ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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ユダヤ124~トランプ政権の人事とユダヤ人社会の関係

2017-11-10 09:26:52 | ユダヤ的価値観
●トランプ政権の人事とユダヤ人社会の関係

 トランプ大統領は政界の異端児であり、政治経験のない独裁者タイプである。こうした人物が強大な権限を持つ大統領になったため、側近にどういう人材が集まり、主要閣僚にどういう人材が就くかが非常に重要である。周りをしっかりした人間が固めて、外交・安全保障・経済等について進言したり、実務を執ったりしないと、トランプはあちこちで暴走すると見られた。
 閣僚人事で注目されたのは、まずトランプが、選挙対策本部の最高責任者を務めたスティーブ・バノンを首席戦略官・上級顧問に指名したことである。トランプはバノンに首席補佐官と同等という高い地位を与えた。このことは、トランプ政権において、バノンの考え方や戦略が大きな影響力を持つだろうことと予想された。
 バノンは元海軍将校で、退役後、ゴールドマン・サックスで投資銀行業務を行った経験があり、クリントン財団の内情をよく知っており、同財団の問題を調べ、それをヒラリー攻撃に用いた。バノンは、オンライン・ニュースサイト、「ブライトバート・ニュース」の会長で、同サイトを強硬派のポピュリズム的なニュースサイトに育て、白人至上主義者とオルト右翼(いわゆるネット右翼の総称)に人気の情報源にすることに成功した。
 私が注目したのは、彼が反ユダヤ主義者として非難されてきたことである。米国ではユダヤ・ロビーが大きな力を持ち、政権に強い影響力を振るっている。そうした中で、反ユダヤ主義者との批判のあるバノンが、政権の幹部になるということは、ユダヤ人に対する態度を改めたのか。もし変えていないとすれば、彼を指名したトランプとユダヤ人社会との間で衝突が起こるのではないかと考えられた。トランプがバノンを政権の指導的な役職に指名したことを、ユダヤ名誉毀損防止同盟(ADL)は非難した。ADL幹部のジョナサン・グリーンブラットは、バノンが指名を受けた日を「悲しみの日」と呼んだ。
 私は、おそらくバノンは選挙対策本部の仕切り役に就く段階で、親ユダヤに転換したのだろうと推測した。彼の主敵はヒラリーであり、民主党及び共和党主流派だから、反ユダヤ主義は止めるという戦略的判断をしたのだろうと思われた。今の米国ではユダヤ人社会から敵視されると、選挙で勝てない。
 ここで考えられたのが、トランプの長女イヴァンカとその夫でユダヤ教徒のジャレッド・クシュナーが、トランプ、バノン、ユダヤ人社会の間の調整役をしているだろうことである。イヴァンカは父と同じペンシルバニア大学を首席で卒業した才色兼備の実業家である。長老派のキリスト教徒として育てられたが、ユダヤ人のジャレッドと結婚するに先立って、異宗婚を避けるためにユダヤ教に改宗し、ヤエルというユダヤ名を選んだ。シナゴーグを訪れた際は、ユダヤ教への篤い信仰とイスラエルへの熱烈な支持を発言しているという。
 夫の父チャールズ・クシュナーは、ニューヨークのユダヤ人社会の元締の正統派ユダヤ教徒の実力者。ジャレッドは父から継いだ不動産開発大手クシュナー社の代表で、ドナルド・トランプとは父の代から同業者として知り合いだった。地元週刊紙ニューヨーク・オブザーバーを買収した所有者であることでも知られる。
 ジャレッドは、トランプの大統領選キャンペーンで政策アドヴァイザーを務めた。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の人脈につながるとされる。キッシンジャーは、ロスチャイルド家とロックフェラー家の両方と深い関係を持つ。ジャレッドはトランプとイスラエルの要人とのつなぎ役も果たし、2016年9月トランプがイスラエルのネタニヤフ首相とトランプタワーで会談した際には傍らにいた。現職の首相が大統領選挙中の候補者と、その本拠地に出向いて会うのだから、イスラエル側がトランプを重視していたことがわかる。
 「G0(ゼロ)」論で知られる政治学者イアン・ブレマーは、ジャレッドを「新政権のキーパーソン」と見ている。マイク・ペンス(現副大統領)を責任者とする政権移行チームでも、ジャレッドは閣僚人事に参画し、発言力を振るった。
 新政権はトランプの一族や忠臣のグループと、共和党主流派の力関係のせめぎ合いの場となった。また、共和党・民主党の両党を背後から管理する所有者集団は、大衆が選んだトランプを自分たちの意思に従って動く政治家とし、その意思に沿った政策をさせようとするだろう。しょせんトランプは、ロスチャイルド家やロックフェラー家等に比べれば、成り上がりの中小クラスの富豪にすぎない。ただし、大統領はただの操り人形ではなく、自分の意思を持ち、またそれを実現する合法的な権限を持っているから、トランプのような独裁者型の人物の場合、自分の意思を強く打ち出し、所有者集団と衝突が起こるのではないかと思われた。その時の重要点の一つが、彼及び彼の側近の欧米のユダヤ系巨大国際金融資本家との関係となるだろうと予想された。
 発足後のトランプ政権は、内政・外交とも不調が続き、混迷の相を呈している。就任半年後の時点でワシントン・ポスト紙とABCテレビが共同実施した世論調査の結果によると、トランプ大統領の支持率は36%だった。就任後半年の支持率としては、第2次大戦後の歴代大統領の中で「最低」とABCは断じた。不支持率は58%だった。
 混迷の原因の一つは、独裁的な大統領のもと、政権中枢が安定していないことである。政権発足以来、フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、スパイサー前大統領報道官など辞任・解任が相次ぎ、閣僚中のナンバーワンであるプリーバス大統領首席補佐官も更迭された。そして、トランプ政権の焦点となっていたバノン首席戦略官・上級顧問も事実上の解任となった。
 政権中枢が不安定なだけではない。米政府で高官とされる役職は570あるといわれるが、トランプ政権では発足後10カ月以上もたって、まだ50程度しか決まっていないと伝えられた。10分の1程度である。個々の政務の実務責任者が不在のため、外交、雇用、保険等の政策が進まない状態である。
 こうした中で一層存在感を増しているのが、ジャレッド・クシュナーである。長女イバンカ補佐官(無給)の夫として大統領の絶大な信頼を得ている。まだ30歳台半ばであり、政治経験もないかった若者が、政権の人事や方針の決定に関わっているのは、異常である。トランプ王朝の王子のような存在だが、保守的なユダヤ教徒であり、背後にイスラエルと結託して米国政界に強大な影響力を持つユダヤ・ロビーが存在し、クシュナーはそのパイプとなっていると考えられる。クシュナー派には、ともに金融大手ゴールドマン・サックス出身のコーン国家経済会議(NEC)委員長とパウエル国家安全保障担当副補佐官が連なるとされる。

