よのなか研究所

多価値共存世界を考える

外交と戦略と、

2011-03-08 16:19:22 | 歴史

 

 

 

記憶のある方も多いと思うが、昨年末1222日付けの各紙は、インドを訪問中のメドベージェフ・ロシア大統領とインドのシン首相が会談し、インドとロシアによる次世代戦闘機の共同開発で基本合意した、と報じた。ステルス性に優れた第五世代と呼ばれる戦闘機を「250300機を調達する」方針であり、機体の購入を含めた投資総額は「300億ドル(約25000億円)を超える見通し」という。

共同開発する戦闘機のモデルは、昨年1月に試験飛行に成功したばかりのスホイ社のT50で、両国の間では、インドの調達分をインドで生産する案も浮上しているという。2017年からの実戦配備をめざしているとのことだ。

インドが分離独立以来、長年にわたり当時のソ連と軍事的な結び付きが強かったことは知られているが、近年は対潜攻撃機P-8、大型軍用輸送機C-17などのを米国から調達し、ロシアの影がやや薄くなっていた感があった。

今回の合意でインドの兵器取引では最大級のものに合意し、ロシアが再び攻勢にでたというところだろうか。この動きは米ロの二大国を相手に、バランスをとっていると見ることもできるが、あくまでも主流はロシア、というふうにも見てとれる。インドとロシアとの共同開発には、米国のみならず中国も心中穏やかではおれないことだろう。

高性能戦闘機については、インドと戦火を交えたことのある中国が最新鋭の次世代ステルス戦闘機「殲(せん)20」の試作機を完成させたことが報じられている。同機も2017年に実戦配備と伝えられる。インドは、これに対抗することと中国の協力で空軍装備を近代化しているパキスタンを牽制し、制空権を確保する戦略があると考えられる。

 

インドはビジネスのみならず、政治的にも米国との結びつきを強めてきている。昨年11月にもインド軍は米軍と共同演習を行った。日米印三国の洋上訓練を数回実施しているし、日米印豪の四カ国の枠組みでの訓練も行なっている。

米国は核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドと原子力協定を結び、核燃料や原発用の技術・資材を輸出することを認めた。その後異論が続出する中、NSG(原子力供給国グループ)がインドへの禁輸解除を承認した。NSGのメンバーである日本も結局、NPT未加盟国へ原発用限定との条件付きながら核技術・資材の輸出を認めることとなった。米国同様、それまでの原則を曲げ例外的扱いを容認したこととなる。

 

軍用航空機を複数の国から調達することはシステム管理の煩雑さとコスト高に繋がることは容易に推測されるところである。インドはロシア、米国の他、フランス、イタリア、イギリス、スウェーデンからも軍用機(練習機を含む)を調達している。その結果、訓練・運用の手順・管理方式が複数となり、部品の供給体制が複雑化し、プログラムや各パーツの仕様が異なってくる。スペックの違いは整備士を機種毎に別のチームを組まねばならなくなる。これらはすべて費用の増大をもたらすが、航空機のみならず、あらゆる兵器の国産化を目指すインド政府は、その過程として多くの国と共同開発方針を採っているものと推測される。

これらの短所(デメリット)を承知の上で兵器の複数国からの調達、また共同開発を進めているインドの原理原則はどこにあるのだろうか。

筆者は、それをあらゆる局面で「フリーハンドの保持」を重視するという点に見いだしている。「選択権は常に自分の方にある」、「国の方針を決めるのに他国からの影響は排除する」という政策である。これはまた、伝統的な非同盟・全方位外交を忠実に履行しているということであろう。

 

インドはメドベージェフ大統領の訪問をもって、半年の間に米英仏中ロの国連安全保障理事会常任理事国首脳が全員インドを訪問したことになる。のみならず、十数か国の首脳のインド訪問、またインド首脳の各国訪問が相次いでいる。

インド軍は米国の同盟国と共同訓練をするが、中国・ロシアとも陸空の共同訓練をたびたび行っている。中央アジア諸国を中心とする上海協力機構(SCO)六カ国による軍事訓練にも参加している。同様に同じ枠組みでの閣僚会議にも参加している。

「戦略的パートナーシップ」は日本、中国、米国、ロシア、サウジアラビア、等多数の国と取り交わしている。必要とあらばどこの国ともハイテク、通信、宇宙技術、エネルギー、原子力、軍事分野での協力体制を組むことを意味している。国家としてのリスク・マネジメントでもある。

 

わが国の政治家や言論界の一部には、インドとの軍事的結びつきを強化して中国を挟みこむ、などと公言している人たちがいる。インドの行動をつぶさに見るならば、このような考えが見当違いであることは明瞭である。ましてや、自国が他国との駆け引きに使われるなどの意図にはインドは外交舞台ではともかく、内心では不快感を示しているに違いない。

インド政府は「いかなる軍事協定も締結せず、軍事同盟にも加盟しないこと」をたびたび表明している。アントニー国防相は08年のロク・サバ(下院)で「我々は独立した外交政策を実施している」、「政府はインドの不利益になるような手段は選ばない」と答弁している。インドの「非同盟」策は、地政学にいう「すべての外国は仮想敵国である」(マキャベリ)の現実飯といえるだろう。

「リアリスト」を自任する専門家たちは、この動きを直視しなければならないだろう。

 

その根底にはインドの伝統的な思考を見ることができるのではなかろうか。西暦前に伝統的バラモンの改革運動として登場した仏教、ジャイナ教には「束縛を解いて自由に考え、自由に生きる」考えが繰り返し説かれている。

漢訳された『般若心経』に説かれている「無罣礙(むけいげ)」には、「こだわらない」、「他のものに拘束されない」の意味がある。この後ろに「故無有恐怖(こむうくふ)」と続く。ジャイナ教には、精神の自由を意味する「スヤート」という考えがその基本にあると聞かされた。

外交・防衛に関して日本人が考えるべきことは、<独立した国家>として他国に干渉されることなく<国益を最優先する政策>であることは論をまたない。

 (歴山)                    

(本稿は日印協会HP1月6日に掲載した文に加筆したものです)

 



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