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「50代社員の賃金水準が高過ぎ」「解雇規制を緩和しても雇用は増えない」- 考えさせられる企業調査結果

2013-02-19 | いとすぎから見るこの社会-雇用と労働
「大きな政府」を心底嫌っている池田信夫氏が「転向」して北欧経済に注目している。
しかし元ネタが英エコノミスト誌なので現状認識が違っている箇所や
断章取義で自説の補強に利用しようとする意図が見え透いているのはご愛嬌である。

北欧諸国、特にスウェーデンの経済パフォーマンスが良いのは事実であり、
しかもドイツと違ってスウェーデンはユーロではないので通貨安効果ではない実力である。

一部のイデオロギストに人気のある中野剛志氏は、北欧経済の好調は米経済の過剰消費による
との珍説を展開されていたと聞くが、それも勿論のこと間違いである。

国際競争が激化し、産業・企業の優勝劣敗が急速に生じる現代において、
産業間・企業間での雇用流動化が進むことが経済パフォーマンスにも影響を与える。

よく言われるように、英米は倒産や解雇が日常的であり優秀な人材の流動性が高い。
北欧はよく似た雇用流動性の高い経済であるが、国民負担率が高く
就業を支援する積極的労働市場政策と公務員数の多さが特徴である。
しかし公務員は日本と違ってフラットな賃金体系を持っており、
公共部門でもビルド&スクラップ、つまり解雇を伴う組織再編は普通に行われている。

北欧と比較すれば、英米の成長率が劣後する理由が分かるというものである。
同時に、
正社員の解雇規制や正規公務員の年功賃金利権といった日本の雇用慣行が
我が国の経済パフォーマンスを劣化させている
のも火を見るより明らかである。

 ↓ 参考

日本企業の強烈な危機感 -「高年齢層の賃金水準が高く、若年層のモチベーション低下を招いている」
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/6689a996150bf42b91745b5a961687e8

高齢層の労働者は「職を選ばず」若者に手本を示すべき - 大企業より中小企業の方が高齢層活用に積極的
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/03030223facae2312ff67c8d8f323742

▽ 世界最高水準の世代間格差の大きさが、我が国の経済成長率を押し下げている

『世代間格差:人口減少社会を問いなおす』(加藤久和,筑摩書房)


北欧はなぜ成功したのか - 池田 信夫(zasshi.news.yahoo.co.jp)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130203-00000308-agora-bus_all
”バラマキ補正とインフレ目標に続く「3本目の矢」は、成長戦略だそうである。潜在成長率を上げる政策には意味があるが、経産省の張り切っている「新ターゲティングポリシー」なんて有害無益だ。それより今週のEconomist誌におもしろい特集が出ている。
〔中略〕
 アメリカやEUが不況から抜け出せないのに対して、北欧諸国が元気だ。上の図のように一人当たりGDPは世界の上位を占め、成長率も高い。その最大の原因は政府の効率性だ、とEconomist誌はいう。政府への国民の信頼度は高く、「政府を信頼する」と答えた国民の比率は50~60%とEU平均の2倍近い。
 この一つの原因は政府が小さく、地方分権化されていることだ。人口が最大のスウェーデンでも900万人と大阪府ぐらいで、それがさらに小さな州にわかれて予算の独立性も高いので、国民は「足による投票」で地方政府を選べる。政府予算は公共事業や補助金ではなく所得の直接再分配に使われているので、負担と受益の関係がわかりやすい。
 北欧といえば「高福祉・高負担」というイメージは過去のもので、スウェーデンの政府支出のGDP比は90年代の68%から今は50%以下にまで下がり、政府債務は欧米よりはるかに小さく、「経済的自由指数」でも英米とほぼ同じになっている。
 北欧諸国に特徴的なのは、企業に対する補助金や解雇規制がほとんどない代わり、個人のセーフティネットが手厚いことだ。経営の悪化した企業は守らないで破綻させるが、失業者には職業訓練をほどこし、それを条件として手厚い失業手当を出す。産業別労組の組織率が高く再就職が容易なので、企業の破綻は多いが長期失業率は低い。労働者が失業を恐れないので、90年代の金融危機で自殺率は下がった。
 このように企業の新陳代謝を進めて労働人口の移動をうながしたことが北欧の成功の原因だ、という点で多くの経済学者の意見は一致している。北欧の政府は、産業の中心が製造業からサービス業に変わるのに対応して産業構造の転換を促進し、エリクソン、イケア、H&Mといった新しい企業が成長し、知識集約型の産業に移行した。
 日本政府の「成長戦略」は、これとは真逆である。ゾンビ企業を延命する一方で、個人に対するセーフティネットは生活保護ぐらいしかない。補助金などの形で間接的に所得補償をしているため、そのほとんどは農協などに中間搾取されてしまう。何より有害なのは、ゾンビ企業が優秀な労働者をロックインして新しい分野への挑戦を阻害していることだ。
 幸か不幸か、こうした企業に依存した「日本型福祉社会」は限界に来ており、そう長く維持できない。政府が裁量的な介入から撤退して企業の保護や規制をやめ、個人ベースの福祉社会に移行することが最善の成長戦略である。”

