尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

野党側の問題-都知事選を考える②

2016年08月03日 00時00分37秒 |  〃  (選挙)
 参院選の一人区で「共闘」体制を組んだ野党4党は、引き続いて都知事選でも野党統一候補を立てた。しかし、そのような方針は早くから言われていたものの、具体的な候補者はなかなか決まらず、告示2日前の7月12日になってようやく鳥越俊太郎氏の擁立が決まった。一方、2012、2014の都知事選に出馬した元日弁連会長の宇都宮健児氏も出馬を表明していたが、告示前日に立候補見送りを表明し、野党系の分裂はなくなった。

 とまあ、今の時点では誰でも覚えていることを確認したが、こういうことも少しするとみんな忘れてしまうものである。結局は鳥越氏は134万票ほどで、小池氏の291万票、増田氏の179万票に遠く及ばず、第3位に終わった。これは前回の都知事選で宇都宮、細川陣営の得票の合計(193万票)や、参院選での東京比例区4野党票(248万票)に比べて少なすぎる。衝撃的な「惨敗」だったというしかない。これは一体どう考えればいいのだろうか。

 僕が一番感じるのは、野党の「戦略のなさ」である。今回は勝ってもできることはほとんどなかったと思うし、僕も正直「勝つ気」はあまりなかった。(そのことは最後に書く。)野党統一候補であるからして、まぎれもなく反安倍である僕は、もちろん鳥越氏に一票を投じたけれども、まあ150万票あたりだろうと思っていた。そこにも行かないのは、ちょっと少なすぎるだろうが、最近は「勝ち馬に乗る」人が多いので、最後に小池に乗った人が多いのだろう。

 小池候補は当初「(都議会の)冒頭解散」などとずいぶん尖った主張をしていた。自民党都連を「敵視」し、自分をいじめられた被害者のようにイメージつけていた。ところが最後のころは「都民の知事」「女性知事」だのと、一般的な「改革」は言うけれど、都議会解散などは言わなくなっていった。これが「勝つサイン」だと僕は受け取った。一方、鳥越候補は最後のころになって「250キロ以内の原発廃炉」とか「島嶼部の消費税を5%に引き下げ」とか、とりあえずは都知事にできないことを主張し始めた。このような「途中で過激化する」するのが「負けるサイン」である。どんどん無党派に浸透し、人が寄ってくれば、勝った後のことを考えて主張が「当たり障りないもの」になってくる。一方、支持者が流出している状況では「支持者受け」する「ミウチ優先志向」になってくるのである。

 これは野党支持者がよくよく判っていないといけないことで、「自分たちは少数派」なのである。国民は首相の改憲志向や安保法制などに「怒っているはず」と考え、信じることをマジメに訴えれば都民の支持が得られるなどと考えていてはいけない。内閣支持率は今もなお5割を超え、参院選でも与党が勝利した。与党系が分裂しているから、野党が統一すれば「漁夫の利」が得られるなどという安易な発想では支持は増えていかなかった。野党支持者の中には、さまざまな市民運動に関わり、あれもこれもと要求する人たちがいる。だけど、はっきり野党支持の人ではない票も獲得していかないといけないのだから、選挙戦中に主張が先鋭化してはいけないのである。

 鳥越氏の都知事候補としての「準備不足」は明らかだった。当初は政策もまとまっていなかった。「がん検診受診率100%」などという都政の焦点とは言えないこと、さらにそれ自体に効果がよく判らないことを最初に掲げていた。今回は参院選とかぶる日程だったために、誰が出ても準備不足だったと思う。政党間の調整も不足し、政策協定もなかった。それはある程度は「やむを得ないこと」だと思う。というか、この日程で選挙をやるように追い込んだのが、そもそも野党の大きなミスである。

 鳥越氏は候補としては一番高齢で、かつ広く知られたがんの闘病生活を経験していた。選挙戦の最初のころは、演説も一日一回だったと伝えられる。今回当選すると、五輪直前に任期切れだから、事実上2期務められる人が今回の知事の条件である。そのことを考えると、多くの人はやはり「大丈夫か」と思ったのではないか。一方、小池氏はどんどん演説をこなし、都民への露出が多かった。それをテレビも伝え、イメージ選挙として有利だった。そこで序盤戦の情勢報道で「小池優勢」と出た。これが決め手で、保守分裂なのに最初に鳥越一位にならなかったことに尽きると思う。

 その後、週刊誌に「女性問題報道」があり、さらに失速したのは間違いない。無党派女性票が鳥越から小池に集中したということだと思う。僕は週刊誌を読んでないが、事実かどうかの問題はさておき、やはり週刊誌の見出しの付け方などは「選挙妨害」的だったのは確かだと思う。こういう事態をみると、よほど鳥越知事を恐れる勢力があるんだと思った。鳥越というか、首都で共産党が与党第一党になることは認めないという強い意志を感じる。それはともかく、アメリカのビル・クリントンなどはセックススキャンダルを起こしながら、大統領に再選されたし、今もなお大きな人気を誇っている。それは「ネアカ」な演説上手で、とても親密なムードを醸し出す「人柄」が大きいといわれている。結局、スキャンダルをものともしない大衆的な人気と信頼に欠けていたということになるか。

