混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(前編)
2019.09.20
![混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(前編) 混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(前編)](https://the-liberty.com/itemimg/16264_l.jpg)
呉善花
プロフィール
(オ・ソンファ)1956年、韓国・済州島生まれ。評論家、拓殖大学国際学部教授。 90年『スカートの風』(三公社)がベストセラーとなる。98年に日本に帰化。『攘夷の韓国・開国の日本』(文春文庫、第五回山本七平賞受賞)、『なぜ「反日韓国に未来はない」のか』(小学館新書)、『韓国を蝕む儒教の怨念』(小学館新書)など、著書多数。
混乱の続く韓国――。
日韓関係に加えて、米韓関係まで軋みはじめている。
さらに国内では、大統領の側近のスキャンダルにも揺れている。
文在寅大統領の韓国に未来はあるのだろうか。
日韓関係のスペシャリストである呉善花氏に、現在の韓国情勢をいかに読み解くべきか、話を聞いた。(聞き手:国際政治局 吉井利光)
◆ ◆ ◆
大変な韓国の今
――これから、文在寅政権はどうなっていくのでしょうか?
呉善花氏(以下、呉): もしかすると任期の満了も厳しいかもしれません。一つは経済問題です。以前から指摘されていましたが、今は本当に厳しいです。ウォンも下落し、株価も下落しています。韓国の富裕層は海外に逃げて、韓国の若者たちは「就職移民」かのように、日本での就職を目指しています。
――効果的な打開策はあるのでしょうか。
呉: 文在寅政権がしていることは、一言で表現すると、問題の責任転嫁です。「積弊清算」と称して朴槿恵前政権をはじめとする歴代政権の経済政策を批判しています。
資本主義の副作用を是正するためと称して、法人税を上げました。ごく一部の資本家が、他の人を搾取しているとして、経済人は悪人のように扱っています。また、庶民の暮らしを良くするためと称して最低賃金を上げました。しかし、企業は疲弊しており失業率は増えています。
さらに日本にも責任をなすりつけるために、相変わらずの「ホワイト国除外」への批判です。根本的な問題解決の手は打たれておらず、韓国経済は深刻な状況です。
曹国(チョ・グク)法務長官の就任にこだわる理由
――文在寅大統領は、不正疑惑による反対を強引に押し切って、側近である曹国(チョ・グク)氏を、法務長官(法相)に任命しました。
呉: このところ、チョ氏の不正疑惑問題で韓国は大揺れでした。それでも文大統領は、チョ氏を強引に法相に任命すべき「事情」があります。チョ氏は文政権の屋台骨であり、彼なしでは文政権の運営は立ち行かなくなってしまうのです。
これからは、権力を振りかざして独裁的な行動をとるでしょう。チョ氏は9月9日に法相に任命されるや否や、公約である検察改革に向けて動き出しており、検察総長と全面対決の様相を呈しています。政権の支持率が下がったとしても、「勝てば官軍」なのです。
――大統領の任期後も見据えているのでしょうか。
呉: 憲法改正をして、現行の大統領「五年任期・再選禁止」を「四年任期・再選可能」とする文大統領の取り組みは頓挫しました。そこで、今は後継者に育てたいのです。そうしないと、大統領任期後の「命」が危ないのです。
後継者と目されるチョ氏は社会主義者です。ある会合では「社会主義の理念を、韓国の憲法に組み込むべき」と主張したという話もあります。
彼は「改革」や「革命」というキーワードを積極的に使って、朝鮮の伝統である「改革」の旗手であることをアピールしています。そして、志が高いからこそ厳しい疑惑の追及を受けているのだと開き直っています。
――チョ氏は"たまねぎ男"とも揶揄されてスキャンダルが次々と出てきていますが、疑惑は晴れるのでしょうか?
