■Survivor / Barry Mann (RCA / BMG JAPAN = CD)
愛聴盤が再発される時、特にCD時代になってからはボーナストラックという美味しいオマケが付くようになりましたから、堂々と大義名分を得て、それを買うことが出来るのは些か苦しい言い訳でした。
しかし、本日ご紹介のアルバムに関しては、その成り立ちからして、どうしても決定的な再発が必要とされていたのです。
主役のバリー・マンは1950年代末から職業作家として今日まで、知らぬ人もないヒットメイカーですが、1970年前後からのキャロル・キングの活躍に刺激されたのか、もちろんそれまでも例えば「シビレさせたのは誰 / Who Put The Bomp」等々の自演ヒットも出していたわけですが、いよいよ本格的なシンガーソングライターとしての活動をスタートさせ、まずは1971年に「レイ・イット・オール・アウト(New Design)」と題されたアルバムを出すのですが、結果は……。
ちなみにキャロル・キングはもちろん職業作家時代からバリー・マンの盟友でしたから、前述のアルバムにも参加し、地味ながら仕上がりは、「裏・つづれおり」というムードも滲んでいたのですが、リアルタイムでは売れなかったのが事実であり、私も後追いで聴きました。しかし1975年となって、この「ザヴァイヴァー」に関しては、輸入盤屋に入荷するという情報を得た瞬間から、一刻も早く聴きたいと期待していたのです。
というのも、当時の私は所謂オールディズ物にどっぷりと足を踏み入れていた時期でしたから、バリー・マンという偉大なソングライターが気になっていたのはもちろん、アルバムの制作にはビーチボーイズでお馴染みのブルース・ジョンストンやテリー・メルチャー等々のハリウッドポップスの立役者が関与しているとあっては、辛抱たまらん状態!
そしていよいよ聴けたそこには、如何にもバリー・マンらしい、ある意味では大袈裟ともいえるホワイトゴスペルっぽい曲調と真っ向から取り組む熱いボーカル、また可逆的な自嘲を漂わせる節回し、ツボを抑えたアレンジと演奏がぎっしり♪♪~♪
しかし同時期に発売されていたアルバム未収録のシングル曲は、当時の日本では入手が極めて困難であり、つまりは輸入盤シングルを積極的に扱う店がほとんど存在していなかったわけですが、そうこうしているうちに突如としてアルバムそのものが再発というか、曲順もプログラムも異なる新装盤が登場して、なんだかなぁ……。
それは結局、私に買い直す経済力が無かったことに他なりませんが、その間にもレーベルを移籍してのシングル盤が出たり……。
こうして時が流れました。
バリー・マンは前世紀末頃になって、ようやく歌手としても我国ポップスファンに広く認められるようになり、このアルバムもCD化されたのですが、残念ながらボーナストラックに関しては個人的に不満があって、入手を躊躇していたところ、ついに出たのが紙ジャケット仕様も嬉しい再発の決定版!