 こうなってくると、2回の知事選に出た経験があり、支持組織をそのまま残して政策提言を続けている宇都宮健児を候補にすればよかったのではないかという声も出てくる。「政策」が何よりも大切だと主張する「マジメな市民派」のような人に多い。そうなのだろうか。宇都宮氏が出た場合、確かに「オルタナティヴな政策」(既存の保守政治に対する対抗的な代替政策)が提示され、政策的な論争が活発化したかもしれない。だけど、選挙戦中にテレビ討論などしない国で、有権者人口1100万人を超える地方でどれだけ浸透しただろう。というより、都民の多くは「人にやさしい」都政を本当に望んでいるのだろうか。2回の選挙をして判ったことは、宇都宮氏では「オルタナティヴ自覚票」しか集まらないということではないのだろうか。

 宇都宮氏は出馬は止めても鳥越応援には入らなかった。最終盤で協議が行われたようだが、鳥越氏の「女性問題への対応」がネックになったと言われている。鳥越氏の対応にも疑問はないではないが、宇都宮氏も「清濁併せ呑む」豪快な対応ができないということである。「清」だけでは日本の選挙には勝てないと僕は思う。宇都宮氏は2012年の知事選で猪瀬氏に惨敗した。僕は貧困問題に長年取り組んできた宇都宮健児という人を高く評価していたので、ずいぶんと支援したのだが、案外票が出ないのに驚いた。その頃に宇都宮氏の本もずいぶん読んだけど、苦学した自己を語るときは興味深いけど、肝心の貧困問題などの部分は法廷文書みたいで全然面白くないのである。やはり「優等生」なのかという感じである。「マジメ」人がいっぱい、宇都宮氏ならばもっと取れたと言うと思うけど、そういうもんじゃないだろう。事前のテレビ討論で、増田氏は宇都宮氏を「日本のサンダース」だと持ち上げていたが、方向は似ているかもしれないが、支持者を熱狂させるカリスマ性においては遠く及ばないということだと思う。

 鳥越、宇都宮でもダメなんだから、古賀茂明や石田純一でもダメである。小池百合子が先行しているんだから、小池に並ぶほど知名度と信頼感のある女性候補しかないのである。そういう人はほとんどいない。蓮舫はその一人だが、さすがに参院選に近すぎたし、本人は民進党代表選の方に意欲的らしい。年度途中で急に選挙をしても、大学教授や芸能人は出にくい。やはり政界から出るのが一番早いが、野党系の方こそ女性政治家が育っていない。

 だけど、そもそも今選挙をするのが間違っている。五輪をやらないという候補はいないんだから、2020年五輪最中に任期切れになる知事では困るだろ。舛添前知事の政治資金問題の追及も中途半端である。参院選を前に、知事不信任案を出した野党第一党の共産党、それに同調した民進党の責任は大きい。こんなのは、五輪を理由に舛添進退は「9月都議会に先送り」して、舛添にはリオで旗を受け取る花道を用意して、秋に都知事選をやるようにすれば良かったのである。舛添問題は参院選で自公批判に利用できるのに、早く辞めさせてしまったのは戦略ミスだろう。

 だけど、今回勝ってどうするんだとずっと思っていた。五輪はやるわけだから、五輪をめぐって安倍や森といった人たちと五輪開催費用を協議しなくてはいけない。そんな仕事、誰がやりたいか。何度都議選をしても自民が勝つに決まっている。(今回も都議補選が4地区であったけれど、すべてで自民党公認候補が勝利した。)少数与党で予算も通らず、最後は中央政府と組織委に屈服するしかない。間違ってリベラル系知事が当選しても、屈服と妥協、裏切りと分裂というドラマをまた見るだけではないのか。またというのは、民主党政権に続いてということである。そうではなく、新知事が信条を貫けば、不信任案で辞めさせられるだけである。2003年の徳島県知事選で敗れた大田正知事のようなケースが待っている。

 僕が思うに、東京五輪の費用は、今後どう精査しようが大幅に増えるのは間違いない。それが2020年以後の都政の大きな負担になり、福祉や教育にも響いてくる。そんな問題を引き受けるのは、五輪言い出しっぺの人々にやらせればいい。そうでないと、2020年の熱狂が過ぎた後の、突きつけられた現実を一緒に背負って責任を取らなければならなくなる。今回は勝たなくてもいいと思って、演説も聞きに行ったりしなかった理由である。
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1 コメント

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はじめまして… (戌亥)
2016-08-03 20:06:12
>「自分たちは少数派」なのである。国民は首相の改憲志向や安保法制などに「怒っているはず」と考え

たしかにそうですね。
例えば、安保法政…世論調査なんかすると反対世論が6割こえるてるわけですけど。思想のベクトルがかなり先鋭化されてる人はこれをもって自分は主流派だと考える過ちをしますが…
実際こんな二元論みたいな分けかたはおおざっぱすぎて、実際は反対のなかにもかなりの温度差がありますからね

極端な反対派が、憲法解釈だけでやるのは危険だから反対だが手続きにのっとって目指すなら吝かでないとか、聞かれれば反対と答えるけど選挙などになれば判断材料の優先順位はかぎりなく低いという人に先鋭化した価値観で反対運動しても響かないですからね


民進党なんかは、右から左までそろってますから、鳥越氏の選挙戦みて頭かかえた人もいるんじゃないですかね
都知事選敗退で内輪もめみたいになってるし



小池氏は渡り鳥だのコウモリだの揶揄されるけど…凄まじい勝負師でありますね。
そのときの情勢を読んで誰につくか自分の選挙生命をチップにして勝負に出る。くぐった修羅場の数が違ったというべきか

まさに現代の表裏比興の者


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