よのなか研究所

多価値共存世界を考える

兵器のマーケティング

2011-06-01 21:30:04 | 組織

                                                        (空港での哨戒、インド、アジメール)

「マーケティング marketing 」とは、「マーケット market (市場、いちば、しじょう) 」の派生語である。

The Oxford Dictionary, the third edition を引くと、"market"という単語には二つの意味がある。「1. (n.)モノの売り買いのために人々が参集すること、またその場所、2. (vi.)市場あるいは他の場所にてモノを売り買いすること」ということである。

経済活動の発展・拡大に伴って、より積極的にモノ(財貨、サービス)を売っていこうという動きが自然と高まり、生みだされたのが「マーケティング」という考えだったようだ。特に1920年代以降のアメリカで発展してきたといわれる。それはモノを作る側、すなわち供給側の視点に立っている。端的にいえば、営利企業がより多くの利潤を生み出す技法である(もちろん非営利企業・団体、NGOなどもその主体となりうるが)。

教科書的に書けば、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動」ということになるようだ。そのためには、モノを買う側、消費者側の購買行動やそこに至る心理を十分に分析することから始まる。しかし、やがてモノが世の中に溢れるようになると、「売り込み」つまり、相手が必要としていないものをも売る、ということになっていく。つまり、「無駄なモノを売れ」、「役に立たないモノでも売り捌いてしまえ」、さらには「買ったものを使わずに捨てさせよ」という風に段階的に発展してきた、ということのようである。

「マーティング」行動を分析すると次のようになる。

1. 売りたいものを考える。 

2. それを供給できる時期、地域を想定する。買わせる相手(ターゲット)を見つけだし、その特性を調査分析する。それを相手に知らしめ、買わせる動機づけ、また購入の理由づけを考える。

3. 試作品を一部マーケットでテスト販売して可能性を検証する。

4. マーケット・テストを経て実施計画を立てる。流通体制、販売拠点を確立し、広報、PR、広告、プロモーション、宣伝、ロビーイング、プロパガンダなどのプランとそれに必要な文言、表現、そしてそれ乗せる媒体を用意する。

5. これを実行する。そのために必要な資材(人材・資金、物資、情報など)を用意し、惜しみなく注入する。

6. 販売が当初の目標を達成すれば、さらなる上乗せをして次なる目標を立て、周知徹底させる。

7. 販売したモノ(財、サービス)のアフターケアアが必要であるが、なるべく出費をおさえる。

8. 本社における在庫は、別の地域で廉価販売するか、廃棄処分する。

9. 次の製品開発を進める。

現代資本主義経済の中では規模の差はあれ、これらの活動が繰り返されている。もちろん違法な行為はとがめられ、また罰せられる。しかし、製品・サービスの多様化、複雑化、デジタル化、などが級数的に拡大し、反社会的行使をなす企業や個人が後を絶たない。

さて、問題は兵器である。2010年調査では、世界の国で軍事費の金額の多いのは以下の通りである(SIPRIスウェーデン国際平和研究所リポート)。

1) アメリカ、2) 中国、3) イギリス、4) フランス、5) ロシア、6) 日本、7) ドイツ、8) イタリ―、9) サウジアラビア、10) インド

軍事費の多寡がそのまま軍事力と比例するのではない。しかし、兵器の開発にかける金額もこの順位と大きく離れてはいないだろう。何と言っても最大の兵器開発を行っているのはアメリカである。軍事費は二位の中国の六倍以上であり、世界の軍事費合計の42.8%をアメリカ一国で使っているのである。それゆえ、新製品が次々と登場してくる。新製品はテストする場を必要とする。その中には非人道的兵器されているものが混じっている。たとえば、小型地雷である。人間の片足を吹き飛ばすが死には至たらしめない。同僚がこの兵士を救助に向かう間に彼らが狙撃の対象となる。また周辺地域の子供が大勢被害に合う事態を引き起こしている。小型地雷の大量生産国である米・ロ・中は今もその禁止条約に批准していない。近年の事例で言っても、1967年に実戦配備のナパーム弾、1999年にイラクで使用された劣化ウラン弾、2001年にアフガンで使用された燃料気化爆弾、2003年のMOAB爆風爆弾、2006年のJDAM精密誘導爆弾などがある。

テスト・マーケティングで効力を発揮した兵器は製造ラインに乗って大量生産される。しかし、その間に実戦がないか、あっても使用の機会が少ない場合は倉庫でただ老朽化していく。古くなった兵器を解体するのは大変な資金と労力と、またその場所を必要とする。それゆえ、廃棄処分するよりも、別の戦場で使用する誘惑にかられる。かくして、世界中の多くの国に投下されたクラスター爆弾の不発弾、劣化ウラン弾の破片が放置されたままとなっている。

兵器のマーケティング活動は国家を対象として繰り広げられる。日本の次期主力戦闘機F-Xの機種選定が進められているが、国益に沿って、また費用対効果に沿って選定される事を期待したい。現在、ヨーロッパ勢対アメリカという構図になっているようである。これこそまさに広報、PR、広告、プロモーション、宣伝、ロビーイング、プロパガンダの総合格闘技の様相を呈していることだろう。

世界はいずれ食糧問題、水不足、天然災害、新型病原菌などによる被害に疲弊し、連携してこれらに対応するようになるだろう。「軍縮」という言葉が現実味を帯びるのはそれまで待たねばならないということだろうか。

(歴山)