よのなか研究所

多価値共存世界を考える

領土としての島とTPP

2011-09-03 21:17:41 | 島嶼

                                                     Photo(鹿児島県大島郡宇検村、焼内湾)

 

ある島でひと月あまり仕事をしています。

日本に6847(本州、九州、北海道、四国、沖縄本島を除く島嶼の数)あると言われる島の一つにあって、現在の島嶼の置かれている状況をいろいろと学んでいます。

 

この集落には青年、壮年の男たちが集まる時間と場所があります。夕方、浜辺寄りの空き地に置かれた長椅子や台座に誰ともなしに集まり、手にしたビールを飲みながら話が始まります。話しネタは、村の行事にまつわるものと、生業の農業・漁業に関するものか中心です。なかでも食い扶持に関わってくる各自の仕事の話は毎回繰り返されています。この亜熱帯の島ではサトウキビ、花卉類、タンカン・ポンカンなど柑橘類にスモモ、パッション・フルーツ、マンゴー、島バナナなどの果物作りが盛んで、本土へ出荷されています。ものによっては島内消費のほうが多いものもありますが、大半は本土へ運ばれます。漁業の方はほとんどが自家消費であり、余れば近隣へ配り、また保存されます。

 

この日は台風12号と大潮が重なって堤防からしぶきが飛んでくる環境下でした。集まった七人のうち四人は二十代から三十代にかけて関東圏、関西圏で仕事をしていた男たちでした。世に優良企業として知られる会社の社員や営業マンや技師だったものもいます。かれらはいろんな事情で田舎に戻っていますが、その多くは親の介護にからむものです。

村では四十五歳までが青年団員で、六十五歳までが壮年です。この日の参集者は半々でした。話は農業への株式会社導入の是非や、土地改良事業や耕作面積の統合拡大などが論じられました。なかには熱く議論するものもいますが、やがて焼酎が回ると一人の「よしわかった」の声でなんとなく議事が進行し終息に向かいます。次回へ持ち越しです。

 

これらの島では他のニュースはともかく、現在政府が進めている各国とのFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)のニュースついては敏感です。地元の新聞に載載される関連記事を細かく読み、一部はネット情報に精通しており議論が続きます。そこでは、特定国との二国間協定については個別の意見はあるものの大筋承諾の方向に落ち着きます。それは、将来の改定が可能であるからです。しかし、昨今出てきたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)には真っ向から反対であり、これについては彼らのみならず、地域のすべての自治体、この島を含む県が反対を表明しています。産業構造の異なる多くの国と同一の協定を合意することの不自然さには誰もが何らかの作為を感じています。

 

各地域の第一次産業は「効率」や「経済性」や「価格競争力」では論じられないものがあります。もしTPPを導入すれば、これらの島々での農業も畜産も成りたたなくなります。このような苦難を乗り越えて競争力のある作物を作る努力をせよ、と説く評論家たちがいますが、そんなことが可能かどうかは現場を踏めばすぐにわかります。

競争力とは所詮「為替レート」という極めて作為的で流動的、かつ脆弱性をもつ数字の上で比較検討されているものであり、本質的な価値・価格の比較ではないのです。こんなことを根拠とする貿易で競争力を持たない産業は淘汰されて当然である、との論理がマスコミでは通用しているようです。それでだれが利を得、だれが損失を受けることになるのか、よくよく考えるてみることが求められます。

 

島々に生きている人びとの生業を市場原理に任せるとしたら、たちまち人口は半分になり、少子高齢化が促進され、やがて限界集落となり、そして無人村への道を転げ落ちて行くことになるでしょう。それでも良い、という日本人も多いでしょう。国民投票をすれば、こちらが多数派になる可能性があります。「ワン・フレーズ・ポリティックス(複雑な問題の一局面に焦点を当てて社会問題化する技法)」が再び使用されることが懸念されます。それでも、市町村議会、道府県議会ではそうはならないでしょう。そこに、民主主義、政党政治、代議制、議会制、多数決原理などそれぞれの仕組みの微妙な差が現れます。

島々は貴重な、そして重要な国の領土であることを再認識する必要があります。この国土の生業が衰退し、村々が無人化していくことで得をするのはどこの誰でしょうか。

国家存続の根幹にかかわる食糧問題を議論することになると、何をもって「民主主義」と呼ぶのかの基本的問題が問われているような気がします。

(歴山)