10年来の親友に会う
長く待ち望んだ子どもができ
母になり
新居への引越しを控え
雨の中わたしを迎えてくれた彼女は
少しだけ疲れた風だったが
これまでに見たどんな彼女より
幸せそうだった
話しても話しても
何か大事なことを話せていない気がする
子どもを抱かせてもらいながら私は
料理をする彼女の背を見ている
その向こうで鍋から湯気が立ち上る
私は何か言いかけて
でも急いで話してしまわなければならないことなど
何もなくて
ただ子どもをあやして抱きしめる
子どもは体温が高くて
ミルクの甘いにおいがする
気づけば部屋全体が暖かなのだ
帰り際
ドアの外で見送ってくれた彼女は
不意に私の肩を抱き
そこには疲れた彼女も
母である彼女もいなかった
ただ友人であるだけの
その温かさに
彼女のこどもを重ねる
短いけれどこの抱擁を
私はきっと生涯忘れないだろう