マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

コレクティブハウス

2011年01月07日 | カ行
            宮前眞理子(NPOコレクティブハウジング社(CHC)副代表理事)

 「コレクティブハウス」という新しい住まいを提案しています。

 どんな住まいなのか。各世帯がワンルームや2LDKなど独立した住居を持ちながら、高機能のキッチンや洗濯室、リビングスペースなどを共有しし、共同で運営する賃貸型の集合住宅です。現在、東京都内に4ヵ所あり、合わせて約70世帯が暮らしています。

 「未来の長屋暮らし」という人もいます。長屋といっても、プライバシーのない昔のイメージとは遠い。血縁にこだわらず、多世代が緩やかにつながりあう暮らしです。

 もともと、女性の社会進出に伴い、北欧で1970年代に「家事や育児を分かち合い、負担を軽くする住まい」として普及しました。私たちは「自分たちの手で暮らしをつくる」というところに共鳴し、日本の住まいの選択肢になると考えたのです。

 特徴の一つは、週3回程度の夕食づくりの共同化。コモンミールと呼んでいます。全員が交代で当番になりますが、食べるかどうかは自由です。そのほか、庭や菜園の水やり、掃除、戸締まりなどが当番制で、全員が協力しながらハウスを自主管理します。

 「地域とつながる共同体」でもありますので、近所の方を先生にして習字や生け花を教わったり、演奏会、演劇などのイベントを開いたり、ということもしますね。

 住人からは「独り暮らしの不安がなくなった」「家族以外との触れ合いが、子どもにもいいみたい」「共働きなので、帰ってきて夕食があって大助かり」といった声を聞きます。高齢の方は「子どもや若い人たちと話せて、生活にハリが出る」と言ってくれる。

 でも、人の価値観は多様ですから当然、意見の相違もあります。掃除をどの程度やるか、共有スペースにテレビは必要か、などを巡って。そんな時は、月1回の定例会で「気になること」として話し合ったり、ルールを再検討したりして、試行錯誤で解決策を探す。多様な人がいろいろな価値観を持つからこそ、多くの可能性にも巡りあう暮らしなんです。

 NPO法人の私たちの仕事は、事業の推進役として、「大家さん」と呼ぶ事業主や入居希望者を支援し、つなぐことです。2003年に東京・東日暮里に最初のハウスを完成させてから7年余り。建築の専門家とも協力し、ハウスを増やしてきました。

 計画段階から居住希望者が参加し、何度もワークショップを開いて、どんな暮らしにしたいのかという思いを共有する。その思いを設計者とともに形にします。住む人が入れ替わっても、私たちが大家さんと居住者組合をつなぎ、協力して快適な暮らしを継続させて
いくのです。関心を持つ人は非常に多く、見学者はすでに5000人を突破しました。「居住希望者の会」には現在、約80人が登録し、ともにハウスをつくる大家さんを探しています。

 私たちが驚いたのは、30代の単身者の入居が年々、増えたこと。この世代が「この先も自分は1人なのか」「収入を維持できるだろうか」と不安を募らせているのを感じます。孤立化、無縁化が進んだ日本の社会で、高齢者の孤独死、児童虐待、子どもや若者のコミュニケーション能力低下、といった問題が噴き出しています。人が安心してつながれる環境をどうやってつくるのか。それが大きな課題だと思いますね。

 日本の住まいのバージョン2・0を担うというような大それた夢はありませんが、暮らしへの不安が募る現状に対し、この「新しい住まい」は、解決の糸口になると思うのです。大家さん候補になるはずの人たちには、まだこの新しい住まいが浸透していません。ぜひ、多くの人と一緒にハウスを増やしたい。

(朝日、2011年01月04日。聞き手・山本晴美)

   感想

 行政の作る団地も、こういうのの集まりみたいにすると面白いと思います。