鯖大師がある此の辺りは(徳島県海部郡海陽町)昔から八坂八浜と呼ばれ四国の札所を巡る遍路道の中で一番長く昔は大変な難所の厳しい道程でした。今から1200年も昔にお大師さんは厳しい坂の此の場所で一休みなさいました。其のとき「空海よ!」と誰かが呼ぶ声に声がした方に振り返ると雲間に合掌した行基菩薩が現れて「空海よ そなたは末永く人々を救いつくすであろうぞ」と言われたそうです。その時に背に重い荷物を積んだ馬が通り掛かったので お大師様は馬子に「御苦労じゃな、暫く馬を休ませなさい。」と声を掛けられましたが馬子は余計なお世話と手綱を引いて馬を急がせます。「お待ちな 馬は苦しいのじゃ暫く休ませるが良いぞ何を積んだのじゃ重そうじゃないか?」と尋ねると馬子は「塩鯖だよ坊さんには縁が無い物よ」とつっけんどんです。「縁が有る無しは別にして一匹だけ私に施してくれないか」と言いましたが馬子はそれを無視して無理やり馬を引きずり先へと進ませます。其の時、お大師様はすっくと立ち上がり「大さかや、八坂さか中、鯖一つ、大師にくれで、馬の腹やむ」と歌が聞こえて来ました。其の時に馬が急に横倒しに成りもがき苦しみだし見る見る内に馬のおなかが膨れ、もし馬が死んでしまうと塩鯖ぐるみ元も子も無くなるかも知れないと馬子は途方にくれました。
施しをせずに黙って通った事で罰が当たったかも知れないと思った馬子は一番小さい塩鯖を手にして引き返し「先程はどうも失礼しました どうぞ此の鯖をお受け下さい」と謝りながら差し出す塩鯖を足元に置いてお大師様は馬子に水を汲んで来る様に言い渡し其の水をお加持して「あやまりに気が付いて好かったな この水を馬に飲ませるがよい」と馬子に渡しました。さっそく馬子がもがいている馬に其の水を飲ませると不思議に馬はすくっと立ち上がりケロリとして居るのです。馬子は思わずお大師様に手を合わせました。するともう一度お大師さまが詠まれる「大さかや、八坂さか中、鯖一つ、大師にくれて、馬のや(止)む」歌の言葉は同じ様に聞こえますが「くれで(くれなくて)」と「くれて(くれたので)」と違って居ます。馬子が「わるう ございました。お許し下さい。」と心からわびると「人間の欲は果てが無い。其の欲を引締めなければ成らんのじゃ馬の手綱を引く様にな」とお大師さまは諭されて馬子を引き連れて一山越えた大砂の浜の法生島の浪打際に立たれて馬子の見ている前で手にした塩鯖を海に入れて加持祈祷をしました。するととっくの昔に死んだ筈の塩鯖が生き返りピンと背ビレを張って沖の方に泳いで行きました。
此の不思議に目を見張っていた馬子は其の場で馬子をやめお大師様に「どうぞ私を弟子にして下さい」と御願いして弟子に成りました。其の事からお大師さまと馬子の出会いの坂を「馬引き坂」と言い塩鯖に御加持した海辺を「鯖生」→「鯖瀬」と呼ぶ様に成ったと言われて居ます。
馬子は日毎に心を入替えて修行に励み立派なお弟子に成って行った或る日「此れで良かろう そちは今日から私から別れて、馬と一緒に私達が出会ったあの坂に帰るが良い」とお大師さまはこの様に言いつけました。馬子は最初はまごつきましたが師匠の言付けには何か深いお考えが有ると 此の様に悟って「はい お言付け通りにあの坂に参り此の馬と一緒に確り働いてお寺を御作り致します。あの坂は大変な難所なので其の道を通る人達に安らぎを与えるお寺を御作り致します。」もう馬子は立派なお大師さまの弟子に成って居たのです。「良くぞ引き受けてくれた。あの坂の松はただの松の木では無いのじゃ行基菩薩様がお植えに成った松、其の松の木陰で行基菩薩の夢を観て お言葉を頂戴したんじゃ其の地はみ仏の霊地なるぞょこれから此の道をみ仏のお慈悲を求める遍路の人達が永遠に絶える事無く此の霊地を通るであろう道中の最難所のあの坂にお寺を作る事はみ仏の為であり其のお慈悲をいただく皆の為なのじゃ」
お言葉を終えてお大師さまは自らお作りになった御本尊をお弟子の馬子にあたえて行基菩薩さまのお像と此の尊像を一緒にまつる様に言い渡されました。ご尊像を「馬引き坂」にお運びした馬子のお坊さんは小さな庵を作って行基菩薩さまとお像を一緒にまつり、お寺の名前を行基庵と名付けました。そして幸せな家作り幸せな社会の為にお大師さまの遍路の道を巡るお遍路さんを休ませ、励ます番外の札所として行基庵は拝まれて来ました。其の行基庵が現在の鯖大師本坊だそうです。私は仕事柄27年間に渡り此の通りを通過し時に良く休憩の場所として使用したりして鯖大師の存在は知って居ましたが其の寺の由来に関しては十分な知識は無く今回初めて知る事が出来ました。この街道は27年間に渡り何百回となく車で通り通りましたが1回の事故にも合わず行き来が出来たのはお大師さまの御蔭だと感謝して久し振りにこの寺に訪れました。帰りの本坊から国道に出た所に名物の鯖瀬大福を販売する店舗が有って此れ又久し振りに買って帰りました。