音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ゴルトベルク変奏曲の演奏は≪四声体≫分析ができれば難しくない■

2016-04-04 18:04:39 | ■私のアナリーゼ講座■
■ゴルトベルク変奏曲の演奏は≪四声体≫分析ができれば難しくない■
   ~第1回ゴルトベルク変奏曲アナリーゼ講座4月9日~
             2016.4.4  中村洋子
 
 
 
 
 
 
★春分から半月、本日は「清明」。

しとしと雨が降っています。

命ある万物が清新の気を漲らせます。

桜の薄墨、海棠の赤、満天星躑躅(ドウダン)の白。

著莪(シャガ)の薄紫。
  
欅が一気に芽吹き、矢車草にもピンクの蕾。

舞い落ちた桜の花びらが、椿の緑葉に貼りついています。


★この四月は、中旬に新しいCD「夏日星(なつひぼし)」

発表します。

ギタリストの斎藤明子さんと尾尻雅弘さんに、

私の作品を演奏していただきました。


★また、私が翻訳しました
 
Bärenreiter-Verlag ベーレンライター出版社の 新バッハ全集原典版
 
Urtext der Neuen Bach-Ausgabe
 
Bach「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」の序文と
 
訳者注のブックレットが、「Goldberg-Variationen」に差し込まれ、
 
新規発売となりました。
 
 
 
 
 

4月9日(土曜)は、Bach 「Goldberg-Variationen
 
ゴルトベルク変奏曲」第1回アナリーゼ講座を、開催いたします。
 
そのための勉強に集中しています。
 

★このゴルトベルク変奏曲の成り立ちは、
 
序文(Cristoph Wolff)と、その注(中村洋子)に
 
書いてありますので、
 
大きな歴史的背景は把握できると思います。
 

★この講座は前期と後期に分かれ、各5回で、
 
各回とも変奏曲を三曲ずつアナリーゼいたします。
 
第1回は主題である「Ariaアリア」と、1~3番変奏曲ですが、
 
「アリア」の分析を綿密にしたいと思います。
 
各回ともアリアは必ず、振り返ることになります。
 

★この講座では、
 
“Bachの音楽がはなぜ美しく、私たちの心をとらえて離さないのか”、
 
皆さまとともに考え、理解していただき、
 
実感していただきたいのです。
 
 
 
 
 
 

Bachは作曲するに当たって、
 
必ず≪四声体和声≫を強固な≪地盤≫とし、
 
それに基づいて、作曲を進めていました。
 
主題のアリアは、上声がト音記号、下声がヘ音記号(バス記号)の
 
大譜表でかかれています。
 
例外は、19~20小節の4小節だけ、
 
下声がバス記号でなくアルト記号です

(これにつきましては、なぜそうなのか、講座でお話いたします)
 
 
★2段の大譜表から、≪四声体≫をどう読み取っていくか・・・
 
それこそが、演奏する上で、あるいは鑑賞し聴く楽しみを得る上で、
 
すべての基礎となります。
 
演奏が優れているか、そうでないかの判断基準の基礎となります。
 

★つまり、その演奏が≪四声体≫の解釈を、
 
十分に出来た上での演奏かどうかが、
 
いい演奏か、そうでないかの判断基準になります。
 
 
 
 
 

★かつては、ゴルトベルク変奏曲の録音は限られた名演以外は、
 
あまり存在していなかったのですが、
 
現在は、百花繚乱、ピアノ、チェンバロ、室内楽で
 
様々に録音され、CDショップの棚を賑わせています。
 

★私も20近くの録音を聴いてみました。
 
それらの解説ジャケットは、
 
例えば、チェンバロに関しては、演奏に使われた楽器への蘊蓄や、
 
どういう調律を採用したのか、が長々と書かれていたりします。
 
あるいは、奏者の美しい写真が貼られた、
 
豪華な装丁であったりしますが、
 
この曲の大きな構想と構造、対位法と和声の極地でありながら、
 
これだけ、美しく幸福感に満たされているのはなぜか・・・
 
に答えている解説文はほとんど、見受けられません。
 

Bachゴルトベルク変奏曲の「清澄な」世界を表す、
 
≪四声体≫に則った演奏は、意外に少ないのです。
 
バッハは、変奏曲の各曲に1段鍵盤か、2段鍵盤かを記入しています。
 
第1変奏曲は、右手と左手が交差しますが、
 
これをチェンバロの2段鍵盤で演奏しますと、
 
華麗で、腕の交差も容易になります。
 
 
★しかしバッハはこの第1変奏曲を、1段鍵盤で弾くように
 
指定しています。
 
これは、2段の華麗な効果でなく、もっと大切な「四声体」を
 
考えて欲しい、という示唆ともいえます。
 

★私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫で、
 
 Afanassievの著書からの引用で書いていますように、
 
「エクスタシーの連続が現代のクラシック音楽」に、
 
一脈通じる、派手な効果を狙った演奏も多いように感じます。
 
 
 
 
 
 

★このゴルトベルク変奏曲の「アリア」について、
 
私のもっていますイメージとは、
 
Vermeerフェルメールの「Woman with a Pearl Necklace
 
真珠の耳飾りの女性」の “光あれ” の世界です。
 
これにつきましては、私の著書のP95に詳しく書いております。
 
どうぞ、ご覧ください。
 

★≪四声体≫に話を戻しますと、それは、
 
バス、テノール、 アルト、ソプラノという人の声を基にしています。
 
「歌」というものは、楽器とは異なり、“別格”のものがあります。
 
心からの感動が、声となって発せられるのです。
 
私は、Bachの音楽はそのようなものであると、思います。
 

ゴルトベルク変奏曲の各曲は、すべてそうなのですが、
 
≪四声体≫といっても、各声部はほぼまた二分割(div.)されています。
 
実は、最低≪八声体≫でとらえるべきです。
 

★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)が、
 
指摘していますように、
 
“その各々の声部は、それぞれ独自の音楽生命をもって”います。
 
それを、意味ありげに衒学的に説明したり、
 
もったいぶって難しそうにお話しすべきではないでしょう。
 
講座では、私が実際にピアノを弾きながら、分かりやすく
 
ご説明いたします。
 
 
 
 
 
 

CDを我慢して聴いているよりも、きっと、
 
ご自分で弾いてみたくなってしまうことでしょう。
 
意外に思われるかもしれませんが、
 
ゴルトベルク変奏曲は、構造をしっかり頭に入れますと、
 
演奏はさほど難しいものではありません。
 

私は、是非皆さまに自ら弾く楽しみを、
 
味わって欲しいのです。
 
鍵盤楽器を演奏なさらない方でも、全てのパートを頭に入れ、
 
ご自分の好きな声部を弾く、という楽しみ方があります。
 

★あるいは、ピアノの発表会で、気に入った一つの変奏曲だけ、
 
お子さんが弾くということも、立派な楽しみ方です。
 
 
★眉唾もののゴルトベルク変奏曲にまつわるエピソードにしましても、
 
カイザーリンク伯爵が寝入ってしまえば、
 
曲はそこで静かに終わります。
 
全曲演奏でなければ、この偉大な作品に手を触れてはいけない、
 
という強迫観念をもつ必要はありません。
 
どれか一つの変奏曲を、ゆっくり、じっくり演奏し、
 
楽しみましょう。
 
これが、バッハに近づく最短距離です。
 
 
 
 
 
 
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