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『永遠の0』 http://tinyurl.com/bv9xub5
【 百田尚樹、講談社 (2009/7/15)、p433 】
海軍には「特攻」の下地は初めからあったのかもしれない。開戦劈頭(へきとう)の真珠湾で、甲標的による特別攻撃のようなことが行われていたからだ。
甲標的とは二人乗りの特殊潜航艇だ。海軍は真珠湾攻撃の時に、甲標的を潜水艦に搭載してハワイ近海まで運び、それを真珠湾に突入させた。だが警戒の厳しい米軍港に小型潜水艇が潜入出来るはずはない。よしんば成功したとしても、脱出して沖で待つ潜水艦に回収されるのはまず不可能だ。つまりこれは特攻隊とほとんど変わらない。甲標的の十人の隊員たちは生還を期せずに出撃した。そして実際に五隻全部が生還しなかった。この時、後の「特攻」が約束されたとも言える。
余談になるが、この時、一隻が湾口に座礁し、生き残って捕虜になった酒巻少尉の存在は無視した。しかしまもなく酒巻少尉の名前は知れることになり、彼の実家は石を投げられ「非国民」「なぜ自決しなかった」という嫌がらせの手紙が全国から舞い込んだそうだ。
酒巻少尉の艇は航行に絶対必要なジャイロコンパスが故障していたのだが、母艦の潜水艦長の「どうする?」という声に、「行きます」と答えて出撃したそうだ。「どうする?」と聞かれて断る軍人などいるはずがない。なぜ艦長は「出撃中止」を命令しなかったのかと思う。酒巻少尉は結局ジャイロコンパスの故障で艇を上手(うま)く操ることが出来ず、艇位を失って座礁したのだ。同乗の一人は死んだ。
非国民呼ばわりされた酒巻少尉とは逆に、九軍神の実家には彼を英雄と称える村人や子供たちが大勢列をなしたそうだ。しかし戦後は一転して「戦争犯罪人」を出した家として、村人達から白眼視されたと聞いている――。このエピソードを聞く時ほど、嫌な気持ちになるものはない。
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【 百田尚樹、講談社 (2009/7/15)、p433 】
海軍には「特攻」の下地は初めからあったのかもしれない。開戦劈頭(へきとう)の真珠湾で、甲標的による特別攻撃のようなことが行われていたからだ。
甲標的とは二人乗りの特殊潜航艇だ。海軍は真珠湾攻撃の時に、甲標的を潜水艦に搭載してハワイ近海まで運び、それを真珠湾に突入させた。だが警戒の厳しい米軍港に小型潜水艇が潜入出来るはずはない。よしんば成功したとしても、脱出して沖で待つ潜水艦に回収されるのはまず不可能だ。つまりこれは特攻隊とほとんど変わらない。甲標的の十人の隊員たちは生還を期せずに出撃した。そして実際に五隻全部が生還しなかった。この時、後の「特攻」が約束されたとも言える。
余談になるが、この時、一隻が湾口に座礁し、生き残って捕虜になった酒巻少尉の存在は無視した。しかしまもなく酒巻少尉の名前は知れることになり、彼の実家は石を投げられ「非国民」「なぜ自決しなかった」という嫌がらせの手紙が全国から舞い込んだそうだ。
酒巻少尉の艇は航行に絶対必要なジャイロコンパスが故障していたのだが、母艦の潜水艦長の「どうする?」という声に、「行きます」と答えて出撃したそうだ。「どうする?」と聞かれて断る軍人などいるはずがない。なぜ艦長は「出撃中止」を命令しなかったのかと思う。酒巻少尉は結局ジャイロコンパスの故障で艇を上手(うま)く操ることが出来ず、艇位を失って座礁したのだ。同乗の一人は死んだ。
非国民呼ばわりされた酒巻少尉とは逆に、九軍神の実家には彼を英雄と称える村人や子供たちが大勢列をなしたそうだ。しかし戦後は一転して「戦争犯罪人」を出した家として、村人達から白眼視されたと聞いている――。このエピソードを聞く時ほど、嫌な気持ちになるものはない。
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