
札幌で独特のシルクスクリーンを制作している画家、イスラトレーター森迫暁夫さんの個展。
とても精力的に制作・発表を行っており、一見アーティストっぽくない、さわやかな風貌である。
森迫さんの作品は楽しい。その楽しさを、分析したところでしかたないような気もするが、この手のブログで「楽しい、楽しい」と繰り返してもあまり芸がないようにも思う。そこで、森迫さんの作の特徴は何か、考えてみた。
イ 奥行きがなく、透視図法的に構図がつくられていない。さまざまな要素が平面的に配置されている。
ロ そして、それらの要素が、緊密に絡み合い、つながっているので、いったん絵の中に入ると、いつまでも視線を誘導されて、なかなか絵から目を離すことができない。
ハ 各要素には陰影が施されず、平坦な色面として描かれる。
ニ あまり大きなモティーフはない(平坦な色面が大きくなれば、画面は単調になるので、それが避けられる)。
ホ 画面に空白が少なく、さまざまな要素でびっしりと埋まっている。
ヘ 抽象的な図形と、デフォルメされた人物や動物、植物が交じり合っている
…ざっと、こんなところだろうか。
しかし、こういうふうに分析したところで、森迫さんの絵の魅力に迫ったことには、ちっともなっていないように思われる。
今回の個展で並んでいる作品の特徴は、「ホ」が該当しない。
地の白がそのまま生かされている部分が多い。
抜けたところがあるほうが、構図に奥行きというかメリハリが出るのだが、森迫さんはあえてそれをこれまでやらないようにしていたのだと思う。
変化のわけをたずねたら、日本的なものに興味があり、水墨画に挑戦したりしていたという。
今回は画像をアップしていないが、墨汁を使った作品もある。
そういえば、今回の緑色の展開は、どこか盆栽を思わせなくもない。

同一の作品(ただし刷りが異なる)は、現在、JR札幌駅構内のアートボックスに展示されている。
完全な左右対称だ。
周囲に点在する小品は、上の大作の部分を刷り出したものだ。
森迫さんの絵に、これといった中心がなく、部分だけを切り取っても絵として成立することがわかる。
「中心がない」ということでいえば、森迫さんは以前から伊藤若冲が好きだったそうだ。
リアル路線の若冲とは画風が異なるとはいえ、まさに若冲の絵は「中心がない」世界であり、そこが森迫さんのふしぎな絵の世界と共通しているのではないだろうか。
以下、部分を拡大してみる。

躍る曲線が、それぞれの要素をつなぐ。
クマなどの動物がかわいらしいこともあり、それらを目で追っていると、もう画面から視線が離せなくなる。

左下。
いちばん下の隅の部分を拡大してみると…。

3匹の子グマが遊んでいる。
キャラクター的イラストに流れそうでいて、緊密な画面構成がそれを阻んでいるともいえそうだ。
コートなどに使うふわふわの布が、支持体になっているというのもおもしろい。
以下、他の作品。
次は喫茶店部分の壁にかかっていたもの。
ト・オン・カフェは、意外な壁に作品が掛かっている場合が多く、さがしているだけでも楽しい。

この空白は、これまでにないタイプだと思う。

というわけで、やっぱり感想としては、ポップで楽しくてかわいらしい、というあたりに落ち着いてしまうのですが、一番は「個性的」というところかもしれません。
2014年1月14日(火)~26日(日)午前10時30分~午後10時(日曜~8時)、会期中無休
ト・オン・カフェ(札幌市中央区南9西3)
関連記事へのリンク
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■第42回道都大学中島ゼミ展 版と型をめぐって(2006年)
■道都大学中島ゼミ展 森迫さんの作品
■第37回道都大学中島ゼミ展(2003年、画像なし)
■花鳥風月のアンティーク・ルームと森迫暁夫の絵(2003年、画像なし)
・地下鉄南北線「中島公園」から約180メートル、徒歩3分
・地下鉄東豊線「豊水すすきの」から約620メートル、徒歩8分
・中央バス「中島公園入口」から約380メートル、徒歩5分
※鴨々堂から徒歩3分、ギャラリー創からだと徒歩7分ぐらいです
梁井さんとお話が出来てよかったです!
なんだか、今回の展示は色々と勉強になる事がたくさんで、特に変化について考えさせられる展示だったように思います。
記事を読ませていただいて、自分の事をなるほど~と、確認させていただいた気持ちになり、とても勉強させていただきました。
記事に書いていただいた通り、今回は日本画をかなり意識して作品をつくりました。
色々とまだまだ課題を残してはいますが、自分でも、版を使った表現としては、にじみ、や、かすれなど、ずいぶんと操れるようになってきて、今回の展示で「変わったね!」と言っていただいたところにつながったのではないかと思います~。
これからも無理なく変わってゆけたらな、とおもいます~。
どうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします~。
今後とも、心がうきうきするような作品を見せてください!