電脳筆写『 心超臨界 』

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( ブリガム・ヤング )

NHKが外国の国家機関とこれほど密着するというのはどうみても奇異である――古森義久さん

2011-03-30 | 04-歴史・文化・社会
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『日中再考』
【 古森義久、産経新聞ニュースサービス (2003/07)、p96 】

20●中国国営放送と密着するNHK

朱鎔基首相の2000年10月の訪日では、TBSのテレビ市民対話番組が話題を呼んだ。

番組の収録で歯切れよくユーモア交じりに語りつづけた首相は、自分の日本への対応が「軟弱」として中国国内で批判されていることをも率直に告げた。だがこの部分は実際の放映ではすっぱり削られていた。

朝日新聞10月17日付の記事は、この削減は「収録後に中国政府高官がTBSに残り、この部分について放送しないよう要請した」結果のようだと報じていた。

もし日本をも含めて他の国の政府高官が日本のテレビ局にどの部分を削れとか削るなという要請をし、そのとおりになったなら朝日新聞はどう報じるだろうか。「言論抑圧」として激しく糾弾するのではないか。

TBS側も、アメリカや韓国の政府高官が番組内容の変更を要求したとしたら、その求めをあっさり受け入れるだろうか。

日本のマスコミはこと中国が相手となると、ふだんとは違うスタンスをとるのではないか。

この種の疑問をとくに強く感じさせられるのは、NHKの中国関連番組である。

北京の外国人専用マンションのテレビにはNHKの衛星放送、一般国際放送、ハイビジョン試験放送などが映り、日本国内とほとんど同じ番組がみられる。そのNHKテレビ各チャンネルでは中国に関する番組の量の多さは驚くほどである。しかも特定の傾向が顕著なのだ。

1999年12月27日には有名なシルクロード紀行の再放送があり、新彊のウイグル族の楽しそうな結婚式が延々と映された。

ウイグル族といえば積年、中国の統治に反抗して民族独立を主張し、中国当局から弾圧され、毎週のように反乱罪などで活動家たちに死刑が発表されている。だがNHKの番組は新彊のそんな現実はツユほども伝えない。

2000年8月24日夜、アメリカのCNNテレビは、中国の気功集団のリーダーがアメリカに政治亡命を求めたというニュースを報じた。さらに同夜の別項目のニュースでは、中国当局が天安門事件の犠牲者名をインターネットのウェブに載せた中国人青年を国家転覆罪で逮捕したところも報道した。

だが同じ夜のNHKの中国関連ニュースは対照的に、北京で日中書道展が開かれ、友好がうたわれたという報道だけだった。

2000年9月23日には戦前の軍閥の張学良を再評価するNHK番組で作家の浅田次郎氏が北京などを歩き、「中国はぼくらのお母さんみたい、生活に疲れたときに中国にくると疲れは吹っ飛ぶ」と結んでいた。

中国への評価はもちろん個人の自由だが、北京在住の日本人たちはこの礼賛に困惑していた。日常の生活では「中国にくると疲れは吹っ飛ぶ」どころか、「疲れがどっとたまる」という実感が強いからだった。

要するにNHKの中国関連番組は中国をいつも好ましく、前向きに紹介する内容ばかりのようなのだ。あるいは、あたりさわりのない興味本位のテーマが多い。

チベットの薬草のふしぎな効用、四川省でおいしい麻婆豆腐をつくる家族の人間模様、広西地区山奥のナゾの白ザルの生態、各地で演技する子供曲芸団の旅日記、といった中味の番組がほとんどなのだ。

いま中国社会を揺るがす失業、汚職、あるいは宗教や民主主義の抑圧、日本企業にとっての投資環境の悪さ、さらには人民解放軍の軍備増強の実態など、日本側が強い関心や概念を向けるテーマ、中国当局がおそらくいやがるだろうテーマにはまず触れないようなのである。

NHKはこれではどうも中国の国営中央テレビ(CCTV)とあまり変わらないではないかと感じていたら、実際にこの両者は異様なほど緊密な一体関係にあることを知った。「異様」というのは、NHKとCCTVが北京にホテルやマンションを経営する合弁企業をつくっているからである。

『メディアセンター』(梅地亜電視中心)と呼ばれるこの合弁会社は、厳密にはNHKエンタープライズが西武百貨店、東芝、松下電器などの協力を得て90年に東京に設立した『日中メディア交流センター』という会社とCCTVの子会社の『中国国際電視総公司』との合弁である。北京市内西部にあり、十数階の白亜のビルの外観は一般ホテルと変わりない。

『メディアセンター』の一角には、中国でのテレビ取材や映像の伝送、生中継を引き受ける放送部門というのがある。この部門の主体はCCTV系だが、NHKからも常時、プロデューサー格の職員2人が送られ、NHKの中国関連番組の作成のために中枢の役割を果たしているという。

つまりCCTVの組織内に入り、その全面的な協力や指導を受けているわけだ。CCTVの映像をそのまま使う場合も多いという。

『メディアセンター』の業務の本体は、260室のホテル、50室のマンション、3店のレストラン、貸オフィスなど、放送とは無関係のサービス業となっている。97年には従業員は合計797人だったが、うちテレビ関係の放送部門はわずか41人だった。

ホテル部門のトップにもNHK関連の日本人要員が派遣されてきたという。

CCTVは中国の国家機関であり、共産党の支配下にある。

一方、いくら特殊法人とはいえ政治的には国家や政党から離れたNHKが、独立を公共性の柱にしながら外国の国家機関とこれほど密着するというのはどうみても奇異である。放送と無縁のホテル業にまで参入するのは、さらに異様といえよう。

この裏では当然、NHKからCCTVへの出資金の流れがあるのだろうが、その動機がたとえ中国という特殊な国での取材の便宜を得ることであっても、結果は相手との密着による種々の政治的な制約のようなのである。

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