□176『岡山の今昔』岡山人(18~19世紀、良寛)

2019-02-23 22:07:38 | Weblog

□176『岡山(備前・備中・美作)の今昔』岡山人(18~19世紀、良寛) 

 良寛(りょうかん、1758~1831)は、日本にあまねく知られる仏教者にして、書や詩作などもよくした。とりわけ書は、かの「平安の三筆」と並び誉れ高い。彼らとは別段の自然な境地にて、燦然と輝く。

 念のため、「良寛」とは、実名ではなく、仏教でいうところの法号にほかならない。1779年(安永8年)に、玉島の円通寺の国仙和尚が越後の尼瀬にある光照寺をおとずれ、そこで禅の修行をしていた若き日の山本新左衛門に得度を与える。国仙の下で、その新左衛門は「良寛」の法号を与えられる。自分の寺に帰る国仙について故郷を後にし、玉島の円通寺に赴く。

 それからの修行でめきめき頭角をあらわし、1790年(寛政2年)には、国仙から雲水修行の印可を受ける。師匠から「一等首座」の地位を与えられる。そして、円通寺境内にある覚樹庵を預けられる。

 翌1791年に国仙が69歳で病没すると、諸国行脚の旅に出る。どうやら、師匠の跡を継ぐ気などはなかったようだ。

 その頃の良寛の人となりをあらわすと思われるものに、その頃の作であろうか、本人による次の詩がある。

 「面仙桂和尚真道、貌古言朴客、三十年在國仙會、不参禅讀経、
不道宗文一句、作園蔬供養大衆、當時我見之不見、遇之遇之不遇、吁嗟今放之不可得、仙桂和尚真道者」

 書き下し文は、次の通り。

 「仙桂和尚は真の道者、黙して言わず朴にして容づくらず、三十年国仙の会に在りて、禅に参ぜず経を読まず、宗文の一句すら道わず、園菜を作って大衆に供養す、当時我れ之を見れども見えず、之に遇えども遇わず、ああ今之に放わんとするも得べからず、仙桂和尚は真の道者」

 これにいう仙桂和尚は、どうということはないほどに、人におのが実力を誇示したりの人ではなかったようだ。自らに与えられた職務である、同寺の典座(てんぞ、炊事係)を淡々と務めていたことであり、良寛は相当に尊敬していたらしい。思い起こせば、日本における曹洞宗の開祖・道元の言辞に、中国に留学のおり、ある典座の言葉にいたく感動したという話が伝わっており、その故事にならったのかもしれない。ともあれ、その頃の良寛は、本山争いをしている永平寺と総持寺の首脳の在り方にはうんざりしていたらしい。

(続く)

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□182『岡山の今昔』岡山人(19世紀、小林令助)

2019-02-23 21:41:31 | Weblog

182『岡山(備前、備中、美作)の今昔』岡山人(19世紀、小林令助)

 津山への入口ともいえる勝間田の地には、この時期に医業で多くの人材が輩出している。その中で、小林令助(こばやしれいすけ、1768~1851)の働きがあり。彼の活躍は杉田玄白(すぎたげんぱく)とも関係する。玄白といえば、語学に堪能な前野良沢と協働してして、ドイツ人の著書を翻訳しての『解体新書』を発行した人物だ。その玄白の門人として、親交があったのが小林令助であった。令助は、美作国勝南郡岡村(現在の勝田郡勝央町)に生まれる。

 医師の小林新太郎景治の三男として、それなりの富裕な家に生まれたおかげであろうか、18歳で江戸に遊学して、玄白のもとで外科を学んだ。また、1799年(寛政11年)には京都に赴き、漢方医師の吉益南涯(よしますなんがい)に内科を学ぶ。また、宇田川玄真(うだがわげんずい)や藤井方亭(ふじいほうてい)ら蘭学者とも交流する。

 その後、郷里に帰り、医院を開業した。令助の名は杉田玄白の門人帳には見当たらない。それでも、玄白の日記の1790年(寛政2年)年2月17日条」に「送帰令助之作州」という詩が見える。同様の主旨の詩が、同年3月4日条にも「業成才子作州帰」という題で残る。これから、玄白が令助に相当に目をかけていたことが窺える。

 中でも、1805年(文化2年)年11月14日付け、玄白が73歳のときに令助に宛てた手紙が、津山洋楽資料館に残っており、紹介されている。こちらの手紙の体裁としては、前年に玄白は将軍にお目見えをしており、令助がそれに対して述べた祝賀への返礼である。ソッピルマート(塩化第二水銀、消毒用劇薬、当時は梅毒治療に用いられた)の製法などに関する問合わせへの回答、令助が仕官の斡旋を依頼したことに対しての回答などが記されている。

 その後の1819年(文政2年)の令助は、当時岡村を領していた但馬国出石藩(たじまのくにいずしはん、藩庁は現在の兵庫県豊岡市)の藩医に取り立てられた。 なお参考までに、同藩ではその2年後に「江戸三大御家騒動」の一つに数えられる「仙石騒動」(せんごくそうどう)が起こる。

(続く)

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