よのなか研究所

多価値共存世界を考える

アメリカを嗤っている場合ではない、

2011-08-13 21:50:14 | 組織

                                                                   Photo(横浜港に係留されている氷川丸)

 

1960年代、多くの若者が外国へ行ってみたいと考えていました。それは高嶺の花であり、なかなか手にすることができませんでした。査証(ピザ)を取得するのに大変な手間がかかり、また外貨の持ち出しが500米ドルに限られていました。つまり、行き先に受け入れる人か会社がないものにはとても実現が困難だったのです。

なかでも当時のアメリカはわれわれの目に輝いて映りました。筆者も高校生の頃アメリカ行きにあこがれた一人でした。いろいろ試みましたが敵わず、実際に初めて外国の地を踏んだのは23歳になってからでした。場所は香港、1969年のことです。横浜港からタイ国バンコックへ向かう貨客船に乗った時の感慨は今も鮮やかに残っています。横浜港の大桟橋からは氷川丸が見えました。この船こそかつての北米航路の花形の船でした。航空便は大変に運賃が高く、われわれの乗り込んだフランス郵船の三等船室には各国からの放浪体質の若者が乗り合わせていました。バンコックにて下船すると、そこから西へ向かってさらに旅をしたものです。

 

アメリカの地を初めて踏んだのはかなり時間が経過して1980年代に入ってからでした。すでにアメリカへのあこがれは薄れていました。特定の国家やその文化に過剰な期待やあこがれを持つことの愚を十分に学習していました。実見するニューヨークもロサンジェルスも、デンバーもワシントンD.C.も日本の都市と大きな違いはなく、アメリカ人たちもそれまで見てきたインドや豪州や中国やヨーロッパや韓国の人と比較して勤勉さにおいて同程度かやや低いと見えたものでした。どの国も大衆は働いて家族を養い、メディアからの情報を得て消費生活を送っていましたが、その中でアメリカ人はまだ世界一の消費生活は維持しておりました。

 

時代は下って、先週アメリカ国債の信用度がワンランク下げられました。為替市場や株式市場は上へ下への大騒動です。なぜか日本の通貨円が上がっています。その昔500ドルを用意できないまま外国旅行に船出したことが思いだされます。その頃のレートで500ドルは18万円であり、新入サラリーマンの年収に近い額でしたが、昨今のレートでは38500円ほどであり、若者が数日のアルバイトで稼げる金額となりました。円の評価が以前が安すぎたのか、今が高すぎるのか、ともかく、為替レートなるもののあやふやさを示しています。ここ数年はアメリカ合衆国へは行っていませんが、全般的に貧しくなっているようですね。「プアー・ホワイト」の比率が高まっているようです。知り合いの米国人も日本に来るのに以前よりも安い航空会社、安い宿泊施設に泊まっています。

 

これからアメリカはどうなるのか、緩慢に国の経済規模が縮小していくことは間違いありません。これまで世界の富の半分近くを一人占めしていたのがむしろ異常だったのです。それは世界の資金を呼び込む魅力とノウハウがあったことよるのでした。同様に、軍事力も緩やかに減らしていくでしょう。外国に駐留している米軍基地は徐々に縮小し、やがて順番に撤退することになると思われます。なにしろ、アメリカの軍事費はながらく世界の軍事費の四割以上を占め、現在も二位の中国の六倍以上もあるのです。こんな状態が長く続くことは不可能ですよね。

 

アメリカがおかしくなりつつある、という声はかなり前からありました。アイゼンハウワー大統領が自分の退任演説で「産官軍共同体」の存在に警告を発したのは1961 年のことでした。その後のアメリカの動きを見ていると航空宇宙産業とエネルギー産業、それに軍需産業のみが経済の牽引車となっていきます。それは現在も続いています。これに輪をかけておかしくなったのは、クリントン大統領時代に ” IT and FT “ と言い始めたころです。つまり、米国の経済成長を支えていくのは、情報技術産業と金融サービス産業である、と言い出した頃ではないかと感じています。みなさんもよく聞く「ヘッヂ・ファンド」、「レバレッヂ」、「デリバティブ」、などが登場し、これらによる疑似経済活動を「格付け会社」や「タックス・ヘヴン」が後押ししました。その結果、乱発された不良債権による破綻が「サブ・プライム問題」であり、「エンロン事件」であり「アーサー・アンダーソン」の倒産であり、「リーマン・ブラザース」騒動であったのです。

 

問題は日本です。円が上がるのは本来は目出度いことですが、輸出を中心とする企業、産業には不利となります。原理的には輸入品目は価格が下がり、産業にも家庭消費にも有利になるはずです。しかし、なかなかそうはなりません。

円が上昇するのは、ひとえに勤勉な国民性にあると言っても過言ではないでしょう。国内にも怠惰な種族が増えたと言いますが、それらはまだまだ少数派であり、総体としての日本は真面目な国です。借金は返済しますし、困った国の国債を購入してその国を支援しています。世界を見渡すと勤労意欲のない人が多数を占める国が多いのですが、その中にあって日本は「優等生」なのです。しかし国の財政は疲弊しています。「既得権益集団」のシステム化された保身と自己増殖の結果なのです。それは「原発」問題で部分的に露見しているのであり、なかなか変革できないことは政権交代でもほとんど排除できなかったことでも証明済みです。政・官・学・産・軍・報のヘキサゴンなどと形容されています。「現場は一流、指導層は三流」と揶揄されています。アメリカを嗤うことはできません。

 

われわれの年代かつてあこがれた米国はもはや存在しません。アメリカと中国によるG2体制がいつまで続くかは分かりませんが、わが国の世界における政治的影響力もまた低下していくことになります。EU、中国、米国、インド、ロシア、日本、ASEAN、アフリカ連合、中南米連合などによる調整機関が経済・金融問題のみならず、国際紛争・外交、政治と社会の安定、健康と医療などの問題を協議していくことになると予想されています。

あの輝かしいアメリカは消滅しても、筆者は今も50年代60年代のアメリカン・ポップスは時々聞いては楽しんでいる一人です。

(歴山)