呉: 次の疑惑で大きなものは、親族が保有するファンド問題です。チョ氏の親族が保有するファンドは、公共事業である街灯事業や、国策として推進するスマートシティ事業に関連するメーカーに投資をして、この数年で大きく資産を増やしました。
ファンドが投資する会社が、仕事を受注できるようにチョ氏が便宜を図ったのではないかと疑惑を持たれています。検察側は徹底的に調査する構えで、疑惑の追及はこれからも続くでしょう。
文大統領が描く、今後の韓国の青写真
――文政権の掲げる南北の統一は、具体的に進んでいるのでしょうか。
呉: 文大統領は、当面は「南北の連合国家」を目指しています。第一歩が、韓国と北朝鮮の間を鉄道で結ぶことでした。国連安保理・アメリカの北朝鮮の制裁に抵触するため、着工はしていません。しかし、2018年12月に制裁の対象とならない「調査」を名目として、盛大な除幕式までして、水面下でプロジェクトをスタートさせています。
鉄道構想は、韓国と北朝鮮にとどまらず、中国を経て中央アジアからヨーロッパにまで伸ばす計画もあります。そうすると中国の「一帯一路」にも合流できます。国際競争力が低下し、苦境にある韓国の経済人は、北朝鮮をはじめとするフロンティアに進出できる可能性に希望を感じてしまうのです。
次に開城(ケソン)工業団地の再開です。経済協力と文化交流をして、北朝鮮を発展させようとしています。文大統領としてみれば、チョ氏を後継者として、南北統一路線を続けていけば、憲法改正をして再び大統領になる機会を狙うこともできるわけです。
――北朝鮮への憧れは、どこから来るのでしょうか。
呉: 文政権のメンバーの多くは、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領時代に反政府運動をしていました。そのころ、猛烈に勉強した北朝鮮の主体思想(チュチェ思想)にルーツがあるのでしょう。彼らは、歴代政権の失敗で、韓国は儒教思想をはじめ先祖代々の民族的伝統を失ったと考えています。その一方で、北朝鮮には正当な伝統があるという憧れがあるのです。
「我々の正当な伝統が残る北朝鮮に、韓国の経済力が組み合わされば、面白い国づくりが出来る」、こう考えているのです。
「ホワイト国除外」で「反日」を自制する意見が出てきている
――日本では、輸出手続きでの優遇措置を取る「ホワイト国(優遇対象国)」から韓国を除外する政令が施行されました。
呉: サムスンの半導体は世界一だと多くの韓国人は誇りに思っていたのです。しかし、フッ化水素などの3品目が輸出管理されることになり、日本の材料なしでは何も製造できないという事実を突きつけられました。日本から見れば大袈裟だと思うかもしれませんが、「ホワイト国除外」は韓国人にとっては大きなショックだったのです。
これまで、韓国国内で日本を評価する声はほとんどありませんでした。災害時の日本人の規律の正しさを評価することはありました。しかし、歴史問題をはじめ、その他のことで日本を評価することは絶対ありません。公の場での「親日」発言は長年のタブーでした。
ところが、「ホワイト国除外」をきっかけに潮目が変わりました。この点は興味深いです。半導体のみならず、自動車部品の多くも日本から輸入しています。日本に大きく依存する自国の実態を多くの韓国人は認識しました。
そして、「日本なしでは、韓国の経済は成り立たない」、「行き過ぎた『反日』政策で、自国経済の首を絞めてはいけない」という意見があちこちで出るようになったのです。
(後編に続く)
【関連記事】
2018年6月号 Expert Interview - 「金正恩ブーム」の先に展開する世界
https://the-liberty.com/article.php?item_id=14377
2014年3月号 救韓論 韓国が「近代化」する5つの方法
https://the-liberty.com/article.php?item_id=7263
混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(後編)
2019.09.22
![混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(後編) 混迷の韓国・脱「反日」で未来は開けるか? 呉善花氏インタビュー(後編)](https://the-liberty.com/itemimg/16296_l.jpg)
呉善花
プロフィール
(オ・ソンファ)1956年、韓国・済州島生まれ。評論家、拓殖大学国際学部教授。 90年『スカートの風』(三公社)がベストセラーとなる。98年に日本に帰化。『攘夷の韓国・開国の日本』(文春文庫、第五回山本七平賞受賞)、『なぜ「反日韓国に未来はない」のか』(小学館新書)、『韓国を蝕む儒教の怨念』(小学館新書)など、著書多数。
混乱の続く韓国──。
日韓関係に加えて、米韓関係まで軋みはじめている。
さらに国内では、大統領の側近のスキャンダルにも揺れている。
文在寅大統領の韓国に未来はあるのだろうか。
日韓関係のスペシャリストである呉善花氏に、現在の韓国情勢をいかに読み解くべきか、話を聞いた。(聞き手:国際政治局 吉井利光)
◆ ◆ ◆
主要マスコミ離れが進み、YouTube視聴者数が大きく増加
──行き過ぎた「反日」を見直そうという意見も出始めているそうですね。
呉善花氏(以下、呉): 主要なマスコミは基本的には文政権支持です。まともな報道とは思えませんが、韓国のマスコミ報道は、政権の支持率が十分に下がってからようやく報道姿勢が変わるのです。
主要メディアを見ても真実は分かりません。むしろ、本音が言えるYouTubeの方が信頼できるということで、視聴者数が急激に増えています。政権を批判する言論人は、主要マスコミの番組には出られませんが、YouTube上で積極的に意見発信をしています。番組登録者数が100万人近くにまで達している番組も誕生しています。
はっきりと「反日はダメ」と発信している番組に、書き込まれているコメントも興味深いです。これまでなら「親日」的なコメントを出すと、すぐ批判されました。しかし「日本は技術的に優れているけど、韓国は情けないね」など、日本を評価するコメントが数多く出ているのです。
ある文政権寄りの経済学者がYouTube番組で、「悪魔のような日本から、韓国は経済侵略を受けている。日本製品の不買運動をするべきだ」と発信をしていました。書き込まれたコメント欄を見て驚きました。「あなたは経済学者なの?」「日本を知らなさすぎるよ」というコメントがずらりと並んでいたのです。今までにはない光景でした。
保守系YouTuberを勇気づけた、ある一冊の本
──YouTubeのコメント欄に、これまで事実上のタブーである「親日的」な発信が、出始めたきっかけは、「韓国のホワイト国除外」の他にもあるのでしょうか?
