山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

日本で2番目にきたない店(2)

2019年11月05日 23時32分35秒 | Weblog

 日本で2番目にきたない店といえば、ぜひ書かなければならない店がある。天王寺駅から西に行くと左手に大阪市大病院がある。その次の路地を左に入ってほどなく、銭湯の向いにある。地名は西成区山王町。そのままずっと行くと飛田新地だ。名はかんむりや。じつは8、9年前、2度行ったことがあり、これは絶対きたない店ランクインだと確信した。で、時がたって5年ほど前、行ったところが店がなかった。ああ、ついにつぶれたかと思っていた。ところが前に連れて行ってもらった人に聞いたら、いややってますよということで、ブログに書くためにもういちど訪れた。あ、あった。店構えがなんと黄色いテントになっていた。おまけにイカ焼きなどと大書きしているから、5年ほど前、これは違うと思って帰ったのだ。

 11月4日、休日ということで、2時半に入るともう先客が3人。あとつぎつぎと来客で、カウンター6人でギシギシ。さらに若い男女4人組が来た。学校の机より小さい二人掛けテーブルに、小さい折り畳みパイプ椅子をだして、壁際に並んですわった。トイレに行くにも端の人に席を立ってもらわなければならないほどの混雑だ。店は狭く、雑然としていることこの上ない。古いメニュー白板のほかに小さい紙や団ボールの切れ端に書いた新?メニューがびっしり押しピンでとめてある。100種類もある。こんなに調理できるのかと疑うほどだ。疑うには理由がある。この店は、まな板を置く調理台がないのだ。元はあったのだろうが、いろんなものが置かれてもうすき間がない。ハマチの刺身の注文のときはB5くらいの大きさのうすいプラスチックまな板、実はこれもなんかの熱で歪んでいる、これをすき間に置いて調理する。8、9年前に来たときは、流しの角にまな板を置いていたはずだが、いまや流しはコップ、ジョッキ、皿などが山盛りでとてもとても。そういえば、店に入ったとき、昨日の客の使い残しの皿などがそのままだった。店主は相当のものぐさで、すぐに片づけ、洗い物をしないみたいだ。店には古いラジオが何台もある。カセットラジオが音を出していたから、古いのは捨てたらと思ったが、又5年経ってもあるだろうな。雑誌などもなにげなく積んだらそのままになっている。毎日来ているらしい音楽家の男性がケシ餅を差し入れに持ってきて、みんなにふるまってくれた。その人にピッタリの上品な味だった。最後に店主が食べて、菓子箱をメニューの下あたりに置いた。これもそのまま風景として残るかもしれない。

 この店は、おばあちゃん猫がわがもの顔で歩き回る。グレーに黒い縞のなかなか美人だ。カウンターの上で行き来する。わたしの前に猫のエサと水が置いてある。なんども水を舐めに来た。このおばあちゃん猫は、最初から来ていた若い美男子のひざがお気に入りらしくずっと膝に乗ってまったりしていた。きたない店だが、客はみんなこの店を受け入れている。客の後ろの壁も乱雑なことこの上もない。いろんな歌手、芸人のライブ案内が所狭しと貼ってある。ケシ餅を差し入れしてくれたにいちゃんのチラシも貼ってある。店の中は見飽きることがない。

 猫を膝で可愛がっている男性にハマチの刺身(160円)が出たのは注文してから30分経っていた。店主自身が、「ドリンクは、す、す、すぐでますが、フードはちょっと・・・」というくらいだから、腹減った、次々注文を、という客は耐えられない。わたしは瓶ビール(460円)を結局2本注文したが、料理の注文はしづらく、ずいぶん経ってからエイのひれ(300円)と明太マヨ(90円)だけで終わった。しめて1310円。他の客はトマトハイとかを注文していたのでだいたい1000円未満だった。いわゆるせんべろというやつだ。エイのひれをハサミで切って焼く時、下から焼き器を引っぱり出してコンロに置いたが、これがなんと歪んでわん曲している。他の客もなんで歪むんや、熱でか?と不思議がった。調理は悠久の時を泳ぐようにゆったりすすむ。入り口の客はラーメンダブルを注文。インスタントラーメンふたつを重ねて煮て、どんぶりへ。白ネギ入りだ。ただしこれが名物の空中切りだ。ネギをもって包丁で斜めに切る。まな板料理のスペースのゆえ。そんな事情で、客は「おっ、空中切り」と合の手を入れる。ラーメンダブルで240円。わたしの右隣の客は、わりと新しいメニューの紙きれをみて「マグロのすき身はある?注文できる?」と、これに店主は「マ、マグロ、え、ええあります」というので注文したはずだったが、わたしが帰るまで2時間出てこなかった。だからといって彼は怒ったりはしない。楽しくハイボールやトマトハイをあてなしで飲んだ。

 瓶ビールの栓を抜くとき、店主は膝で調子を取りながら、威勢よくスポンという音を立ててセンを飛ばす。これまでの最高は道路まで飛んだそうだ。センを拾うことはしない。おそらく店の端の方に積もっていることだろう。その音を皆が楽しむ。最後に来た若者4人は割と早くタクシーを呼んで帰った。タクシーの客もいるんだ。有名店だ。テレビも来たらしい。古いステッカーがあった。店主はじつに控えめな人だ。飲み屋の主にありがちな説教をするようなタイプとは正反対だ。腰が低い。じっさい腰を低くする。客の多くは、なじみ客だ。客はカウンターも拭くし、帰った4人の皿やジョッキを店主に渡し、テーブルを拭く。でも4人の皿、ジョッキは積みあがる。ここがおもしろい。

 客は店主を温かく盛り上げる。奇妙な連帯感とゆるやかな空気が時間を忘れさせる。そしてなにより安い。安いからきたないとかいえない。でも、わたしをカウンターの中に入れさせてく入れたら、もう少しきれいにしてまな板がどんと置けるように、ネギの空中切りをしなくてもいいようにするのに。空中切りはどうしてもネギがゆがんで切れてしまうから。そんなこんなで、日本で2番目にきたない店のブログを書くために久しぶりに訪れて大満足した。2番目のつもりだったが、よく考えたら、日本1の栄誉を与えてもいいと思った。ほとんど行かなかった客が偉そうに言うことではないが。堂々の1位だと思った。黄色いテントはいつからか聞いたら、5年ほど前だという返事だった。だがイカ焼きを大書していることには答えがなかった。メニューにもイカ焼きがあったかな?

 

コメント
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