●今後のアメリカの政権

 私は、平成21年(2009)5月に掲示した拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」に、次のように書いた。
 「オバマ大統領は、『Change(変革)』をスローガンに掲げ、共和党に替わって、民主党による新たな政権を樹立した。しかし、(略)アメリカの二大政党の後には、巨大国際金融資本が存在する。私は、オバマもまたアメリカの歴代大統領と同様、アメリカ及び西欧の所有者集団の意思に妥協・融和せざるをえないだろうと予想する。
 オバマにせよ、今後のアメリカの大統領にせよ、アメリカを『Change(変革)』しようとするならば、その挑戦はアメリカの政治構造の変革へと進まざるを得ない。そして、もし本気で挑戦しようとすれば、ケネディ大統領暗殺事件から9・11に至る多くの事件の真相を究明することなくして、変革を成し遂げることはできないだろう。とりわけ9・11の真相究明が重要である」と。
 オバマ政権は、私の予想通り、本気でアメリカの政治構造の深層まで変革する取り組みをしなかった。そのため、現実的な政策面でも、十分な変革を成し遂げることが出来なかったのである。
 トランプの背後にも、共和党と民主党の後で、これら両政党を実質的にコントロールしている巨大国際金融資本が存在する。トランプもまた彼らアメリカ及び西欧の所有者集団の意思に妥協・融和せざるをえなくなる可能性が高い。そして、トランプにせよ、また今後の大統領にせよ、アメリカの政治構造の深層からの変革に挑むことなくして。アメリカを再び偉大な国として復活させることはできないだろう。それは、すなわち、アメリカは長期的な衰退の道を歩み続けることを意味する。

 次回に続く。