マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

土台(と上部構造)、die Basis und der Ueberbau

2011年11月27日 | タ行
 唯物史観の根本は、「生産力が生産関係を規定する」とか、「生産関係が法的な関係や精神生活を規定する」といった命題で理解されています。まず、「生産力が生産関係を規定する」という命題について言いますと、この「規定する」とは「一義的に決定する」という意味ではなく、「大きな枠組みを定める」という意味です。つまり、人間は、種(しゅ)によって社会構造の固定されている動物と違って、どういう生産関係を作って生産活動をするか自由なのであり、これが人間社会の根本的特徴なのですが、それでもその「自由」はあくまでも「生産力で定められた枠内での選択の可能性」でしかないということです。能力の範囲内にない事はやりたくても出来ないという当たり前の原理です。

 次に、「生産関係が法的な関係や精神生活を規定する」という命題について言いますと、これは「(社会の)土台がその上部構造を決定する」とか「社会的意識は社会的存在によって決まる」とか言い換えられています。これらの言い換えの意味は彼らにとっては自明の事でしたが、それを受け継ぐ人たちの間では正しく理解されませんでした。

 「土台が上部構造を決定する」という命題は、少し考えてみれば分かる通り、同語反復的な真理です。2つのものが規定し規定される関係にある時、規定する方を「土台」に譬えるのです。規定される方を上部構造と言うのです。生産関係を土台と名付けたのではないのです。生産関係は土台のようなものだと、生産関係の規定的な性質を譬えで表現したものなのです。ですから、本当は「土台が上部構造を決定する」と言うのではなくて、「生産関係が土台で、精神生活は上部構造だ」と言ったならば、無用な誤解を生まなくてすんだでしょう。

 これが「社会的意識は社会的存在によって決まる」と言い換えられた事は一層重要です。ここでは「生産関係」をなぜ「社会的存在」と捉え直してよいのか、「政治や法的な関係や精神生活」をなぜ「社会的意識」と捉え直してよいのかの問題が先決ですが、それはともかく、こう言い換えますと、唯物史観は事実上、価値判断の客観性を主張するものであることが明らかになるからです。

 政治とか法律とか精神生活とかは、みな、善悪を論じ、価値の高低、意義の大小を争うものです。法律は一番はっきりと「何が許される事か、許されない事か」を規定しています。これが価値判断でなくて何が価値判断でしょうか。しかるに、その価値判断は、結局は、その社会を支配している生産関係で決定されているという事実を発見して、定式化したのが唯物史観なのです。これを「価値判断の客観性の主張」と言わないとしたら、何と評するのでしょうか。

 このような唯物史観に基づいて歴史を研究した結果、彼らは、「大づかみに見て、アジア的生産様式、古代的生産様式、封建的生産様式及び近代ブルジョア的生産様式」が経済的社会構造のこれまでの歴史だと結論しました。(牧野紀之再話・波多野精一『西洋哲学史要』〔増補新版〕未知谷刊344-5頁)

  

 ・動物の社会は「種によって(例えば1夫多妻とかに)決まっている」という点については『労働と社会』鶏鳴出版を参照。人間社会は色々です。この性格を「集合社会」と言います。

 ・「土台」を生産関係の別名、「上部構造」を精神生活の別名と取るとなぜ拙いかと言いますと、そう取ると、観念史観では「上部構造が土台を規定する」ということになってしまい、形容矛盾になるからです。

  参考

 01、人間の生活諸条件、社会的諸関係、法及び国家の諸形式を、それらの観念的上部構造である哲学や宗教や芸術等々と共に、その歴史的序列及びその現在の結果の中で研究する歴史科学……(マルエン全集第20巻82頁)

 02、イデオロギー的な社会関係(即ち形成される前に人間の意識を通過する関係。ここで「意識」と言うのは、もちろん常に社会関係の意識だけであって、その他の関係の意識ではない)。

 物質的な社会関係(即ち人間の意識を通過しないで形成される関係──人間は生産物を交換することによって生産関係に入りこむが、ここに社会的生産関係があることを意識さえしないでそうするのである)(レーニン「人民の友とは何か」第1分冊、邦訳全集第1巻133頁)

 感想・このレーニンの定義は間違いです。「物質」概念を「意識から独立」としか理解できなかった24歳の若造の失策です。社会主義的生産関係はもちろん、資本主義でも「形成される前に意識を通過する」生産関係はいくらでもあります。だからと言って、それが「イデオロギー」になるわけではありません。

 生産関係とは「人間の物質生活と『直接』関係した人間関係」のことです。ここで大切な点は「直接」関係しているという点です。物質の命名的定義で、「まず」感覚器官に与えられる、というのとパラレルです。

 03、マルクスは経済を下部構造、政治、宗教を上部構造と位置づけたが、ブッシュ天下は宗教を下部構造、政治を上部構造とする政治地殻を特徴とする。(2004,11,11, 朝日、船橋洋一)

 感想・これは正しい使い方です。下部構造=規定的なもの、という理解ですから。

04、ブッシュ共和党天下といえども、下部構造はやはり地上であり経済である。イデオロギーでも宗教でもない。そこを間違うと天下は大いに乱れる。(2004,11,11, 朝日、船橋洋一)

   関連項目

存在と当為

『西洋哲学史要』

★ 今日11月27日は、「11.27」の記念日です。1959年11月27日、いわゆる「全学連の国会突入事件」が起きました。そこから、学生運動内部の主流派と反主流派の対立は決定的となりました。詳しくは「60年安保」をどうぞ。
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