書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

森部豊/石見清裕 「唐末沙陀『李克用墓誌』訳注・考察」

2012年10月22日 | 東洋史
 墓誌は李克用・その子李存勗の後唐君主二代に仕えた盧汝弼の手になるもの。李克用の字が翼聖であることを知る。いったいに中国の周辺民族が漢字や漢文化にある程度泥むと、わりあい簡単に“聖”の字を使う印象がある。遼の聖宗しかり、ベトナムの諸々の聖宗しかり。李克用の翼聖(聖人を翼(たす)ける)は、まだ自らを聖人になぞらえてはいないが、「聖宗」が廟号(つまり死後の追贈=他称)であるのに比べて自称である点、かえって凄い。
 なお沙陀族はもと沙陀部・朱邪部の連合体で、最初は沙陀部から首領を輩出していたが、ある時期、李克用の祖父の執儀(執宜)の代から朱邪部から出るようになったらしいという。墓誌における克用に至るまでの系譜上の人名がそれまで沙陀姓だったのが執儀から朱邪姓に変わることがその根拠になっている。

(『内陸アジア言語の研究』18, 2003.08, pp. 17-52)