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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(39)

2021-07-18 19:05:34 | 「大魔人」
 ガオオウー――……

 という獣の叫び声と共に、波打つ道路から、車が飛び上がった。
 宙に舞い上がった車は、波打つ道路の頂点から頂点へと、弾むように飛び跳ね、待ち受けるサングラスの男に向かって行った。
 サングラスをかけたイヴァンは、車が宙を跳ねるように前に進んでくるのを見ると、両手を打ち鳴らしながら立ち上がり、大きく腕を広げた。
 と、波のようにうねっていた道路が、太い柱のように姿を変え、次々と空高く立ちのぼりはじめた。跳ね飛んでいた車は、柱のようになった道路に突き上げられ、はじき戻された。
「なんてこった」と、ニンジンは、車の天井を手で押さえながら言った。「今日は、よくひっくり返る日だぜ」
「キャー」と、恵果がたまらず悲鳴を上げた。「もういや。ここから出して。誰か助けて」
「落ち着け」と、真人が言った。「あいつらは、俺達を苦しめてるだけなんだ。黙っていれば、手出しはしないはずだ」
「意味がわからねぇ――」と、ニンジンはなにか続けようとしたが、逆さまになって道路に落ちた車が、ぽよーんと、また宙に跳ね上がった。
「くそっ。人間をピンボール扱いしやがって」と、逆さまになったニンジンが言った。「手出しはしないって言うけどな、これじゃ逃げることもできないだろ」
 ――また、あの絆創膏を使うのか。と、ニンジンは目を回しながら言った。
「ああ。出口がわかれば、すぐにでも使って、派手な大穴を開けてやるさ」と、真人が言った。
 三人を乗せた車は、ゆらゆらとした円柱に次々と弾かれ、行方のつかめないボールのように、跳ね続けていた。
「強がりもいいけどな。もう残り1枚しかないんだろ」と、ニンジンが言った。「それって、Kちゃんが一緒だと、効果が発揮できないんじゃないのか」
「そんなわけあるかよ。俺様を誰だと思ってるんだ」と、真人が言った。
「――いい加減にしろって」と、ニンジンは言った。「まどろっこしいことしやがって。そんなに簡単なら、さっさと使ってるはずだろ。Kちゃんはもう限界だ。サングラスのあいつにガツンと抗議してくるから、その隙になんとか車を立て直して、この異空間から脱出しろよな」

「おまえ、なにする気だ――」と、真人が言った。

 ニンジンは、真人が言い終わるより早く、運転席のドアを開けると、足元を見定める暇もなく、車から振り落とされた。
「ニンジン!」と、恵果が見ると、ニンジンは柔らかな道路の上にぱたりと落ちて、大の字に伸びていた。
「なんてこった」と、真人が唇を噛んだ。「――だが、無駄にはしないぜ」
「――いや」と、恵果が言った。「探偵さんを置いて、逃げられない」
「サングラスの男の狙いはおまえだ」と、真人が恵果に言った。「おまえさえ出て行かなければ、手出しはしないさ」
 ふらふらと立ち上がったニンジンが、そばに落ちていたなにかを手に、イヴァンに向かって行った。
 イヴァンは駆け寄ってくるニンジンを見ると、片手を前にかざし、なにかを口ずさんだ。
 道路に触れていたイヴァンの手が離れると、森のようにそびえ立っていた円柱が、明らかにその数を減らし、もとの道路に姿を変えた。車が一台、十分に走れるほどの道路が、復活していた。
 ぐらりぐらりと揺れていた車が、やっとの事でバランスを取り戻した。

 ガオオウー――……

 と、エンブレムのジャガーが、すかさず雄叫びを上げた。
 道路の遠い先にある空間が、力なく垂れ下がった壁紙のように、ぺろり、と大きくめくれ上がっていた。遠くて、はっきりとは分からなかったが、トンネルのように穴の開いた空間は、車1台くらい、余裕で通り抜けられそうだった。
「見つけたぜ。あそこが風穴だ――」と、真人が、どっしりと助手席に座り直しながら言った。「行けっ、全速力だ」

「――だめ」

 と言って、後部座席のドアを開けた恵果の腕を、振り返った真人が、あやうくつかみ止めた。
 なにしやがる――「このスピードで外に飛び降りたら、無事じゃいられないぞ」と、真人が目を剥いて言った。
 周りの景色が間延びして見えるほど、車は速度を上げていた。
 車は、木製のハンガーを持ったニンジンが、小山のようなイヴァンに立ち向かっていく姿を横目に、走り抜けていった。
「探偵さん!」と、閉じられたドアの窓に手をあて、恵果が叫んだ。
 と、スピードに乗っていたはずの車が、キキキキーッと、横向きに大きな半円を描いて、急停止した。
「――」と、恵果は、はっとして真人を見た。
「ふん。俺はなにもしちゃいない。この車が、勝手に判断したんだ」と、真人はつまらなさそうに言った。「人間みたいに考える機械になんて、しなきゃよかったぜ」
 俺の考えじゃないからな――と、真人は念を押すように言った。
 振り返った車は、追い越したイヴァンに向かって、ぐんぐんと加速しながら向かって行った。
 イヴァンに打ちかかっていったニンジンは、いともやすやすと身をかわされ、仰向けに転ばされていた。
 二人の間に車が割って入ると、イヴァンは波打つ道路を利用して後ろに避け、距離を取った。




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