魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

その夜は忘れない★★★★☆

2008年10月05日 | Weblog

★あらすじ★

週刊ジャーナルの記者、加宮は原爆記念特集号取材のために広島出張した。そこで、美貌のバーのマダム・秋子に出会う。憂いを含む秋子に心惹かれていくが、彼女は、加宮の取材の話を聞くと急によそよしい態度になっていく。実は秋子も被爆者であり、その身体で女の幸せを望むことは許されない、と思っていたのだ。しかしそんな秋子を加宮は受け入れ、秋子もまた初めて女の幸せを掴んだ喜びにひたることができたのだが…


☆感想☆

どうですか、彼女の表情は。
このパッケージだけでも買いですよ

女性映画の第一人者、吉村公三郎監督の作品です。大映の映画は特に女優を主体とした映画に力を入れていて、若尾文子、京マチ子、山本富士子らは日本の女性らしい(古き良き…と言った感じでしょうか)しとやかな魅力にあふれた同社の女優でした。

さて、今回の「その夜は忘れない」という作品ですが、原爆を題材にしているため、大映の数ある女性映画のなかでもひときわ異彩を放っています。若尾文子と田宮二郎が純粋に恋をするというストーリーも珍しいですね。

後年になって製作される、円谷プロの傑作SFドラマ「怪奇大作戦」の中の「死神の子守唄」「京都買います」を彷彿とさせます。
「死神~」は胎内被爆で余命幾ばくも無い女性と、その病気を治そうと人体実験を繰り返す兄の物語で、「京都~」は仏の美しさがわかる者たちの理想郷を創ろうと、国宝級の仏像を次々と窃盗する、仏像の美しさに心奪われてしまった女と、主人公の儚いふれあいを描いたものですが、どちらも物語として申し分の無い傑作ですので、是非見てない方はごらんになってくださいな。

加宮記者(田宮二郎)が冒頭、人けの無い原爆資料館を訪れ、その悲惨さを目の当たりにして施設を後にするのですが、確かにあの雰囲気は、大勢で訪れても重たい気持ちにさせます。
原爆が投下されてから17年後、たった17年でも広島の街にはその悲劇が徐々に薄れつつある。何とも言えない虚無感を感じつつ、田宮はTV局の友人(川崎敬三)に「スナックあき」へ案内されます。そこで出会うのがスナックのママ・秋子(若尾文子)なのでした。

若尾文子がほんとうに素敵です。上品で、綺麗なんだけど、同時に可愛らしさもあり、その包み込むような声音に思わずくらっときそうですよ

相手を思うからこそ、自分の素性を明らかにしたくない。
どんなに一緒になりたくても、それは出来ない。
帰りの列車でだんだん遠くなる加宮を、涙を溜めて見つめる秋子の表情が忘れられません。本当に切ない。切な過ぎる

二人で夜の広島を散歩するシーンがあるんですが、そこで秋子は川辺で石を拾い、加宮に渡します。その石を握ると、いとももろく崩れていきます。原爆の爪あとがまだ存在する。しかしそれは川の中にひっそり隠れていて滅多に姿をみせることはない。夜は川にネオンが映って華やかだけれど…
この石を自分に例える秋子。
よくできた脚本だな~。

秋子の真実を知った加宮も、その事実にひるむことなくただひたすらに秋子を愛する。
私の中では色悪、策略家の役のイメージが強い田宮二郎。今回の純粋な役も意外とはまってます。

ラストのやるせない展開は伏線が張られて、さらに悲しい。

真面目な映画だけど、登場人物の会話など、ぜんぜん堅苦しくなくていいです。純粋に悲恋映画としても楽しめ(?)ますし。
監督の演出方法も文句なし。メジャーになっていないのが不思議なくらい。

久々にいい映画観たな~。

このDVDと一緒に同じ監督の「婚期」も買ったので、次回は多分そのレビューになると思います。
それでは

監督 吉村公三郎
脚本 白井更生 若尾徳平
構成 水木洋子
音楽 團伊玖磨

若尾文子
田宮二郎
川崎敬三
江波杏子
三木裕子
紺野ユカ
角梨枝子
中村伸郎 他

1962年度大映作品(モノクロ・シネスコ)

履歴↓

ど根性物語 銭の踊り
億万長者
憲兵と幽霊
怪猫亡霊屋敷

激動の昭和史 軍閥

相棒(劇場版)
おとうと
衝動殺人 息子よ
満員電車
八甲田山

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