久しぶりに映画館に行った. 山崎 勉、樹木希林主演の「モリのいる場所」。時間は流れているのだが、止まっているのか遅いのか、不思議な空気が流れ、プラネタリウムの中にいるような感覚。少年時代の自分が蘇ってきたのかもしれない。蝙蝠も雀も手のひらに包んだことがある。そのぬくもり。トカゲは学生服のポケットに入れて遊んだ。夏の早朝の蝉取り。メスのギンヤンマに糸をつけてオスを何匹も捕まえたこと。おなかにいっぱい卵をだいたザリガニ、大野川沿いのイナゴ、牛乳瓶で作ったアリの巣、みんな十三に住んでいた少年時代の思い出。洋画家熊谷守一は子供の心のままに自分の家の庭を日々好奇心を満たしてくれる宇宙としたのであろう。世の中に流されず、世の中の価値観にも惑わされず生きることのできた幸せ。黒沢明監督の映画「夢」の「水車のある村」で笠智衆が演ずる老人と山崎努と重なり、そして樹木希林は私の母と重なった。「ただ何回かふれましたが、私はほんとうに不心得ものです。気に入らぬことがいっぱいあっても、それにさからったり戦ったりはせずに、退け退けして生きてきたのです。ほんとうに消極的で、亡国民だと思ってももらえればまず間違いありません。私はだから、誰が相手にしてくれなくとも、石ころ一つとでも十分暮らせます。石ころをじっとながめているだけで、何日も何月も暮らせます。監獄にはいって、いちばん楽々と生きていける人間は、広い世の中で、この中の私かもしれません。」「へたも絵のうち」より。