年を重ね、体の部品が一つづつ摩耗し、錆が付き、ここ数日は自転車にも乗れていない。私の思い出の中で強く残っていることを書いておこうと思う。昨日、駅まで自転車に乗ることができないので歩いて行った。阪急の踏切を渡ると田植えが終わった水田が広がっている。水路でお父さんと小学生の女の子二人がザリガニを採っていた。そんな光景がなつかしく思わず声をかけてしまった。30数年前、娘二人と私もよくザリガニをとりに、田んぼによく出かけた。その広い田んぼも今はすっかり住宅地になってしまっている。ザリガニで鮮やかに私の脳裏に蘇ることがある。東淀川区(現在の大阪市淀川区)に長楽寺という寺があった。長楽寺は真言宗で弘法大師も訪れたといわれる由緒ある寺だが、昭和20年6月15日の大阪大空襲で大師堂も含め一切焼失して、墓地だけが残されていた。北方貨物線(現在山陽新幹線)の北の三津屋南通りにあり、私の家から5,6分の所であった。戦後この寺の土地を借りて田んぼをしている時期があった。父と母と祖母が田植えをしていた。私はその様子をぼんやりとみていたと思うが、祖母が私の所にザリガニを持ってきてくれた。金盥のザリガニは大きくそして卵を腹部にたくさん抱えた雌のザリガニであった。幼い私にはとてつもない大きさの赤銅色のザリガニであった。その日は私の記憶では晴れ、苗の緑と空を映した田んぼの水と祖母のやさしさとザリガニの色が強く私の心に焼き付いている。