同士の音なのに、
「 d2 」 は、ずっと離れ、1小節目最後の音なのでしょうか?
★これを解明いたしますと、 Prelude と Fuga を、
どう弾くべきかの、カギが分かります。
講座で、詳しくお話いたします。
★Bartók Béla バルトーク (1881~1945) が、独自の配列を施した、
Wohltemperirte Clavier 校訂版も、大変に素晴らしいものです。
★この19番 A-Dur は、彼の校訂版では、
「第1巻 12番」 に、組み入れられています。
その Fingering は、19番ではそれほど似ていませんが、
他の曲では、Röntgen 版と非常に似通った Fingering が、
記されています。
★どちらが先か、気になるところですが、
Röntgen 版の出版年は、残念ながら、分かりません。
Bartók Béla バルトーク (1881~1945)校訂版を見ますと、
「©1908 by Rozsnyai Károly, Budapest」 が、
最初のコピーライトで、
「© Copyright assigned 1950 to Editio Musica Budapest」
とあり、1950年に、Editio Musica Budapestへと、
譲渡されたようです。
★最初のコピーライト年の1908年は、Bartókが27歳前後です。
Bartók版は、20代半ばの作品ということになります。
Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)は、
53歳前後で、有名なprofessorでした。
Röntgen が亡くなった1932年は、
大手出版社であったEditio Musica Budapestに、
Bartók版の版権が譲渡された1950年より、18年前です。
★Bartókは、Bach 「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜 」
を、しっかり勉強した人ですので、
Röntgen 版が以前から存在していたとするならば、
それを勉強したのはあり得ることでしょう。
★しかし、両者とも共通点はありながら、
Bach の音楽の真実に、辿り着くための「導き」であることに、
変わりありません。
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■第 16 回 第 19 番 A-Dur BWV888 Prelude & Fuga
~ 19 番は Bach の counterpoint 対位法の極致 ~
■日 時 : 2014 年 10 月 9 日(木) 午前 10 時 ~ 12 時 30 分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予約 : Tell..03-3409-1958
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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
初演される。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で
販売中
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union クラシック館で、購入できます。
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