尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「もり・かけ問題」の語り方-総選挙の前に②

2017年10月16日 22時56分57秒 |  〃  (選挙)
 今回の総選挙で、「野党が分裂したから与党が好調」というようなことを言う人がいる。確かに小選挙区では、そうなりそうな選挙区もある程度見られると思う。だが、野党の態勢が問題なんだったら、比例区では野党が圧倒するはずだ。調査報道の結果を見る限り、むしろ比例区の自民党は前回から増えそうなぐらいの勢いを伝えられる。今までずっと「安倍政権の支持率」が下がる時があっても、比例区の投票先が自民党という人は一貫して高率を保っていた。

 そんな中、今年になって「森友学園問題」「加計学園問題」が大きく報道された。安倍首相は党首討論では、これらの問題を問われて「今後も丁寧に説明していく」と(いつものように)言ってたけど、やっぱり演説では全然触れてない。(「丁寧に説明する」というのは、「もうこれでオシマイ」と言う意味なんだろう。)これらの問題は、構図が今までの政治スキャンダルと異なって、案外わかりにくい。だから、この問題をどう考えればいいのか迷う人も多いんじゃないだろうか。

 どっちの問題も前に書いているけど、ここで改めて書いておきたい。まず「森友学園問題」だけど、当時の籠池理事長と妻は詐欺容疑で逮捕・起訴され勾留中である。だから「詐欺を働くような人物にだまされた」という説明をしている。それは全くおかしい。詐欺容疑はまだ裁判も始まってないから、「推定無罪」に反するような言動を行政権の長がしていいのかという指摘もある。それもまあそうなんだけど、それよりも「詐欺」と言うのは、大阪府に対する補助金の不正取得を指している。

 それはそれで大問題だけど、国政には関係ない。問題は「国有地が不当に安く払い下げられた」ことにある。まあ、正確には「払下げ」というよりも、「多額のゴミ処理費用を差し引いてから、10年間の分割払い」だった。そのゴミ処理費用の算定方法が判らない。なんで非常に安くなったかが判らない。書類はもう廃棄された。関係者皆が判らない、忘れたというような話。

 首相夫人が「名誉校長」を務め、財務省近畿財務局との交渉には、「首相夫人付き」の国家官僚からファックスが送られていた。どう考えても、上からの影響力が働いたか、あるいは首相夫人の名に恐れ入った財務官僚が不当に廉売したか。そんな感じがしてならないわけだけど、書類は全然ないというし、首相夫人などは一度も公の場所で説明をしていない。

 森友学園は「教育勅語」を幼稚園児に暗唱させるなど復古的な「教育」で知られ、今度は「神道に基づく小学校」なるものを設立しようとしていた。そういう極右的思想に賛同したのか、首相夫人が講演に訪れ「名誉校長」を引き受けた。どうやら安倍首相に近い人物には、国家として配慮をしたのではないか。これが最大の問題ではないか。そして、僕の考えによれば「書類は廃棄した」は全くのウソと思われる。なぜなら、10年間の分割払いが終わってなかった以上、この国有地払い下げ問題は現在進行中の案件だったからだ。今だって残っている可能性は大ではないか。

 「加計学園問題」は首相によれば、「誰も私の指示だと言った人はいない」。そして加戸前愛媛県知事は「ゆがんだ教育行政が今回ただされた。それがこの問題の本質」と言っていると紹介する。大体そういう構図になっている。しかし、「安倍首相が指示したから、大問題だ」などと誰が言ってるのか自分で勝手に問題設定をして、それは違うと反論してみせる。安倍首相のいつもの手口だ。

 文科省内の文書に「総理のご意向」とあった。それは「怪文書」だと官房長官が決めつけたけど、実際に存在した。そんな文書はないと言うから、いや見たと言った前川前次官は個人攻撃を掛けられた。そして実際、そういう文書は存在した。文科省内では「総理の意向」だと思われていた。それは何故か。しかし、安倍首相は自分は指示していないという。実際には「総理の指示があったのか」、それとも「総理の指示はないけど、周りの官僚が総理の名を使って仕事をしているのか」。

 安倍首相は前者はないというから、それでは後者になる。国家にとっては、そっちの方がまずいのではないか。しかし、安倍首相はその問題を語らない。当初、文科省内で文書がないと言った問題も取り上げない。加戸知事は愛媛県は15年も特区に応募してもことごとくはねられてきた。それが今回やっと認められたという。そして安倍首相も、安倍内閣でも却下したことがある、今回は「構造改革特区」ではなく、「国家戦略特区」として取り組んだから出来た、審査は公平に行われたと強調する。

 加戸前知事は2010年に退任しているから、第二次安倍内閣以後の問題は本来知る立場にない。問題は「国家戦略特区」として起こったのだから、そもそもこの問題を語る資格が不十分だろう。この問題は二つの段階に分かれている。そして多くの人は後段しか語らない。だけど、一番の問題は、なんで今治市に獣医学科大学を作るという問題が、「国家戦略特区」の課題に昇格したのかだ。

 文科省は大学の設置、学生数の定員を相当シビアに統制してきた。大学には高額の補助金が入っているし、特殊な資格を付与する学部がそうそう自由に作っていはずがない。例えば医学部を各地に自由に作っていいとは思えない。それでは教育水準が下がり医師の資質が低下する可能性もあるし、医師が多くなりすぎても困る。医科大学を出るには6年もかかるのに、国家試験に合格しない卒業生を多く出すわけにもいかない。それがいいか悪いかは別にして、文科省は自分たちの正当な仕事だと思って、獣医学科を増やさないという政策を維持してきたわけだろう。

 それはおかしいという考えもあるだろうが、それはこの問題の本質ではない。「国家戦略特区」という仕組み自体にも問題があると思う。地方が提案する構造改革特区はあってもいいが、国家戦略としてある地域だけ特別なルールを適用するというのはどうなんだろう。首相は最高責任者なんだから、国家戦略特区にする問題があるならば、全国的に共通のルール改正を行うべきではないのか。

 その議論はともかく、今治市=加計学園がずっとはねられてきた(その良し悪しは別)事案が、どうして「国家戦略特区」になって認められたのか。その経緯こそが真の問題だと思う。それにしても、森友、加計どちらも、今までの政界スキャンダルなら、政治家側が金を貰って便宜を図るという構図になっていた。もし今回もそうだったらやはり辞任は避けられなかったに違いない。

 だが、今回はそこにお金の流れがない。むしろ政治家に近い事業者が、国から便宜を図ってもらえるという構図になっている。だから、安倍首相は自分は何も指示していない、何も悪いことはないと言える。だが、全国民のために存在する国家官僚が、まるで首相周辺の使用人のように行動する。そしてそれを首相本人が問題だと思わない。自分が指示してないんだから問題ないと言う。でも僕には、首相が本当に指示してないのに、こういう風に首相周辺の人物が利得を得られるというケースの方がずっと大きな問題なんじゃないかと思える。
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