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2012年回顧■となりのひと Art about our neighbor (6月2日~8月26日、札幌)

2013年01月14日 22時39分27秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 ■告知の記事

 上のリンク先の記事でおおまかに紹介したとおり、従来の「北の彫刻展」に代わる新しい展覧会のシリーズ「New Eyes」。

 第1弾「となりのひと」の出品作家は、本郷新記念札幌彫刻美術館らしく、本郷新と、鴻上宏子、小林麻美、佐竹真紀、冨田哲司、野又圭司、村山由布の6氏。
 6氏のうち、いわゆる彫刻は2人だけ。野又圭司さんは立体だが、伝統的な彫刻とはかなり異なるタイプ。あとの3人は絵画、映像、インスタレーションで、この顔ぶれだけを見ても、これまでとは違うシリーズにしようという、美術館の意欲的な姿勢がうかがえる。

 野又さんはあいかわらず社会派である。
 しかも、作品サイズなどで妥協するということを、一切しない。
 トイレと裸電球しかない、同一の部屋が並ぶ集合住宅は、住宅というよりもむしろ独房の連なりを思わせる。
 その寒々しさは、地域共同体の崩壊に伴う、「となりのひとの不在」を、見る側に突きつける。

 佐竹さんの映像作品には、いつもハッとさせられる。
 今回、舞台になった家は、親族の家なのだが、この意匠が非常に懐かしいのだ。
 模様の入ったガラス窓、石炭・石油ストーブを置くタイルの台、台所の壁などなど。
 これらに着目した表現をこれまで見たことがなかったので、とても新鮮だった。ただし、これらのデザインは、たぶん1960~70年代に北海道に建てられた家屋の特徴であり、この懐かしさが、道外の人に伝わるかどうかは、いささか心もとない。だけど、それらのデザインを知らない人でも、懐かしさは伝わるのではないかという気もする(根拠はないが)。

 ところで「となりのひと」とは、誰なんだろう。

 フェイスブックページにもあったとおり、twitterやFacebook、mixiといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の登場と普及で、従来の「となり」という概念は急速に変わりつつあるように思われる。つまり、実際の物理的な距離と、心理的な距離とが、かならずしも比例しないという状態が当たり前になってきている。
 ただし、インターネットの黎明期や、twitterの普及期などに、一部で語られた、知らない人どうしの結びつきが強まり、新しいコミュニティができるという見方は、かなり楽観的なものだったという反省も出てきている。
 結局は、趣味や社会的階層に違いすぎる他者との結びつきができるよりも、趣味や階層の同じような人たちとのたこつぼ的な集まりが強まっただけではないかという反省だ。もちろん、知らない人との出会いはあるが、思い込みの激しい人や主張の変わらない人には何を言っても無駄だという徒労感の方が強まりつつあるように思われる。

 もうひとつ、「となりのひと」という言葉から聯想されるのは、韓国や北朝鮮、ロシアといった国々の人。
 あるいは、アイヌ民族や在日韓国・朝鮮人など、おなじく北海道に住んではいるけれど、民族的な(これもあいまいな概念だが)アイデンティティを異にする人々。
 「こういうのがあるかと期待してきたら、なかった」という批判は、あらゆる批評の中でもいちばんつまらないものだと思うので、筆者はやらないけれど、あっても良い視点ではないだろうか。

 つまり、「となりのひと」への視線のあり方というのは、自己像のネガ(反転像)という性質を持つのではないか。
 出品作家(本郷を含む)の多くにとっての「となり」が、ごく親しげな、アンティームな領域にとどまっているということは、そこ(=自分を含む狭い世界)で自足している作家の精神の裏返しではないかとも思う(これは、批判ではない。ムリに視野を広げても仕方ない)。



2012年6月2日(土)~8月26日(日)午前10:00~午後5:00(入館は4:30まで)
★7月13日(金)は午後8:00まで開館(入館は7:30まで)
月曜休館 ※ただし7月16日(月)は開館し17日(火)休館

本郷新記念札幌彫刻美術館(中央区宮の森4の12)

観覧料 一般500(400)円、65歳以上400(320)円、高校・大学生300(250)円、中学生以下無料。※( )内は10名以上の団体料金



□フェイスブックページ http://www.facebook.com/tonarinohito/timeline


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