01 I'm A Survivor (2nd Single A)
02 Don't Seem Right (A-1)
03 I Wanna Do It All (A-2)
04 Taking The Long Way Home (A-3)
05 I'll Always Love You (A-5)
06 Crazy Ladis (B-1)
07 Nobody But You (B-2)
08 Jesse (B-3)
09 Hang On Fred (A-4)
10 My Rock And My Rollin' Friends (B-5)
11 Don't Seem Right / Riprise (B-6)
※ボーナストラック
12 Nothing Good Comes Easy (B-4)
13 Woman Woman Woman (1st Singl B)
14 The Princess And The Punk (Arist Singl A)
15 Jennifer (Arist Singl B)
上記演目の末尾に入れたのは、私有の初回アナログ盤の曲順ですから、この再発CDはセカンドプレスのアナログ盤に準拠したものです。
それは同セッションから作られた2枚目のシングルA面曲だった「I'm A Survivor」がちょっとした評判を呼んだことからの措置だったと思われますし、実際、アルバムタイトルにも合致するイメージとして、音楽業界の裏方からスーパースタアを眺めて自嘲する歌詞とノリの良い曲調が出来あがっていれば、それは正解だったと思われます。
しかし最初に耳に馴染んだ印象とは凄いもので、シミジミと歌い出される「Don't Seem Right」から、ほとんどの曲はミディアム~スローテンポで終盤がグイグイと盛り上がるという展開が続きます。そして前述のように、ホワイトゴスペルというか、込み上げてくる感情や抑えきれない高揚感が吐露されるメロデイと歌いっぷりが、実に心地良いんですねぇ。
ただしそれはツボにくればこその快楽であって、はっきり言えば地味~な曲ばかりですし、演奏パートはピアノが中心ですから、派手なギターソロなんか出てきません。
ですからアルバムの構成が一本調子というか、似たような歌と演奏ばかりで、飽きる前に取っつきが悪いのが本当のところかもしれませんね。
実際、バリー・マンのファン以外の皆様にとっては、最高につまらない仕上がりだと思います。
それでも一途に盛り上がる「Crazy Ladis」や「Nobody But You」、ちょいとせつない「Jesse」、力強い「Hang On Fred」、真摯な「My Rock And My Rollin' Friends」から締め括りの「Don't Seem Right / Riprise」へと続くこのCD後半の流れは、よくもまあ金太郎飴なゴスペルポップスが作れたもんだ!?! と呆れる寸前のしつっこさですよ。
このあたりの好き嫌いによって、このアルバムへの愛着度が決まるのかもしれませんね。
その意味で、このCDのプログラムはとても良く出来ていて、じわ~っとくるストリングスの大団円からライトタッチのR&Rポップス「Nothing Good Comes Easy」に入る流れは痛快にしてクセになりますよ♪♪~♪
それとボーナストラックの「Woman Woman Woman」はアナログ盤LPには未収録の、実に私好みのゴスペルパラードで、極言すればパーシー・スレッジの「男が女を愛する時」の白人的な焼き直しなんですが、それが琴線に触れまくり♪♪~♪ 告白すれば、この1曲が聴きたくて、このCDをゲットしたといって過言ではありません。
またアリスタ契約して1976年に発売したシングル盤の両面2曲、「The Princess And The Punk」と「Jennifer」が入っているのも決定的! 特に「Jennifer」は如何にもバリー・マンという美しくてドラマチックな作風が全開の隠れ名曲です。
ちなみにバリー・マンが書いてきた諸作の歌詞は、1960年代初頭から夫人のシンシア・ワイルがほとんどを手掛けていて、このアルバムも同様の方針を貫いているのですが、純粋でありながら決して一筋縄ではいかない愛の形とか世の中の仕組みを歌い込んだ作風は、この2人ならではの個性として不滅だと思います。
そのあたりは影響を受けたと思しきミュージシャンや作家も多くて、我国では本人も語っているように、山下達郎は代表選手のひとりでしょう。「蒼茫」とか、その手の些か大仰な名曲にはモロじゃないでしょうか。私は好きです。当然ながらバリー・マンの熱い節回し、歌いっぷりも伝承されているようです。
ということで、決して万人向けのアルバムではありませんでしたから、リアルタイムでは売れなかったと思いますし、シングルヒットも出ていません。
しかし一度虜になったが最後、棺桶にまで持ち込みたい愛着は必至ですよ。
尤も私の場合はそれが多くて、棺桶がいっぱいになるかもしれませんが、このアルバムは削って欲しくないですね。遺言残しておきます。
最後になりましたが、アルバムに参加協力したメンツが裏ジャケットに掲載されていて、まさに一蓮托生の仲間達のあれこれも類推出来る楽しみがあります。今回は割愛させていただきますが、アメリカ本国ばかりではなく、それが例えば山下達郎といった我国の歌手にも伝播しているあたりも含めて、味わい深いポップスの流れが楽しめると思います。
詳しい付属解説書も含めて、とにかく紙ジャケット仕様の再発CDがオススメです。