北欧への着眼は正しいが、残念ながら三つの誤りがある。

1)北欧の環境税と風力・コージェネ普及促進は明白な「ターゲティングポリシー」である
2)「政府支出のGDP比」は「高福祉・高負担」の指標ではない
  (現在でも例えばスウェーデンの所得税率は日本より高く、負担も重い)
3)「個人のセーフティネットが手厚い」のではなく「就業を強制する」管理社会である

また、北欧の自殺率・失業率は恒常的に日本より高いため、
意図的かどうか分からないが結果的に情報操作となりかねない。

池田信夫氏のこのコラムには他にも重要な論点が欠けており、
北欧経済の高い女性就労率(=日本より労働投入が遥かに多い)や
高い合計特殊出生率(=少子高齢化の速度が遅く、内需にポジティブ)
外資優遇・招致の熱心さ(=日本は対内投資に異常に閉鎖的)といったところも
書かなければ到底十分とは言えないだろう。

 ↓ 北欧の経済政策から学べば、日本経済も成長できる

企業への「賃上げ要請」は無策の証拠、見え見えの選挙向けアピール - 所得増政策はいくらでもある
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/d52702c954424591b7474388849c55cc

▽ 池田氏はこの本を読んで勉強した方が良いだろう

『北欧モデル 何が政策イノベーションを生み出すのか』(日本経済新聞出版社)


正社員の解雇規制緩和 肯定する企業が5割(日本人材ニュースHRN)
http://www.jinzainews.net/article/body/1a497d96aef086eb29635c8aa86604d9
”日本生産性本部が上場企業を対象に実施した「日本的雇用・人事の変容に関する調査」の結果によると、正社員の解雇規制緩和を肯定する企業の割合が5割近くに達し、否定する企業の割合を大きく上回ったことが分かった。
 「非正社員雇用者の増加の大きな要因の一つは、正社員に対する解雇規制であり、労働力の円滑な流動化促進のためには正社員の解雇規制の緩和が必要である」という質問に対する賛否を聞いたところ、肯定する回答が約5割(「そう思う」14.9%、「どちらかといえばそう思う」33.8%)を占めた。
 「どちらともいえない」が約3割(31.2%)、否定的な回答(「全くそう思わない」5.8%、「どちらかといえばそう思わない」14.3%)は約2割(20.1%)となっている。
 解雇規制緩和に否定的な理由には、「正社員の解雇規制を緩和しても、必ずしも雇用の増加にはつながらない」(50.0%)、「雇用の安定・確保が損なわれることの不安が、働くことに悪影響を及ぼす」(34.3%)が多い。
 業務内容や成果・貢献度に比べて賃金水準が高い正社員が多い年齢層は、「50代」(50.6%)を挙げた企業が最も多かったが、「特定の年齢層にかたよっていない」(35.7%)も3割を超えた。

〔中略〕
 65歳までの雇用義務化に対しては、「再雇用選定基準が必要」(95.7%)と回答している企業が9割を超えている。また、「人件費の推移によっては、新卒採用の抑制もありうる」(32.1%)、「若年層も含めた全ての社員を対象に賃金水準や退職金・企業年金の見直しをする」(27.9%)と回答している企業がそれぞれ3割前後あり、若年層の雇用への悪影響が懸念される
 調査は、12年10月下旬から12年11月中旬に上場企業を対象に実施し、154社から回答を得た。”

日本の場合、若者が内向きだったり意欲が低かったりすることではなく、
成果を上げていない中高年層の人件費が政治的要因で高いのが問題である。

従って、北欧のような賢い積極的雇用市場政策を行うなら
所得税の税率を引き上げて就業支援や給付付き税額控除に投入すべきである。
所得が上がらない層にはNPO等の有償ボランティアを副業として認めるのも良い。

いずれにせよ、これ以上働かないし給与も上がらない層を優遇してはならない。
これから日本経済に寄与する新規就業者や起業者を優遇すべきである。
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