ショック・ドクトリン 新自由主義の解体新書
The Shock Doctrine: the Rise of Disaster Capitalism.
SF映画にでてくる、記憶を改造するマッドサイエンティスト。架空の話ではなく現実だった。
40年代に薬物と精神医学が大躍進し、精神病の治療に新技術が採用された。電気ショックによって患者の心を白紙に戻す、そしてゼロから再出発。白紙に戻った精神に「健全」な新人格を刷り込む。これは失敗に終わったが、拷問実験室は、現実に存在していた。
50年代にCIAがこれに注目し、一連の実験「MKウルトラ計画」を行ない、その成果を利用して囚人を屈服させる秘密の手引書を作った。ショックを与え子供の状態に戻し服従させる手法。CIA尋問マニュアル。
基本前提は幼児へと退行させるテクニック。一時的に人事不省にさせ、心理的なショックや麻痺の状態に追い込む。この瞬間こそが尋問者がつけ入るすきなのだ。相手は従順で忠告に応じやすくなる。それらを「科学的」に行う。
なんと、この手法は個人だけではなく社会にも適用された。
70年代に「ショック・ドクトリン」の世界初の実験場となったチリ。ミルトン・フリードマンと自由放任の実験室。「サンチャゴに雨が降る」という映画がある。ピノチェトがクーデタでアジェンデ政権を潰し、雨どころか銃弾が降り戦車が街を蹂躙。そして軍隊の圧倒的暴力の裏で、米政府の奨学金でシカゴ大に留学したチリの経済学者たちが、経済ショック作戦を繰り広げていたのだ。その後も南米で新自由主義は猛威を奮い民衆を弾圧した。
そう、拷問と経済が連携し、次第に進化していく。
鉄の女サッチャーも、フォークランド危機を梃子にした。さらにポーランドでは「連帯」の希望を潰す。自然災害や戦争などの惨事につけ込んで過激な経済改革を強行する「惨事便乗型資本主義」。これが「ショック・ドクトリン」。
米国内版ショック療法でバブル景気に沸くセキュリティー産業。国有企業の民営化が強要され、一体化する官と民。IMFや世銀もこれに加担していた。
イラクへのショック攻撃、イラク抹消を図り、膨大な数の人々の感覚を遮断し国民全体の理性を奪う。明かりが消え、電話回線も切れ、連絡手段はすべて遮断。略奪が横行しても米軍は放置。
よくまあ調べたもんだ、ナオミ・クライン。政治経済に疎くても、よく分かる文章。最後は連帯して手をつなぐ人々に希望を託す結末も見事だ。