ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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ユダヤ125~イスラエルとユダヤ人

2017-11-12 09:25:39 | ユダヤ的価値観
 本稿「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」は、今回から第5部「ユダヤ人の現在から将来への展望」に入る。

●今日のイスラエル~人口と宗教

 本章では、ユダヤ人の現在から将来への展望について書く。初めに、イスラエル、続いてアメリカ、その後、世界の中のユダヤ人について記す。
 イスラエルは、中東の地中海に面した場所にあり、統治する面積は、わが国の四国ほどの広さである。この土地に約852万人(2016年5月現在、イスラエル中央統計局)の国民が居住している。そのうち、約636万人がユダヤ人である。それ以外にその人口の約1.4倍のユダヤ人が、世界各地のイスラエル以外の国に居住している。彼らはユダヤ教徒であると同時に、所属国の国民として生活し、行動している。イスラエルは、毎年かなりの勢いで、人口が増え続けている。もともと伝統的なユダヤ教徒は避妊を行わず子だくさんであることと、海外からの移住者が多いこととの両方によっている。イスラエルは、1950年に帰還法を制定して、海外のユダヤ人がイスラエルへの移住を希望すれば、ただちにイスラエル市民権を与えると約束した。これは、ユダヤ人の祖国としてイスラエルを建設したシオニズムの理念に基づく決定だった。また同時に民族と宗教の関係は不可分とするユダヤ教の伝統的教義に基づく決定だった。さらに1970年の帰還法改正で、祖父母のうち一人がユダヤ人なら誰でも海外からイスラエルに移住できると定めた。同時に当該人物の配偶者や子供は、キリスト教徒等であっても、イスラエル移住の権利があるとした。
 人口の74.8%はユダヤ人であり、ユダヤ教徒である。イスラエルのユダヤ教では、正統派と超正統派が絶大な権力を振るっている。会堂の98%は、正統派・超正統派である。だが、ユダヤ教は国教ではない。イスラエルは、近代国民国家として、政教分離をたてまえとしている。イスラエル国民の25.2%、つまり約4分の1はユダヤ人ではない。残りの大部分はアラブ人で、これが約20%を占める。その他が約5%で、多くは旧ソ連出身の非ユダヤ人である。出身国は90か国以上に上り、さまざまな肌の人間が住む典型的なモザイク社会となっている。また、ユダヤ教を信奉する者はユダヤ人とされるから、ユダヤ教徒には様々な人種・民族がいる。それゆえ、ユダヤ人に共通する人種的な特徴、体形や皮膚の色はない。
 ユダヤ人以外のイスラエル国民の大部分は、アラブ人である。その多くはイスラエル建国の際に、イスラエル領内に残留し市民権を得た者の子孫である。残留せずに領外に出た者は、パレスチナ難民となった。アラブ系のイスラエル国民の80%強は、イスラーム教徒である。またキリスト教徒やドルーズ派等もいる。2012年現在、イスラエルの宗教別人口は、ユダヤ教徒が75.1%、イスラーム教徒17.3%、キリスト教徒1.9%、ドルーズ教徒1.6%とされる(ユダヤ中央統計局)。ユダヤ教の超正統派を除くと、イスラエルで最も出生率の高いのは、アラブ人である。そのため、将来的には非ユダヤ人の割合が高まることが予想されている。
 イスラエルはシオニズムによって建国された国家である。だが、上記のように、シオニズムが生み出した国家なのに、国民はユダヤ教徒だけではなく、ユダヤ人だけでもない。そういう矛盾を抱えている国家が、イスラエルなのである。そのため、民族と宗教の関係は不可分とするユダヤ教の伝統的な教義は、国家と宗教の間に複雑な問題を生み出している。矛盾は明らかながら、ユダヤ教の宗教法はイスラエルの市民生活を規制している。そのため、国民生活に宗教法を強制的に適用することには、多数の国民が反発している。
 宗教だけでなく政治思想も一様ではない。国民には、自由主義者もいれば、社会主義者もいる。右翼政党連合のリクード、左翼の労働党の他、少数党がいくつもある。アラブ諸国との対決を主張する勢力もあれば、和平共存を願う勢力もある。こういう複雑な事情を抱えているのが、今日のイスラエルである。
 とはいえ、国民の大多数はユダヤ人で、また正統派及び超正統派が権力を振るっているから、他の多くの民主主義国より国民の統合はしっかり行われている。それが、イスラエルの国民国家としての強さである。
 イスラエルは、ロスチャイルド家をはじめとするユダヤ系の巨大国際金融資本家の支援を受けていると見られる。アメリカもほかの国には与えていない優遇措置をしている。そして、国外から資金を提供したり、経済的に支援する者は、その意思をイスラエルの政治に及ぼしていると推測される。
 現代国家では、強い経済力を持つ集団が政治を実質的に支配し、世論を操作する。デモクラシー(democracy)と見えるものの実態は、プルータクラシー(plutocracy)ともいうべき富の力による政治になっている。デモクラシーは「民衆参政制度」「民衆参加政治」、プルータクラシーは「財閥支配政治」「金権政治」などと訳すことが可能である。多くの自由民主主義国の政治体制は、デモクラティック・プルータクラシー、すなわち民衆参加型の財閥支配政治と呼ぶことができるだろう。イスラエルもアメリカもそうであり、アメリカ=イスラエル連合は、国際的なデモクラティック・プルータクラシーの連合体と見ることができよう。

 次回に続く。