ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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中国漁船団に海上民兵が100名以上乗りこんでいた

2016-08-28 08:53:35 | 国際関係
 8月上旬、尖閣諸島周辺の海域に、中国公船20隻以上とともに400隻以上の中国漁船が押し寄せた。その漁船団には、軍事訓練を受けた海上民兵が、少なくとも100名以上乗り込んでいたことが判明した。民兵の大半は、船長などとして漁船を指揮し、公船などと連携を取りながら統一行動をする。漁民を束ねるとともに、周辺海域での情報収集などの任務を担っているとみられる。漁民には政府から、燃料の補助や十数万~約300万円の手当が出ているという。一連の行動は、中国当局が計画的に実行したもので、「海の人民戦争」と称していると伝えられる。
 以下、産経新聞のスクープ記事を掲載する。

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●産経新聞 平成28年8月16日

http://www.sankei.com/world/news/160816/wor1608160038-n1.html
2016.8.16 20:39更新
【緊迫・東シナ海】
「海の人民戦争だ」中国漁船に潜む海上民兵の実態は…政府から手当ても

 【福建省泉州市(中国東南部)=矢板明夫】 尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の海域に8月、中国公船20隻以上とともに押し寄せた400隻以上の中国漁船に、訓練を受けた多数の海上民兵が乗り込んでいることが分かった。複数の中国漁業関係者が明らかにした。一連の行動は、中国当局が尖閣諸島の主権をアピールするため計画的に実行。海上民兵は、他の漁民を束ねるとともに、周辺海域の地理的状況や日本側の巡回態勢に関する情報収集などの任務を担っているという。
 福建省の漁業関係者によれば、8月上旬に尖閣周辺に集まった漁船には少なくとも100人以上の海上民兵が乗り込み、大半が船長など船を指揮できる立場にいる。彼らの船には中国独自の衛星測位システムが設置され、海警局の公船などと連携を取りながら前進、停泊、撤退などの統一行動をとる。帰国後は政府から燃料の補助や、船の大きさと航行距離、貢献の度合いに応じて数万~十数万元(十数万~約300万円)の手当てがもらえるという。
 地元の漁民によれば、福建省や浙江省の港から尖閣近くに向かうには約20時間かかり、大量の燃料を使う。また、日本の海上保安庁の船に「作業を妨害される」こともあるため、通常は敬遠する漁民が多いという。
 しかし、今年の夏期休漁期間中の7月、複数の漁船は当局から「(漁が始まる)8月に釣魚島(尖閣諸島の中国名)に行くように」と指示されたといい、その際、海警局の護衛がつくことを示唆されたという。
 中国当局は今回の行動のために海上民兵を動員し訓練を重ねたとされ、福建省石獅市では7月下旬、160人の海上民兵が同市にある大学、泉州海洋学院で軍事訓練を受けた。浙江省でも同様の訓練を実施。海上民兵に日本への憎しみを植え付けるため、「南京大虐殺」や「甲午大海戦」(日清戦争の黄海海戦)といった映画を思想教育の一環として鑑賞させたという。
 常万全国防相も出発前の7月末、浙江省の海上民兵の部隊を視察し「海上における動員準備をしっかりせよ。海の人民戦争の威力を十分に発揮せよ」などと激励した。
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 中国で「民兵」とは、退役軍人などで構成される準軍事組織で、警戒や軍の物資輸送、国境防衛、治安維持などの役割を担う。このうち漁民や港湾労働者らなど海事関係者が組織するのが海上民兵といわれる。
 中国の民兵は、改革開放当初の1970年代末は3千万人いたのが、2011年には800万人まで減少した。しかし、海上民兵だけは重要視され増強される傾向にあり、中国の軍事専門家によれば、現在は総勢約30万人の海上民兵が存在するという。
 海上民兵が近年、一層重視されるようになったのは、2013年4月、中国の習近平国家主席が海南島の海上民兵部隊を視察して激励したのが契機とされる。その後、南シナ海に武装した海上民兵部隊が出現。東シナ海に面する福建省と浙江省でも同様の準備が進められている。
 毛沢東時代の海上民兵の主な仮想敵は台湾だったが、近年は東、南シナ海での緊張の高まりとともに、仮想敵は東南アジア諸国と日本になったという。
 地元紙によると、浙江省の海上民兵、漁船船長の徐文波氏が今年2月、地元の軍区から「重大な海上軍事任務を完遂した」として「二等功」を授与され、表彰された。具体的な任務は伏せられたが、記事には「約20時間も航海した」との記述があり、距離からして尖閣諸島周辺での任務を実行した可能性もある。
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 海上民兵については、中国による尖閣諸島略取の先兵になるものと考えられる。平成24年6月10日の拙稿に次のように書いた。産経新聞平成24年5月9日号は、陸海空3自衛隊が昨年11月の統合演習で、沖縄・尖閣諸島が中国に占領されたと想定し、詳細な奪還作戦を策定していたと報じた。奪還作戦のシナリオによると、中国側は漁民を装った「海上民兵」が尖閣に不法上陸する。これをきっかけに中国海軍が尖閣周辺海域に艦艇を派遣し、水陸両用・空挺部隊が展開する。戦闘機も九州周辺の日本領空にも波状的に侵入する。これに対し、自衛隊は、陸自部隊の統合輸送・機動展開、防空作戦、対艦攻撃、自衛隊と米軍の施設防護、尖閣での着上陸作戦の5つの作戦で応戦するという。
 本年8月上旬、尖閣諸島周辺海域に、中国公船20隻以上に守られた400隻以上の漁船が押し寄せた際、その漁船に100人以上の海上民兵が乗り込んでいたということは、尖閣占領のための情報収集、行動訓練とも考えられる。

