ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トランプがエルサレムを首都と認め、米大使館を移転へ

2017-12-08 10:23:42 | 国際関係
 12月6日トランプ米大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある米大使館の移転手続きを開始するよう国務省に指示したと正式発表しました。昨年の大統領選挙で公約していたことを実行に移すものです。
http://www.sankei.com/wor…/news/171207/wor1712070014-n1.html

 いよいよという感じですが、本年1月元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、本件について強い懸念を表明しています。
 「仮に米国が大使館をエルサレムに移転すれば、東エルサレムがイスラエル領であると承認する効果を持つ。これに反発してパレスチナの過激派がイスラエルに対して武装攻撃を行うことは必至だ。また、国内にパレスチナ人を多く抱えるヨルダンの政情が不安定になる。ヨルダンの王制が崩壊して、その空白を「イスラム国」(IS)のような過激派が埋める危険がある。さらに、アラブ諸国の対米関係、対イスラエル関係が急速に悪化する。米国大使館のエルサレムへの移転をきっかけに第5次中東戦争が勃発するかもしれない」と。
 詳しくは、当時ブログに書きました。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/dec1d7ee374ad0009a23a9c486f6f92f

 産経新聞12月6日付の黒瀬悦成記者の記事は、次のように書いています。
 「トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、大使館をテルアビブから移転することを決めたのは、昨年の大統領選での公約でもあった一連の措置を順守することで、自身の支持基盤である親イスラエル系の保守勢力やキリスト教福音派をつなぎ留めるという国内向けの政治判断の側面が強い。
 在イスラエル大使館の移転はクリントン政権下の1995年に制定された米国内法で義務付けられているものの、歴代大統領はこれまで、中東の安全保障への影響に配慮して半年ごとに移転の判断を先延ばしする大統領令に署名してきた。
 トランプ氏も今年6月、同氏の娘婿、クシュナー大統領上級顧問が取り組んでいる中東和平交渉を軌道に乗せるため、『移転の先延ばし』を一度は表明。しかし、これに対して福音派の支持層などの間で失望が広がり、その後は移転実施に急速に傾斜していた」
http://www.sankei.com/world/news/171206/wor1712060038-n1.html

 私は、アメリカとイスラエルの関係をアメリカ=イスラエル連合と呼んでいます。1960年代以降、ユダヤ・ロビーの働きかけにより、アメリカ=イスラエル連合は強化されてきました。トランプ政権は、歴代政権の中で最もこの連合が強力になっていると思います。米国内では、ユダヤ系米国人によってだけでなく、キリスト教徒の中でイスラエルは守るべき特別の国という考えが強くなっており、政治・外交に強い影響を与えています。
 黒瀬記者が記事中で触れている米国の福音派はエヴァンジェリカルの訳で、もともとはプロテスタントの主流派(メインライン)に対抗する新興の反主流派でした。だが、近年、主流派を信徒数で上回り、2014年の米国の民間の調査機関であるピュー・リサーチ・センター(PRC)の調査では、回答者の25.4%を占めました。福音派には、南部バプテスト、アッセンブリーズ・オブ・ガッド、チャーチズ・オブ・クライスト、ルター派ミズーリ教会会議、アメリカ長老派等の新しい教派などが含まれます。主流派はリベラルの傾向が強いのに対し、福音派は保守の傾向が強く、その信徒の間では、政党は「共和党か共和党寄り」が56%、政治思想は「保守」が55%を占めます。進化論を否定する人が多いなど、原理主義的な傾向も見られます。
 ユダヤ系米国人は、特に保守的な福音派プロテスタントとの連携を深めて、共和党を中心に米国政界に働き掛け、アメリカ=イスラエル連合を強固なものにしてきました。連合の強化は、イスラエルにとっては安全保障の強化になります。
 トランプは、キリスト教右派の支持を得て大統領になっており、長女イヴァンカの夫クシュナーを通じて、国際的なユダヤ社会の巨大な後ろ盾を支えにしていると見られます。今回のエルサレムの首都認定と、米国大使館の同市への移転の決定は、彼らへの期待に応えることで、政権への支持を固めたいという狙いがあるのでしょう。トランプ政権は、米国民の支持率40%前後という戦後歴代政権で最低の状態にあり、政権中枢の高官の辞任・更迭が相次ぎ、さらに選挙期間中のロシアとの関係が疑われるなど、危機的な状況にあります。そうした中で、最もコアな支持者集団の支持を固めるため、歴代政権が保留にしてきたエルサレムの首都認定と同市への大使館移転を実行するという手段に出たと考えられます。これは非常に危険な選択です。中東及び世界への影響は甚大なものとなるでしょう。

 以下、今回のトランプ大統領の発表に関して報道された各国、各勢力の反応をまとめておきます。

●中東の反応

 中東各国で反米感情が高まることは不可避。米国の中東政策が「公正でない」との印象が広まれば米国の影響力が低下し、イスラーム過激派の跋扈やイランとサウジアラビアの対立関係などで流動化している中東情勢はいっそう不安定化すると見られます。
 トルコのエルドアン大統領は「エルサレムはレッドライン(越えてはならない一線)だ」としてイスラエルとの断交を示唆しました。
 中東での米国の最重要同盟国サウジアラビアは、トランプに自制を求めており、今後の対米関係に影響が及ぶのは確実と見られます。
 パレスチナ側は12月6日から8日までを「怒りの3日間」と銘打って抗議行動を展開。大規模衝突に発展する可能性もあると見られます。
 国際テロ組織アルカーイダ系の「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)は、トランプを批判する声明を出しました。

●欧州の反応

 欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は、「紛争の唯一の現実的な解決策はイスラエルとパレスチナの2国家共存であり、エルサレムを双方の首都とすることだ」と強調。エルサレムの最終的な地位は交渉を通じて解決されるべきだとし、EUとしてそのための支援をしていく考えを強調。地域の当事者には状況の悪化を避けるため、「冷静で抑制的」な対応を求めました。 
 メイ英首相は、「和平に取り組もうとするトランプ氏の思いに対しては賛同する」が、今回の決定は「地域平和という観点からは役立たない」と述べ、「エルサレムはイスラエルとパレスチナの交渉によって決められるべきだ」と指摘しました。在イスラエル英大使館について、「テルアビブから(エルサレムに)移す予定はない」と語ったと伝えられます。
 マクロン仏大統領は、「残念な決定だ。フランスは認めない」と批判し、トランプの決定は「国際法や国連安全保障理事会決議に反する」と指摘しました。エルサレムの地位はイスラエル、パレスチナ間の交渉で決めるべきだという立場を改めて示し、「なんとしても暴力は避けるべきだ。対話が大事だ」と述べ、パレスチナ、イスラエルの双方に衝突回避を呼びかけました。
 メルケル独首相は、「独政府はこの振る舞いを支持しない」と報道官のツイッターを通じ強調しました。

●我が国政府の立場

 菅義偉官房長官は、トランプの発表について、「発表内容や米国の今後の対応について精査・分析をしている。大きな関心を持って注視しており、米国を含む関係国と緊密に連携を取りながら対応したい」「わが国は(イスラエル、パレスチナ間の紛争の)2国家解決を支持している。エルサレムの最終的地位の問題も含め、当事者間の交渉で解決されるべきだという立場はかわらない」と述べました。