美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

スッパについて情報を追加する(南方熊楠)

2024年03月06日 | 瓶詰の古本

足利時代に、田舎者に有らぬ物を売付る杜騙をスツパと云つたらしいと三巻七号(七一ニ頁)に述置いた処、甲陽軍鑑丗九品に、「家康は味方が原合戦に負けて、其夜又夜合戦に出づべき支度を専らしたるに、家老の酒井左衛門尉、石川伯耆両人スツパを出し見せつれば、当方脇備を先へくり、跡備を脇へ繰廻し云々、二度めの軍もちたるを見て夜軍に出さず候」。又同書五織田勢甲州へ討入た時、阿部加賀守「我等同心のスツパを以て敵の人数を見切候に爰かしこに陣を取り猥りに候へば」とて、川尻や瀧川の仁え夜討を勧めたが勝頼其策を用ひなんだと有る。是等は探偵をスツパと呼んだらしい。又安永元年板の龜友の赤烏帽子都氣質ニのニに、「偖此勇介と云は弁舌よく、人に取入る事の上手な愛のある男と見ゆれば、心の内は世事にすばしかきスツパ、近所の息子や手代の遊びに行く中店にて文の取次ぎ、色茶屋の払ひ銀を請取り渡してやる抔、親切にのら達の世話焼し故云々」是は悪才のきく者をスツパと云つたらしい。今も紀州抔で人を紿く事を何とも思はぬ者をスバクラ者といふは、是から出たのかと思ふ。

(『スツパに就て(再び)』 南方熊楠君)

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