 ところで、中国の公船・漁船の活動が活発になっている背景には、中国の最高人民法院(最高裁に当たる)が中国の「管轄海域」で違法漁労や領海侵入をした場合に刑事責任を追及できるとする「規定」を定め、8月2日に施行されたことがあると見られる。最高人民法院は今年3月の全国人民代表大会で、尖閣諸島近海での「司法管轄権」の明確化を主張し、「海事司法センター」創設を宣言した。中国側は尖閣を含む日本領海内での法執行を正当化する国内根拠を積み重ねており、今回の規定の施行となった。
 中国は、日本の固有の領土である尖閣諸島を自国領域と主張している。大陸棚についても沖縄トラフを含むとしている。今回の規定で、中国の国内法では、尖閣を含む日本側の領域で日本人漁師などを中国側公船が摘発することを正当化した。今後、わが国の領海で日本船が中国によって拿捕・拘束される事態を警戒し、早急に対抗策を打たなければならない。わが国がこの中国側の無法なやり方を前に自主規制を行えば、事実上、尖閣諸島周辺海域は中国の実効支配下に置かれることになる。絶対避けねばならない事態である。

 平成26年11月17日の拙稿に書いたことを、以下に繰り返す。
 中国は、太平洋西部で海洋覇権を確立しようとしている。第一列島線・第二列島線という概念を用いて、対米戦力展開の目標ラインを構築しようとしている。第一列島線は、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるライン。第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。中国海軍は、第二列島線を2020年までに完成させ、2040~2050年までに西太平洋、インド洋で米海軍に対抗できる海軍を建設する計画を進めている。
 わが国は、戦略的な観点から、尖閣諸島周辺海域に海上警備行動を発令すべき時にある。海上警備行動は、海保だけで対応できない場合に、自衛隊が出動して海上での人命・財産保護や治安維持に当たるものである。過去に3度発令されたことがある。海保と海自が機動的に連携して、日本の海を守り、同時に太平洋の平和維持に貢献する体制を整えるべきである。そして、尖閣・沖縄を含む西南の守りを、しっかり固めていかなければならない。

関連掲示
・拙稿「尖閣:自衛隊による奪還作戦」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/15d5c5de47e267077c1dc9663f58e3ac
・拙稿「沖縄に辺野古反対派知事。国民は西南の守りを固めよう」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/s/%E6%B5%B7%E4%B8%8A%E6%B0%91%E5%85%B5