よのなか研究所

多価値共存世界を考える

中国も空母で疲弊するか、

2011-09-24 10:03:23 | 戦略

 

                                           Photo (東シナ海に浮ぶ慶良間諸島) 

 

 

しばらく前に中国が空母を持つことになる、との記事が流れていました。これに呼応して日本でも空母が必要だ、との論評も一部に出始めています。中国がアメリカの空母群に対抗しようとするのも無謀ですが、これに日本が対抗しようとするのもまたあまり感心しませんね。

空母の保有が手段から転じて目的化しているような観があります。航空母艦というのが今日の実戦では脆弱な戦闘部隊であることはもちろん、平時でもさほど効果のある存在ではないことは軍事専門家でなくとも知っていることのようです。

戦時となると、潜水艦や対艦ミサイルの格好の標的となります。その大きな図体は護衛艦で守るには限界があります。空母戦闘群は攻めに強いが守りに弱いのです。

空母の利用価値は、平時から相手国の近くに公海上から威嚇を与え続けることであり、それは相手国が攻めてこない、という前提の上にたっているのです。また地域紛争での兵力の輸送や、後方支援活動などでこそ価値が認められるのです。ただし、その大きな存在感は実態とは関係なくその保有国が強力な国家として認められる源泉とはなりえます。つまり「こけおどし」という日本語が当てはまります。西洋風にいえば「トロイの木馬」でしょうか。

 

中国の新華社通信によれば、大連港で改修工事が続けられていたのはソ連時代に建造が始まりながら、ソ連邦の崩壊で宙に浮いていたウクライナ型空母「ワリヤーグ」で、八月に試験航行を行ったようです。中国はこれに続いて独自の空母戦闘群建設を本格化させることになる、というのが報道機関のほぼ一致した解説となっています。おそらく数年以内に国産の航空母艦を進水させ、外洋に出てくることになると予想されます。日本のみならず、南シナ海で領有権と国境問題を抱えているヴィェトナム、マーシア、フィリピン、インドネシアにとっては脅威となります。

これによって中国がいよいよ大国となるか、といえば必ずしもそうとは言い切れないものがあります。むしろ、中国は二十年後には今のアメリカと同様に国家財政が破たんすることになる可能性があります。それほど空母というのは金喰い虫なのです(もちろん空母だけではありませんが)

 

大きな組織に属しているサラリーマンや公務員なら分かると思いますが、5000人規模の組織を動かすのは大変であり、おカネがかかります。それだけの人間が一つの船に乗り込んで仕事をしている姿を想像してみてください。船を運用するのに3000人、航空機を運用するのに2000人は必要とされています。

米会計検査院GAO98年報告によれば、空母の年間の運用費・維持費は平均で通常動力型22250万ドル、原子力空母で29764万ドルとされていました。現在はさらに大きな経費を必要としています。邦貨換算で、ざっと空母一隻で一日一億円かかっていると言われています。国の安全のためなら、おカネは問題ではない、という見方もあります。そう言って、世界の大国を自任する国々が競争して軍事力を拡張してきたのがこれまでの世界でした。

 

ここにきて、アメリカとEUの一部の国の経済破綻が世界の各国に不安を与える事態となっています。先進国と途上国とを問わず自然災害が続いています。加えて日本の原子力発電所の事故は被害が徐々に近隣諸国まで広がってきています。軍備どころの騒ぎではありません。

アメリカの世界での影響力は低下の一方です。パレスチナの国連加盟の動きへのオバマ大統領の説得工作も何ら力を発揮できず、安保理事会で拒否権を行使すると圧力をかけていますが、もはやこれに怖気づく国はありません。

日本政府は中国の軍備増強を抑制する外交交渉に力を注ぐ時なのですが、自国内に巨大な外国軍基地を抱えていては説得力がありません。案外、国民には知らせていませんが、空母群を建造し、外洋で運用する中国の疲弊を待つ作戦なのかもしれません。

日本政府も国民もつねづね「唯一の被爆国」を強調しますが、それなら世界に向けての「軍縮」運動こそが今日の日本の務めではないか、と感じられます。これなら、「核軍縮」を掲げているオバマ大統領政権の政策とも整合性があり、アメリカの顔色をうかがう必要もないのです。現在では、戦争に勝利する国はないのです。軍事産業が唯一の勝者なのです。

(歴山)