呉: 7月に韓国で発刊されたソウル大学名誉教授の李栄薫(イ・ヨンフン)氏の著書『反日種族主義』の影響が大きいと見ています。この書籍の情報を元に、YouTubeで政権批判の発信をしている人が多いことが分かりました。
この書籍は、韓国が「反日」意識を克服するべき必要性が一貫して主張されています。6人の識者のYouTubeでの発信を元に編集されて、分かりやすい内容です。異例のベストセラーで、もうすぐ10刷までいくと聞いています。日本でも翻訳の計画があるようです。
まえがきの内容も驚きでした。出だしから「嘘つきの韓国」で始まっています。「我が国が、嘘つきの文化であることは世界的に広く知られている」という趣旨の内容が書かれています。
また、日韓併合後の日本の土地改革で、韓国人が搾取されたのは全くの嘘という内容もあります。そして、徴用工問題では、裁判の判決は全くのデタラメであると言及しています。「嘘の歴史を勉強した人が、裁判官になっているから判決を間違うのだ」という趣旨で、韓国の「反日」を事実に基づいて具体的に反論をしています。
プロローグでは、「全身全霊の挑戦をしています」という李教授の決意が書かれていました。このような李教授の志に励まされて、これまでのタブーであった「反日」への疑問について顔を出して言えるようになった人が多いのではないでしょうか。
──YouTube番組は、若者たちにも影響を与えているのでしょうか。
呉: その可能性は高いと思います。文政権から若者離れが進んでいます。これまで文政権への支持率は、20代が一番高かったのですが、今はかなり下がっています。
法務長官(法相)に任命されたチョ氏の子供が不正な大学入学をしていた疑惑で、彼の母校であるソウル大学の多くの学生が文政権の反対運動に立ち上がりました。高麗大学の学生もその動きに呼応しています。しかも、彼らはロウソクを持って文政権への反対運動をしています。
文在寅大統領の選挙キャンペーンで、ロウソクは保守政権の批判の象徴でした。ところが、今は最大の支持者であった学生がロウソクを持って、文大統領を批判しているのです。若者たちの反発が広がれば、文政権は大きな打撃を受ける可能性があります。
韓国人の若者は、あまり本を読みませんが、日本よりもYouTubeを見る人の割合は多いと感じます。政治の話題でも100万回再生の動画はザラにあります。次々と番組が立ち上がり、新しい保守のオピニオンリーダーが誕生しています。今はYouTube時代なのだと感じます。
一例を挙げると「シネハンス」というYouTube番組は、4月ごろにはまだ、数万人の登録者でした。それが、今や100万人に迫ろうとしています。このような番組は、政府から名誉棄損で訴えられることもあるようですが、不屈の精神で政権批判をしています。
韓国の未来を担うのは誰?
──「望ましい日韓関係」はどのようにして築けばいいのでしょうか。
呉: 政権とマスコミが一緒になって、反日を煽っていますが、このまま続くとは思えません。水面下では着実に「反日を見直す」動きが始まっています。
今、韓国は、中国にくっついてコバンザメのように動いています。日本と手を切りたい、アメリカと手を切りたい、これが韓国の本音です。それを助けたらどうなりますか?結局は、北朝鮮と中国を助けることになってしまうのです。それは目に見えています。
このままでは、韓国は行くところまで行ってしまうかもしれません。そこで日本は、韓国が新しく立ち直ろうとした時にこそ、手を差し伸べるべきだと思います。
政権が変わって「親日派」、もしくは「親日」とまではいかなくても、「反日」でなければいいわけです。そんなリーダーが現れることを望んでいます。「反日」では韓国の未来はありません。いや、むしろ「反日」で韓国は滅びつつあるのです。
──韓国の未来を担う人物はどこから出てくるのでしょうか?
呉: 李教授の書籍のことや、「反日の見直し」の運動についてもご紹介しましたが、既存メディアに対しては、まだまだ十分な勢力ではありません。ただ、今の野党も力がないのです。
最大野党の自由韓国党の代表でもある黄教安(ファン・ギョアン)氏も有力とは言えません。朴正煕の幻想の下、朴槿恵の復活を求める運動をしていますが、それは無理でしょう。
おそらく、今は名もなき人から韓国を担うリーダーが出てくるのではないでしょうか。今は、混乱に陥っていますが、必ずそうなっていくはずです。その時にこそ、日本やアメリカは、韓国と新しい未来を築くことができるはずです。(了)
【関連記事】
2018年6月号 Expert Interview - 「金正恩ブーム」の先に展開する世界
https://the-liberty.com/article.php?item_id=14377
2014年3月号 救韓論 韓国が「近代化」する5つの方法
https://the-liberty.com/article.php?item_id=7263